カテゴリーアーカイブ:行政

親から連鎖するスポーツやボランティア

2023年9月2日   岡本全勝

8月17日の朝日新聞夕刊に、「体験「格差」、親から連鎖 スポーツやボランティア、年収だけでなく」が載っていました。

・・・音楽やスポーツ、美術鑑賞などの体験活動に参加していない子どもの保護者もまた、幼少期にそうした経験が少なかったことが、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(CFC、東京)の調査で分かった。世代間で「体験格差」が連鎖している実態が浮かび上がった。

調査は昨年10月、インターネット上で行い、小学1~6年の子どもがいる世帯から2097件の回答を得た。スポーツやピアノなどの習い事や、キャンプやボランティア、観劇といった単発での体験などをまとめて、学校以外の時間に行う「体験活動」と定義した。
世帯年収で比べると、年収300万円未満の家庭の子どもは、3人に1人が直近1年で体験活動を何もしていなかった。年収600万円以上の世帯では約10人に1人だった。

低所得世帯の中でも、「親の経験の有無」で大きな差があった。世帯年収300万円未満で、保護者が小学生の頃に体験活動に参加していなかった家庭では、直近1年以内に体験活動がなかった子どもの割合は58・1%にのぼった。保護者に体験活動の経験があった家庭では、17・4%にとどまった。
世帯年収と保護者の幼少期の体験活動についても調べた。小学生の頃に体験活動をしていない保護者の割合は、年収が高くなるほど少なかった・・・

これは、私の体験からも、実感します。

子ども医療費の無償化の効果

2023年8月31日   岡本全勝

8月11日の日経新聞オピニオン欄、渡辺安虎・東京大教授の「データが語る子育て支援のワナ」から。

・・・子育て支援策のうち、この25年ほどで一気に広がったのが子ども医療費の無償化だ。一定年齢までの子どもについて、健康保険でカバーされない2割や3割の自己負担分を市区町村や都道府県が負担し、実質無償で医療や薬を受け取れる政策である。
子ども医療費の無償化は国ではなく自治体レベルで行われてきた。当初はごく一部の市区町村で就学前までの医療費が無償化されていたが、この20年ほどで多くの自治体に広がった。2021年時点で半数弱の自治体が高校生まで、残りの半数弱も中学生まで無償化されている。就学前までのみ無償化の自治体は非常に少なく、助成対象の年齢の引き上げが続いている。

この政策はどのような効果をもたらしたのだろうか。実は無償化政策のデータに基づく効果検証を、政府はこれまで実施していない。
東大の飯塚敏晃教授と重岡仁教授は、市区町村レベルでの無償化の状況の推移データを作成した上で、患者レベルの治療の経過がわかるレセプト(診療報酬明細書)データと結合して政策効果を推計する論文を発表している。
結果は予想される通り、子どもにかかる医療費が増加していた。さらに健康な子供の受診回数が増え、不要な抗生物質の処方や、緊急性が低いのに救急外来を利用する「コンビニ受診」も増えていた。他方、無償化の効果については、死亡率や入院確率に変化はなく、成長後の健康状態にも影響がなかった。

つまり医療費の無償化は子どもの健康状態を特段改善しないにもかかわらず、過剰な医療費支出を生み出しているわけだ。将来的な財政負担を増やす非効率な政策はどのように広がったのだろうか。
重岡氏と筆者との共同研究からは、この政策が自治体の選挙を通じて広がってきたことが判明した。さらに単に選挙のタイミングで広がるのではなく、周囲の市区町村より無償化の対象年齢が低い選挙の場合に広がっていた。
首長が選挙への影響を恐れて周囲の市区町村に追いつこうとし、非効率な政策が地理的にどんどん広がる構図が読み取れる。前回選挙で対抗馬がいたり、首長が多選であったりする場合に特にその傾向が強い。

