カテゴリーアーカイブ:行政

文化庁の京都移転

2023年6月7日   岡本全勝

5月22日の朝日新聞文化欄「文化庁の京都移転を考える

井上章一・国際日本文化研究センター所長の発言から。
・・・私個人としては、文化庁の方々に、ややお気の毒だなという印象です。移転は地方創生事業の一環ですが、文化庁は様々な文化、芸術を担っており、東京のほうがメリットが大きいと言い続けました。移転が決まり、職員が何を思っているか。「なんで自分たちだけが都落ちしなければならないのか」という魂の叫び声が聞こえてきます。
京都側も抵抗したことがあります。京都は地方ではない。地方という言い方を変えてくれと。そういう京都側と、地方創生目的で移転した文化庁が、うまく折り合いをつけられるとは思えませんが、来てしまったので前向きに考えなければなりません。

霞が関の役人は、すべてを書類で判断します。京都では、文化が営まれている現場を目にして頂きたい。その楽しさ、おもしろさに目覚めてほしい。そうすれば、書類だけで動く霞が関文化が変えられるかもしれません。外交的な場での武器にもなるはずです・・・

河島伸子・同志社大学教授の発言から。
・・・文化庁の京都移転が「関西の活性化にどうつながりますか」とよく聞かれますが、京都の応援や関西の活性化のために文化庁が来たわけではありません。一番大事なのは、地方の視点を持つということです。
公演や展覧会といった文化のイベントや施設は、東京に集中しています。それぞれの地方に豊かにある文化への目配りが、今まではどうしても薄かったと思います。京都に移ることで、文化庁の職員も「地方都市とはこういうことか」と実感を持ってわかるのではないでしょうか・・・

孤独がもたらす健康被害

2023年6月5日   岡本全勝

5月22日の日経新聞、アンジャナ・アフジャ、ファイナンシャルタイムズ・サイエンス・コメンテーターの「孤独がもたらす健康被害」から。

・・・英シェフィールド・ハラム大学の孤独研究センターの責任者アンドレア・ウィグフィールド教授は孤独と社会的な孤立は違うと指摘する。後者は一人暮らしかどうか、友人や家族はいるかといった客観的指標で判断する。一方、孤独は社会的な結びつきが不足していると各人が主観的に認識する感情だ。
マーシー氏は孤独が1日あたり15本の喫煙に相当すると断言する。この驚きの数字は148件の研究結果を対象にした2010年のメタ分析で証明された。これにより年齢、性別、基礎疾患などにかかわらず、社会的な結びつきが強い人は弱い人に比べ生存率が50%高いことが結論づけられた。同時に、孤独は死亡に関し運動不足や肥満より上位のリスクファクターに位置づけられ、喫煙や過度な飲酒と並んだ。
英イングランド高齢化縦断調査(ELSA)でも、同様の残念な結果が明らかになっている。02年に始まったELSAは50代以上の住民数千人を対象とし、健康状態、体重、収入、社会的活動について2年間隔で追跡調査をしている。その結果、孤独や社会的な孤立とうつ病、認知症、心臓発作、心身の衰弱などの間に関連性が見られた。

相関関係を因果関係と解釈できるだろうか。人類が社会的動物として進化する過程で、仲間と一緒にいたいという根源的な欲求が備わったという説がある。欲求が満たされないと精神的なストレスとなり、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌量が増えるなど生理現象が誘発される。ウィグフィールド氏は孤独感が「闘争・逃走反応」を引き起こし、炎症や白血球の増加を促しているようだと説明する。
ELSAを統括する英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのアンドリュー・ステップトー教授は「社会的に孤立し孤独を感じる人は喫煙、運動、食事などの面で生活習慣が不健康になりがちだ」と強調した。
国民全体の健康増進に向けて孤独の対策を打つ必要性は明確で、孤独感が慢性化する前の取り組みが理想的だ。
英国で孤独問題に取り組む団体は手始めに近所の人に挨拶することを勧める。共通の趣味や関心を持つグループも仲間との交流の機会を提供してくれる。他人の手は借りたがらないが、他人に手を貸すことはいとわない男性にはボランティア活動がいいという・・・

高齢者向け地域食堂

2023年6月3日   岡本全勝

5月17日の日経新聞夕刊「シニアの食堂で高齢者の孤立を防ぐ」から。

・・・一人暮らしで食生活に悩んでいます。1人で食べるのでは料理に張り合いがなく、出来合いの弁当や総菜を買って済ませてしまいます。栄養を考えた食事を、誰かと話をしながらとりたいです。シニア向けの地域食堂があると知りました。どんなところでしょうか・・・

