カテゴリーアーカイブ:行政

心を病む官僚たち

2020年3月3日   岡本全勝

NHKウエッブニュース「心身病む官僚たち」を紹介します。残念ながら、昔も今も、心の病を発する公務員が、ある程度います。近年は、かつてより増えているようです。
拙著『明るい公務員講座』でも、私の経験を元に、それを防ぐ方法を書きました。一人で悩まずに、誰かに相談すること。周囲の人が、早く気づいて相談に乗ることです。

北村亘・大阪大学教授が、次のように指摘しておられます。
「この2~3年での仕事の変化を尋ねたところ、『業務量が増えている』『複雑化、高度化している』という回答が全体の7割に上りました。確かに補正予算を組む回数も増えているし、社会課題も複雑化しています。また、大規模な災害も多くなっているのに、職員は減っているという事実があります。状況は厳しくなっていますね」
「さらに調査で注目すべきは、『社会のために犠牲を払う覚悟がある』と答える人が7割以上に上る一方で、『官僚の威信は低下している』という回答は全体の9割に上る点です。公共への奉仕に燃える職員は必死なのに報われず、社会的にも評価が低いと感じる官僚が多いのではないでしょうか」

この指摘には、私も納得します。調査結果によるグラフもついています。ご覧ください。

対立する立場の調整、トリチウム水の処理、2

2020年2月26日   岡本全勝

対立する立場の調整、トリチウム水の処理」の続きです。
利害が対立する課題を、どのように決着をつけるか。安東さんは、避難指示が出た区域での、避難指示解除の事例を紹介します。田村市都路地区です。

まず、政府職員が、現地で暮らした場合の放射線量を測ります。個人線量計を住民にも貸し出し、測ってもらいます。そこで、放射線量が高くないことが確認されます。

避難指示解除決定の直前に、住民への説明会が開かれます。そこでは、解除を求める住民と反対する住民がいて、意見は平行線をたどります。議論が膠着したときに、区長の一人が「そもそもは政府が決めた避難指示だ。解除も政府が決めてくれ」と述べ、政府職員がそれを受けて「解除を決定する」と引き取ります。

・・・そもそも、利害が異なる中で、すべての人間が満足し、納得する判断を行うのは不可能であろう。重要であったのは、ある時点での賛成・反対の結論を一致させることではなく、一定の方向性を模索しながら、最大公約数として、それでよかったと思えるように努力していくことではないだろうか。「それでも、振りかえってみれば悪い選択ではなかったのかもしれない」と思える状況を作り上げていくことが、結果としての利害調整を可能としたように思える・・・

自然科学の世界と違い、世間の問題では唯一の正解があるとは限りません。人によって、考え方が異なるからです。どこかで結論を出して、妥協するしかありません。
その際の「正しい方法」は、十分な手順を踏むこと(手順)と、将来振り返ったときによかったと言えるかどうか(内容)だと、私は考えています。
この項続く

日本の移民政策

2020年2月26日   岡本全勝

2月18日の日経新聞経済教室、田所昌幸・慶応義塾大学教授の「移民問題を考える(下) 存在公認し支援体制 早期に」から。

・・・実は日本には国際的には移民と呼んでもおかしくない人々が既に相当数居住している。例えば国連の統計は、原則として外国生まれの居住者を移民と定義しており、日本の移民のストックは19年時点で約250万人とされる。人口の2%程度で、ほぼ京都府の人口に匹敵する規模だ・・・

・・・日本だけが世界の例外であることはできるはずもない。移動手段が発達する一方で世界に巨大な貧富の格差がある限り、日本でも移民が増加する趨勢に変化が生じるとは考えにくい。
こうした人々は一定期間後には皆帰国するだろうとの期待は、欧米諸国の経験から判断すると実現しそうもない。ひとたび生活の拠点を家族や同郷の人々と築けば、移民の一定数は確実に居住を続けようとする。
そして平穏に居住している何十万人もの人々を強制的に排除することは、人道や人権の観点から望ましくない。加えて現実には行政的にも政治的にも非常にコストの高い政策であり、よほど日本が抑圧的な政治体制にでもならない限り、まず実行不可能だ。移民を限界的な労働力として使い捨てにしようとすれば、多数派社会に不満を持つ閉鎖的集団が形成され、痛いしっぺ返しにあうだろう。