より大きな問題は、このような分析を政府が行っていないことだ。異次元の少子化対策は新たな挑戦であり、間違いや失敗が生ずることは避けられない。であれば、事業費の0.1%でよいのでデータに基づく政策改善のための予算を確保するなど、政府が改善を進められる体制を整えることが重要だろう・・・

傷ついた心を支える、苦手な日本

2023年8月30日   岡本全勝

8月10日の朝日新聞オピニオン欄「心のケア、苦手な日本」から。詳しくは本文をお読みください。

心のかたちは、世界広しといえども同じ。でも、日本社会で心を支え合うのは、とても難しい――。国内外の紛争地や被災地で、傷ついた心のケアを約30年間にわたって続けてきた、精神科医の桑山紀彦さんがたどり着いた結論だ。「トラウマは人生を変える資源」とも説く桑山さんに聞いた。なぜ日本では、心を支えにくいのか。

――そもそも、トラウマとは何ですか。
「トラウマとは、いわば凍りついた記憶と感情です。心に刻印されたそれは、決して消え去ることはありません。何度もよみがえり、そのたびに苦しくなる。時間が経てば軽くなるものでもありません」
「ただ、私は、トラウマは『資源』だと考えています。トラウマはバネになる。人生を変える起点にできる、ということです。そのために大切なのは、つらい記憶をなかったことにしないことです」

――トラウマに向き合うには、専門家の力が欠かせないのでしょうか。
「受けたトラウマが非常に強烈なものだったり、適切な対処がされずに悪化したりしてしまえば、もちろん精神科医や臨床心理士など専門家の力を借りる必要があります。でも、私の体感では、そういうケースは全体の15%ほど。残りの85%は、社会のなかで癒やせる。周囲の力を借りることで、傷と向き合えるようになります。文化や言語が違っても、『心の形』や回復の過程は、世界中どこでも同じです」
「ただ、いろんな国で活動してきて唯一、心のケアが難しいと感じた国があります」

――どこですか。
「日本です」
「11年の東日本大震災の時を例に、お話しします。震災の3カ月後、被災地の学校に招かれてPSSのプログラムをやろうとしたのですが、難しかった。教員のみなさんから、『子どもたちをあんなおそろしい経験と向き合わせるなんて、ありえない』『子どもが不安定になったら、どう責任をとればいいんだ』といった、激しい反発が出ました」
「彼らを責めたいわけではありません。こういう反応が起こるのは、日本の社会がずっと、トラウマを『触れてはいけないもの』として扱ってきたからでしょう。結果的には、場所を学校から避難所に変えることで、プログラムは無事に実施できたのですが」

――「心の形」には国による違いはないのに、日本が向き合えないのは、なぜでしょうか。
「トラウマから回復するステップは原因が紛争でも自然災害でも同じです。ただ、うまくいくかどうかに差が出るのが、先ほどお話しした『社会との再結合』です」
「日本では、心に傷を負った経験が『恥ずかしいこと』だと捉えられがちです。本人も表明を避けますし、周囲も『触れてはだめだ』という態度を取る。例えば、『胃潰瘍(かいよう)で体調が悪い』と言うのと、『トラウマで苦しんでいる』と言うのとでは、社会からの受け止めが大きく違います」

――日本以外の国でも、違うのではないですか。
「こう説明しましょう。日本社会では、『心に傷がないのが良いことだ』という意識と、『みんながそうあるべきだ』という意識がセットになっている。トラウマは本来的にマイノリティーの体験ですが、どんな人でも抱える可能性があります。にもかかわらず、日本では『マジョリティーでなければまともじゃない、恥ずかしい』という意識が、強く働いているように思います」

全国こども食堂支援センター・むすびえの受賞

2023年8月28日   岡本全勝

このホームページでもしばしば取り上げ、新しい公共の形として紹介している「全国こども食堂支援センター・むすびえ」が、ジャパンタイムズの「Sustainable Japan Award Satoyama部門 審査員特別賞」を受賞しました。この賞は、先進的で持続可能な取組みを行った企業・団体・個人を表彰し、その活躍を国内外に伝えていくことを目的にしています。

