カテゴリーアーカイブ:行政

経産省、伴走型支援

2020年2月12日   岡本全勝

2月11日の日経新聞東京経済欄に、「関東経済産業局、伴走型で中核企業育成」が載っていました。
・・・関東経済産業局が地域の中核企業の育成で新たな手法を試行している。企業の悩みに応じて解決策を提案する「ご用聞き」型の支援を脱し、経営者が気づかない課題を発掘して自発的な変革を促す伴走型のコンサルティングを導入した。各地で本格展開を目指すが、成果を生むには経営者と誠実に向き合う根気が不可欠で、現場の職員らの本気度が問われる・・・

2019年6月から、経産局職員と公募で選んだ民間コンサルタントによる官民合同のチームが、企業を訪問し、支援を続けています。
この手法は、福島の原発被災地で、経産省が取り組んだ「福島相双復興推進機構(福島相双復興官民合同チーム)」で開発されたものです。記事にもあるように、角野然生・関東経産局長が、福島で作った手法を持ち込みました。

拙稿連載「公共を創る」第19回で、この手法を取り上げました。被災地の事業者には中小や零細な人も多く、産業振興制度を作っても活用できないことも多いのです。
ひるがえってみると、これまでの産業政策は、振興計画や補助金などが主な手法でした。国が制度を作り、希望する企業が応募します。大企業相手ならこれでよかったのですが、小さな事業者では、応募するだけの能力を持っていません。今回始めた、個別支援・伴走型支援は、画期的だと思います。

もちろん、成果を出すためには、記事でも指摘されているように、継続が必要です。しばしば指摘されるように、「法律や補助制度を作ったら終わり」というこれまでの行政では、成果は出ません。その点でも、新しい行政の手法が試されています。

ドイツの財政規律、政治的合意と憲法に規定

2020年2月12日   岡本全勝

2月7日の日経新聞経済教室「ドイツは財政出動すべきか(下) 」、森井裕一・東京大学教授の「規律維持への政治合意 堅固」から。

・・・好況が長く続いたドイツ経済にも懸念要素がみられるようになり、国内でも財政出動を求める声が大きくなっている。だが容易には財政規律を巡る考え方は変わりそうにない。ドイツの財政規律問題は単なる経済政策の議論ではなく、背後に堅い政治的コンセンサス(合意)が存在し、制度的にも確立しているためだ。
第2次世界大戦後のドイツは過ちを繰り返さないために、政治の安定とそれを支える経済・通貨の安定を極めて重視してきた。安定した通貨マルクを基盤として経済復興を遂げ、経済大国になった成功体験から、経済運営ではインフレ抑制が最優先課題とされた・・・

・・・だがドイツ統一後の旧東ドイツ地域復興の重い負担で構造改革に後れを取り、フランスとともに自らが求めたSGPの財政規律基準をシュレーダー政権期には順守できなかった。ドイツはこの時期に厳しい労働市場・社会保障改革を断行したが、社会民主党(SPD)は改革の成果を上げられないまま政権を失った。
2005年にキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)とSPDの大連立によりメルケル政権が成立した。前政権の構造改革の果実に加えて、大連立という安定した政権運営基盤を得た。07年には付加価値税率を19%へ3%引き上げ、財政安定に貢献した。08年のリーマン・ショックによる一時的な落ち込みはあったが、メルケル政権期には好況が維持された。

大連立政権初期には、課題だった連邦と州の立法権限関係の整理を中心とした連邦制度改革が実現した。国家財政を中心に第2期連邦制度改革が進められ、09年には関連する基本法(憲法)が改正された。
この改憲で起債の制限が規定された。移行期間を経た後には自然災害や特殊要因を除き、連邦政府には名目国内総生産(GDP)の0.35%までしか「構造的新規起債」が認められないこととなった(図参照)。
重要なのは当時のドイツでは、財政規律を巡る議論が検討委員会内の合意形成から国会両院の3分の2以上の賛成を必要とする改憲まで幅広い政治的コンセンサスに基づき短期間でなされ、世論もさほど注目しなかったという政治状況だ・・・

・・・貿易依存度の高いドイツでは、将来にわたり産業の国際的競争力を維持することが極めて重要との認識がある。そのための投資は必要だが、短期的な雇用政策のための財政拡大には理解が得られにくい。戦後の成功体験やユーロ導入後の経験が制度に埋め込まれ、言説を支配している状況は容易には変わらないだろう・・・

アメリカで増える絶望死

2020年2月11日   岡本全勝

2月7日の朝日新聞オピニオン欄、ニューヨークタイムズ、ニコラス・クリストフさんの「米国で増える「絶望死」 責任は社会に、投資を人に」が、勉強になりました。詳しくは、原文を読んでいただくとして。

・・・ナップ家の5人の子どもたちは賢く有能だった。しかし、ファーランさんは何年もの薬物とアルコールの乱用で亡くなり、ジーランさんは酒で酔いつぶれている間に家が燃えて亡くなった。ネイザンさんは覚醒剤を精製中に爆死し、ロジェーナさんは薬物使用による肝炎で亡くなった。キーランさんが生き残れたのは、オレゴン州の刑務所に13年間いたおかげでもある。
彼らのような労働者階級の男性と女性は、肌の色を問わず、薬物やアルコール、自殺といった「絶望死」で死ぬ人が増えている。米国の平均寿命がこの100年で初めて3年連続で短縮したのはそのためだ・・・