従って問われるべきは、極端な出入国管理体制により労働鎖国政策をとるか、はたまた国境を開放して日本を事実上解体するかではない。どれだけの移民をどんな条件で受け入れ、いかなる受け入れ体制を整備するのかということだろう。移民は抽象的な労働力ではなく生身の人間だ。賃金さえ払えば済むというわけではなく、これらの人々の生活者としてのニーズにホスト国としてどのように応えるかが重要な課題となる・・・

・・・公式には移民がいないことになっているため、国レベルでの総合的な移民政策が存在しない。そのため、いや応なく対応を迫られる外国人が集住する一部地域の自治体などに、負担が集中している状況を早急に改めるべきだ。受け入れたからには合法的に入国し就業している移民を支援する医療、教育、言語などの基本的なサービスを国レベルできちんと制度化すると同時に、公的サービスへのただ乗りを効果的に防止しないと、制度は持続できない。

とりわけ早期に取り組まねばならないのは、移民2世に対する初等中等教育への就学義務を確実なものとすることだ。言語や社会慣習などの日本社会で暮らすための最低限のスキルを習得することは、社会メンバーとしての基本的権利であると同時に義務でもある。次の世代が出自に関係なく希望を持って日本社会で活躍できる機会を提供することは、高等教育の無償化よりも優先的に公費が投入されるべき課題ではないか。
この面では民間でもできることは多い。欧米社会の教会、ボランティア団体、地域コミュニティーなどを参考に、社会のそれぞれの持ち場で新たなメンバーの支援に取り組むべきだ。

排外的とされることが多い日本社会だが、人種や宗教が移民の社会統合上の障害になる可能性は欧米諸国よりも低いかもしれない。しかし日本には欧米諸国にはない難しい条件もある。それは、移民の最大グループが中国、韓国といった日本との関係が良くない国の出身者であることだ・・・

対立する立場の調整、トリチウム水の処理

2020年2月25日   岡本全勝

先日紹介した、朝日新聞社の月刊誌『ジャーナリズム』2月号に、安東量子・NPO法人福島ダイアログ理事長の「「結果オーライ」への道筋を探る トリチウム水の海洋放出問題」が載っています。
表題だけでは何のことか分かりませんが、政治学として勉強になることが書かれています。詳しくは原文を読んでいただくとして、少しだけ紹介します。

タンクにたまり続けているトリチウム水の扱いについてです。
原子力規制委員会の委員長(現任者と前任者)は、ほかの原発でも規制の範囲内で海洋放出しているので、福島第一原発でも規制の範囲内で海洋放出することが、現実的で唯一の選択肢だと発言しておられます。このままタンクに貯め続けることは、敷地の関係で不可能ですし、タンクに貯めておくことの方が危険でもあります。

他方で、漁業関係者からは、海洋放出によって風評被害が出るので、反対であるとの主張がされています。その際に、「風評被害が出る覚悟はしている。被害を最小限にする方法を考える必要がある」や「科学的な見解は理解できるが、了解はできない」という発言もあります。

安東さんは、概略次のように指摘します。
「希釈して海洋放出するのが現実的で唯一の選択肢だ」という原理原則にとってつけたように、「丁寧な説明を行って正しい情報と知識を理解してもらう」という文言が付け加えられることもあるが、具体的になにをどうするつもりなのか語られることはない。
だが、これはそれほど有効な解決策なのだろうか。政府による丁寧な説明の結果、全員が政府の見解は問題ないと同意してくれるなどということがあり得るのだろうか。あり得そうな話には思えない。なぜならば、それぞれの置かれた状況によって利害が決定的に異なってくるからだ。
この項続く

岡田元也・イオン社長。非正規が生んだ消費の抑制

2020年2月17日   岡本全勝

2月13日の朝日新聞オピニオン欄、岡田元也・イオン社長のインタビュー「売り場は消えるのか」に、次のような発言があります。

「所得環境は改善せず、企業も賃金への配分を高めていません。これらは消費を抑制している大きな要因では?」という問に。

「もちろん影響はあります。企業にも責任がある。正規、非正規という区分が生んだ格差は大きいです。正社員、終身雇用という仕組みが柔軟性に欠けるからと非正規雇用が導入されましたが、雇用自体が不安定、かつ賃金も抑えられました。将来を担う若い人たちが安定した生活を送る、という根本的な問題が未解決なままです。

また、消費者の生活スタイルが変わっているのに、社会保障など社会のしくみが変わっていません。1人で子育てをする女性への支援は十分でしょうか。離婚しても養育費を受け取っていない女性も少なくない。欧米に比べても恵まれた社会ではないでしょう。そうなると自分で守るしかない。消費より貯蓄、となるのも当然です。」