カテゴリーアーカイブ:行政

公文書館、憲法の展示

2017年4月22日   岡本全勝

国立公文書館で、春の特別展示「誕生日本国憲法」を見てきました。
今回の「売り」は、日本国憲法の原本が展示されていることです。いつもは、複製が展示されています。現憲法が、どのような過程をたどって制定されたか。内閣、GHQとの関係などは、学校でも習いますが、その記録が展示されています。
それらの解説は、展示と図録(これはよくわかります)をご覧いただくとして。私が興味を持ったのは、次の点です。

昭和21年3月4日、GHQから日本側に草案を早く出せと督促があり、松本烝治大臣と内閣法制局幹部が草案を持っていきます。説明の過程で、どうやら腹を立てた松本大臣が帰ってしまい、佐藤達夫・法制第一部長がその場で草案を英訳し、逐条審議します。松本は1877年生まれ、当時69歳。佐藤は1904年生まれ、当時42歳で元気があったのでしょうね。
占領軍対敗戦国。対等な議論にはなりません。しかも、天皇制を廃止し、民主主義への大改革です。彼らの苦悩は、察するにあまりあります。そして、当時は食糧難、食糧メーデーは、昭和21年5月のできごとです。きっと、お腹をすかせて、占領軍に説明したのでしょうね。

2月15日付けで、白州次郎がホイットニーに送った、英文の書簡があります。そこに、絵が描いてあります。占領軍が求める目的地と、日本が考えている目的地は同じである。しかし、占領軍は飛行機で一足飛びに目的地にたどり着こうとするのに対し、日本はいくつもの山の間をあたかもジープに乗って乗り越えて進むのだというのが、絵で描かれているのです。
国内の政治情勢から、そんなに簡単に憲法改正が進まないことを、理解してもらうべく、書かれたものでしょう。長々と文章を書くより、この方が効果があったのではないでしょうか。もちろん、文章でも、改正を進める際に何が問題で何が必要かを述べているのですが。

天皇の文書が、漢字カタカナの文語体から、漢字とひらがなの口語体になります。文章の最初の字が一画下がり、句読点が打たれるようになります。そして、「朕」が「わたくし」になります。
驚くのは、それら原本の紙の質の悪さです。物資が不足していたことを物語っています。即物的な感想ばかりで、申し訳ありません。

入場料無料、5月7日までです。皇居のお堀の桜は八重桜がきれいです。皇居東御苑(江戸城本丸跡)も見どころです。ここは案外知られていない、観光名所です。ここも無料。公文書館の前の平川門が便利です。帰りは大手門から出れば、東京駅にも近く、良い散歩コースです。一緒にご覧ください。

『地方財政改革の検証』

2017年4月20日   岡本全勝

橋本恭之・関西大学教授が『地方財政改革の検証』(2017年、清文社)を出版されました。
2000年代に「三位一体の改革」と呼ばれる、地方税財政の大きな改革が行われました。国庫補助負担金の廃止削減、国から地方への税源移譲、地方交付税の見直しの3つです。3つの改革を一緒に行うことから、「三位一体の改革」と呼ばれました。このホームページでも、詳しく「実況中継」しました。もう15年も経つのですね。

この本では、「地方税改革」「地方交付税改革」「国庫支出金改革」「財政再建」の4部構成で、三位一体改革やその他の改革について検証しています。
本格的な「改革の検証」は、これが初めてではないでしょうか。政治家も役人も、「やったやった」と言いますが、その検証は十分にはされないようです。国会でも、予算委員会は花形なのに、決算委員会はそれほどでもありません。マスコミも、先生が「はしがき」で書いておられるとおりです。
と思って読んでいたら、私の名前まで出していただきました。恐縮です。

日本の公務員の質は

2017年4月16日   岡本全勝

4月8日の日経新聞読書欄に、真渕勝・立命館大学教授(京都大学名誉教授)が「日本の官僚、公務員の質は。行政サービスは効率的か」を書いておられます。
・・・キャリア官僚は近年、何かにつけて批判の的になっている。
筆者が大学生であった40年ほど前、キャリア官僚がやり玉にあげられることはまずなかった。多くが東京大学を優秀な成績で卒業していることを知ってか、国民は畏怖の目で見ていた。この傾向は「官尊民卑」という「前近代性」の現れとして指弾されたこともある。官僚バッシングが「国民情緒」に指示される現在、悪しき伝統は完全に打破されたかに見える。
それにしても評価の振れ幅が大きい。もっと距離をとって眺めることはできないものか・・・