・・・「これがいまの私の生きがいなの」。東京都内で一人暮らしをする上山美沙子さん(85)は4月、練馬区の一軒家を会場に月2回開かれている高齢者向けの地域食堂「食のほっとサロン」を訪れ、生き生きとした表情で話した。
食堂には地元のお年寄りが集い、食卓をみんなで囲む。運営するNPO法人ハッピーひろば(同区)が1食あたり600円で提供している。
調理スタッフが作るこの日のメニューは、宮城県産モウカザメのピカタ、新じゃがいもをつかった肉じゃがなど。上山さんは仲間と世間話をしながら食べるお昼ご飯を何よりも楽しみにし、食後は近所のカフェに移動して長話にふけるのがお決まりだ。「私は皆勤賞よ」と笑う。

国勢調査(2020年)によると、50歳時点の未婚率は男性で3割弱、女性で2割弱だった。未婚率は上昇傾向にあり、高齢者の単身世帯率も上がっている。65歳以上の全世帯に占める単身世帯の割合は、00年に約20%だったのが20年には約30%となった。
単身高齢者の増加に伴い課題となるのが、栄養不足や孤立だ。1人だからと同じものばかりを食べると栄養が偏り、食事を通じたコミュニケーションが減ることが心身の不調につながる要因にもなり得る。

こうした問題の解決策として、高齢者向けの地域食堂が注目されている。各地に先駆けて17年から「シニア食堂」として取り組みを始めたのが、千葉県流山市のNPO法人東葛地区婚活支援ネットワークだ。
現在は流山市で、月に1度のペースで料理交流会を開く。50人以上の登録会員がおり、毎回30人ほどが料理交流会を訪れる。料理が得意なボランティアがレシピを持ち込み、訪れた高齢者はグループに分かれて調理し食べる。孤食を防ぐとともに、あまり料理をしたことがない人でも自炊できるようになる「食の自立」の後押しも活動目的の一つとする・・・

アメリカ政府の経済戦略

2023年6月1日   岡本全勝

5月18日の日経新聞オピニオン欄、小竹洋之コメンテーターの「オブラートに包む米国第一」から。

・・・米バイデン政権が「ニュー・ワシントン・コンセンサス」と称される経済戦略の理論武装に躍起だ。安全保障の強化、成長の促進、そして温暖化の防止を目指し、政府が繰り出す産業・通商政策などのパッケージである。
サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)やイエレン財務長官が4月の講演で体系化し、国内外で話題を呼んだ。19〜21日に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、バイデン大統領が要諦を説くという。

1989年の冷戦終結後に普及したワシントン・コンセンサスは、市場の機能を尊ぶ「小さな政府」の政策体系だ。米政府と国際通貨基金(IMF)・世界銀行が推奨し、経済運営の手本として長く影響力を行使してきた。
しかし産業の空洞化、地政学上の競争、気候変動、格差の拡大という4つの課題に直面し、「新たなコンセンサス」が求められているとサリバン氏は説く。国家の介入を重んじる「大きな政府」の政策体系への転換である。
市場の「見えざる手」をつかんでは持ち上げるかのごとく、政府が進路を指示してきた――。米経済学者のスティーブン・コーエン氏らは2016年の著書に、市場ではなく政府こそが米国を繁栄に導く主役だったと記した。
新コンセンサスの哲学は、その延長線上にある。同時に「米国第一」の野心をオブラートに包み、トランプ前政権より穏当な経済ナショナリズムや保護主義を正当化するための方便でもある・・・

記事には、旧ワシントンコンセンサスの10政策と、新しいワシントンコンセンサスの5分野が表になって載っています。
自由主義、市場経済主義のアメリカが、このような形で政治が経済を主導します。

防衛議論

2023年5月30日   岡本全勝

5月17日の朝日新聞オピニオン欄「生煮えの防衛論議」、黒江哲郎・元防衛事務次官の「国守る覚悟で、具体的な対案を」から。

――防衛論議が生煮えだと思いませんか。
「議論が深められたかといえば、必ずしも深められていないと思います。残念です」

――残念とは。
「国家安全保障戦略の見直しは、1年前に岸田文雄首相が明らかにしていて、国会議員もメディアもわかっていた話です。政府のヒアリングもあって、論点や意見が公表されています。反対なら反対で、考え方をまとめ、論拠を示して議論すればいい。それなのに、国会では『政府が何も答えない』というところで議論が止まっている。これは非常に残念です。この国際情勢でどうやって国を守るのか。具体的な対案を示さなければ議論が成り立ちません」

――対案を出す前提として、情報提供が不十分なのでは。
「私は十分だと思います。当然、秘密は出せませんが、公表できる情報は出しているし、説明もしている。そもそも野党の一部は、本格的な議論をする気がないんじゃないですか。質問だけして、『政府が悪い』という印象づけをしている。政策論議になっていません」

――賛否はともあれ、具体的な議論をしてほしい、と。
「防衛力強化への反対論には『では、どうするんですか』と聞いてみたいんです。かねて、日本の防衛論議は『分断』の典型で、交わらない前提で批判されることが多い。いくら説明しても聞いてもらえず、むなしくなります。防衛費も増やさず、反撃能力も持たずに、どうやって国を守るんですか。本当に対案があるなら、教えてほしい。きちんと論証し、議論を深めてもらいたいと思います」