受賞理由は、次の通り。
「2012年の設立から11年目の今年、こども食堂は全国に広がり7300箇所を超えている。「むすびえ」が目指す子ども食堂は、子どもだけでなく誰もが来られる地域の居場所として認知され、地域を大きな網で包むことで、子ども食堂を媒介に誰もがとりのこされない、誰かと繋がれる社会を作る、そんな役割を担う。また、こども食堂と地域のステークホルダーを結びつけることで支援の範囲を広げ、個々の食堂を持続可能な存在としている。また食堂運営者がアクセスしにくかった助成金や寄付などの情報の共有に加え、行政や社協、これまで社会活動に関与していなかった企業までを巻き込むことで、子どもを地域全体で支えるという「社会的な大きなうねり」を生み出している。」

この活動が広く知られることを期待しています。

警察の縦割り弊害解消

2023年8月22日   岡本全勝

8月5日の読売新聞解説欄に「警察の縦割り 弊害解消へ 運営新指針を公表」が載っていました。

・・・警察庁が7月、都道府県警に対し、組織運営の新たな指針を示した。SNSの「闇バイト」対策などを盛り込んだ。昨年7月の安倍晋三・元首相銃撃事件をきっかけに、問題となった要人警護だけでなく、全ての部門で社会情勢の変化に応じた見直しを進めていく方針だ。

警察庁が全部門にわたり具体的な業務内容を示して都道府県警に組織運営の指針を示すのは初めてだという。警察庁の露木康浩長官は7月6日の記者会見で「情勢の変化と組織の現状を分析し、警察力の最適化を図る」と説明した。
安倍元首相銃撃事件では、都道府県警が作成する警護計画を警察庁がチェックする仕組みになっていないなど、「安易な前例踏襲」が明らかになった。警察業務は元々、パトロールや交通取り締まりなど日々の繰り返しが多い。各部門で同様の前例踏襲による弊害が生じていないか――そうした問題意識で、指針が策定された。
新指針は、〈1〉部門を超えた人的資源の重点配置〈2〉能率的な組織運営〈3〉先端技術の活用〈4〉働きやすい職場環境――からなる。

このうち〈1〉では、組織内に残る「縦割り」による弊害の解消に重点を置いている。
都道府県警ではこれまで刑事、生活安全、警備、交通など部門ごとに課題に対処してきた。殺人が起きれば刑事部門が捜査を行い、防犯対策は生活安全部門が担う。テロであれば警備部門の担当だ。
だが近年、SNSの普及や暗号資産、ドローン、AI(人工知能)といった技術の発展によって社会が大きく変容し、縦割りでは対応しきれない事象が増えている。
例えば、SNSで強盗や特殊詐欺などの実行役を募る「闇バイト」では、互いに名前も知らない者同士がSNSでつながり、事件ごとにメンバーを替えながら犯罪を繰り返す。組織犯罪の側面を持ちつつも、暴力団など旧来の犯罪組織とは明らかに異なる。
各地の警察には犯罪集団の解明に当たる組織犯罪対策部門があるが、闇バイトについてはこれまで捜査は刑事部門、SNS対策はサイバーを担当する生活安全部門などとバラバラに対処してきた。
そこで、新指針ではSNSなど緩やかな結び付きで離合集散を繰り返す集団を「匿名・流動型犯罪グループ」と定義し、組織の解明と捜査を担う専従班を都道府県警に設置する。部門をまたいで捜査に参加し、闇バイト犯罪の撲滅を目指す。

組織に属さずにテロをもくろむ「ローン・オフェンダー(単独の攻撃者)」についても、部門間の連携を強化する。刑事部門の捜査や、地域部門の巡回などを通じて危険性のある人物の情報を入手した場合に、警備公安部門に集約する仕組みを取り入れる。
警察庁幹部は「闇バイトやローン・オフェンダーによる脅威は国民の『体感治安』の悪化に直結している。全部門の人員を活用して対策に取り組む」と話す・・・