・・・日本の公務員は数が多く、能率が悪いと指摘されることがある。まず、前段は「都市伝説」である・・・政府が毎年度発表する「公務員の数と種類」における公務員数は約338万人(2016年度)、人口千人あたり36.2人である。この数字には、独立行政法人や特殊法人の職員、国立大学法人の教職員も含まれている。他の先進国の人口千人あたりの公務員数はフランス89.1人、英国69.3人、米国64.1人、ドイツ60.4人であるから、日本は5か国のなかで、最も「小さな政府」に当たる・・・

(反対の主張を紹介した後で)・・・ここでの論点は、公務員数が相対的に少ないとしても、それはただちに行政の効率性の高さを意味するわけではないという厄介な現実があることである・・・
ごく一部を紹介したので、原文をお読みください。

先生がご指摘の通り、高い評価から批判の的へと、日本の官僚は尊敬を失いました。それだけの理由はあります。求められている機能を果たしているか、日本社会の問題を適確に解決しているかという機能論とともに、官官接待や権限を利用した天下りという倫理面からの問題によってです。
としても、官僚も公務員もなくすことができない職業です。では、どのように改革したら、国民の期待に応えることができるか。私の職業生活と研究テーマは、これを追求してきました。かつて連載していた「行政構造改革ー日本の行政と官僚の未来ー」もこれを考えていたのですが、総理秘書官になって中断しました。慶應大学での講義では、このテーマに再度取り組みます。

政党が政治を制御できなくなった

2017年4月12日   岡本全勝

4月11日の朝日新聞オピニオン欄は、パリ政治学院教授パスカル・ペリノーさんの「前例なき仏大統領選」でした。
・・・今年の仏大統領選は、1958年からの仏第5共和制で前例のない選挙です。一つは、大規模テロの影響を受けて非常事態宣言下で実施されること。従来の関心事だった「失業」に代わって「テロ」が最重要テーマに浮上しました。もう一つは、有権者の投票で候補者を事前に決める「予備選」を右派も左派も導入したことです。政治家の意識や大統領候補のあり方が根本的に変わりました。
これまでの政治では、候補者は政党の中から生まれてきました。閣僚や首相を務め、経験を重ねたうえで、大統領を目指していたのです。そのような構造に対する革命を、予備選は起こしました。政党を破壊し、古い形の政治を葬り去りました・・・
・・・これは、政党が政治をコントロールできなくなっていることを意味しています。予備選は政党をむしばむのです。
同様の現象は、フランス以外にも見られます。イタリアでも、首相候補の予備選を導入したことが、政党の弱体化につながりました。米大統領選では、民主党と共和党で候補者争いが激化しましたが、政党自体が制御する力を失っているからです・・・

・・・今は、戦後に定着した政治的世界が解体され、新しい世界が生まれようとしている時期だと考えられます。ポピュリズムは、その新しい世界の一つの要素です。
フランスの社会学者ギ・エルメ氏は、民主主義に代わる新たな政治制度の中心として、ポピュリズムとガバナンス(統治)を挙げました。ポピュリズムが人々の声を吸い上げる一方で、実際の政治はエリート官僚中心のガバナンスが担う。そこにかかわるのは一部の意識の高い人だけで、一般市民は無縁です。民衆の代表が政府をつくる時代は終わるのです・・・

長い歴史や、大きな視野から見ると、このような見方もできます。立憲民主主義、代議制は、絶対的なものではなく、歴史の中で経験を経てつくられたものです。代議制は、直接民主主義が実務的に困難である代用であるとともに、熟議の機能を期待されています。また、政党も、利害や思想を同じくする国民を代表する機能とともに、熟議の機能も期待されています。もっとも、日本国憲法には、「政党」は出てきません。
現実社会が、この教授の指摘する方向に進むのかどうか。その方向に進めるのも、回避するのも、国民です。
原文をお読みください。

家庭内事件

2017年4月10日   岡本全勝

読売新聞が、4月2日から「孤絶 家庭内事件」を連載しています。初日の記事には、子供の障害や病気に悩んだ親が、子供を手にかけてしまう殺人・心中事件が相次いでいることを紹介しています。
2010年からこれまでに起きた50件を分析したところ、加害者の7割が65歳以上です。子供(といっても成人、かなりの年齢です)の引きこもりや暴力に悩み、しかし周囲の支援を受けられず、介護疲れや将来を悲観して、親が子供を殺すのです。読んでいて、悲しくなります。そして、もし自分もそのような状況になったら、どうするか。
相談するところがない、どこに相談したらよいかわからないのです。
これまでは、各人の各家庭の問題だと片付けられていました。しかし、社会が考えなければならない新しいリスクです。行政による相談窓口をつくる必要があります。