・・・貧しい黒人が多いフィラデルフィア北部で生まれた新生児の平均寿命は、4マイルしか離れていない、白人が多く住む市中心部の新生児より20年短い。これは一方の赤ちゃんが「弱い性格」だったからではない。
英国では、ブレア元首相のもとで子どもの貧困が半減した。赤ちゃんが突然、自己責任をより示すようになったからではない。政府が責任を果たしたのだ。米国では子どもの貧困を半減させるため、全米科学、工学、医学アカデミーが青写真を描いたが、議会とトランプ大統領は何もしない・・・

・・・ナップ家の人たちが間違いを犯したのはその通りだ。だが彼らは、戦後豊かに生きてきた両親や祖父母よりも賢明さや才能、勤勉さが劣っていたのではない。
変わったのは、いい職を得る機会が減り、人的資本へ投資する公約が少なくなり、依存性のある薬物が蔓延し、取り残された人たちを中傷する無情な社会の声が高まったことだ。労働者は尊厳と希望を失った。自己治療と自己破壊、孤独と絶望の悪循環が、スクールバス6号車を席巻した・・・

・・・よりよい社会の声とはどのようなものか。自己責任だけでなく、子どもたちを支援するような、集団としての社会的責任を認めるものだ。指をさして非難し合うよりも救いの手を差しのべるような、共感と「恩寵の倫理観」に満ちているものだ。国民の大多数が自身の潜在力を生かせていなければ、国もその潜在力を生かし切れていないということを認めるものなのだ・・・

今日のアメリカは、明日の日本です。そうならないように、対応しなければなりません。

イギリスのヨーロッパ連合離脱、イギリスは別の国に

2020年2月4日   岡本全勝

1月31日の朝日新聞オピニオン欄、イギリスのヨーロッパ連合離脱について、「勝者なき離脱」。その2。ジル・ラッター、イギリス政府政策研究所上席研究員の発言「もはや別の国、名声どこへ」から。

・・・昨夏就任した英国のジョンソン首相は、この半年間で首相らしい仕事を何一つ、していません。ジョンソン政権は政府ではなく、ある種のキャンペーンと化していました。議会で多数派を勝ち取ることが目的のキャンペーンです。

政権が挑んだのは、一つは議会との戦争でした。EUからの離脱に乗り気でなかった英議会に対し、政権は対決姿勢を鮮明にしました。もう一つは、司法との争いです。議会を閉会させて動きを封じ込めようとしたジョンソン政権に対し、最高裁がこれを違法とする判断を示したからでした。
ジョンソン首相は、総選挙に持ち込むことによって、これらの戦いでの勝利を収めたのです。では、勝ったからそれで良かったのか。

英国はかねて、法制度や行政システムの安定度、公務員の公平性、議会の効率性や司法の独立の面で、各国のモデルとなってきた国でした。その評判は、一連の騒ぎで大きく損なわれました。
法の支配と司法の独立を確立しようと努めてきた国なのに、首相が法にあえて挑戦し、閣僚が司法のあら探しをした。政権の行為の違法性も問われた。これで、従来の英国の名声が保たれるでしょうか。他国に向かって「良きガバナンスとはこういうことです」と説教してきたのに、まるで自らが腐敗したかのようではないですか。

英国の官僚についても同様です。政治任命が常態化している米国などとは異なり、英国の官僚は不偏不党を基本とし、どんな立場の政治家にも公正に仕えることで、高い評価を得てきました。しかし、EU離脱を巡っては、そうした関係が崩れました。「離脱」を信仰のように奉る一部の政治家は、「官僚は離脱の作業を妨げているのでは」と疑いました。
その結果、英国は以前と比べてどこか異なる、別の国になってしまいました・・・

イギリスのヨーロッパ連合離脱、人々の憤怒

2020年2月3日   岡本全勝

1月31日の朝日新聞オピニオン欄、イギリスのヨーロッパ連合離脱について、「勝者なき離脱」。山本圭・立命館大学准教授の発言「人々の憤怒、軽んじた左派」から。

・・・左派の関心は長らく、マイノリティーのアイデンティティーをいかに承認するか、ということでした。近年、その論調は変化を見せ、「左派も経済を語るべきだ」という声が大きくなってきました。「反緊縮」を唱える左派ポピュリズムの台頭もその流れにあります。しかし、多くの国で左派政党から人々が離れているのはなぜでしょう。

米国の著名な政治学者フランシス・フクヤマが、近著で興味深い指摘をしています。近年、自分たちのアイデンティティーが十分に承認されていないと感じる人が増えている。つまり、現在の政治では、人々の尊厳が問題になっているというのです。
ここで言う「尊厳」とは、経済的な損得では説明できない複雑な感情です。つまり、単に公正な再分配を訴えればいいというわけではない。尊厳には、「私たちを忘れるな」という純粋な自己承認を求める感情もあれば、その裏返しとして「なんでやつらばかりが優遇されるんだ」という他者攻撃にもつながる憤怒の感情も含まれます。

離脱派があおった排外主義やナショナリズムは、後者の感情を動員しやすい。ジョンソン首相の人気の秘密もここにあるのでしょう。ジョンソン首相は実際にEUを離脱した後も、人々の尊厳を満足させ続けられるかが問われるでしょう。
他方でEU残留派は、人々の尊厳の感情をうまく捉えきれなかったように思います。こうなると、いくらEUの大義やその経済的効果を訴えても、人々には響きません・・・