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行政-災害復興

国と地方の協議の場、新しい行政の実験

今日は福島市で、国と県との協議の場(原子力災害からの福島復興再生協議会)を開催しました。福島県知事からの要望で、実務者同士で、原発事故からの復興を議論する場をつくりました。その第1回目です。国からは、復興担当大臣、原発事故担当大臣、総務大臣ほかがメンバーで、県からは、知事、議長、市町村代表、経済界代表の方がメンバーです。今日は特に、総理と環境大臣も出席されました。
議題は、広く福島県の復興ですが、当面の課題を整理しました。見ていただくとわかるように、大きく分けて、原発事故対策関連と、地域の復興の2つがあります。今後、県と国とで順次議論を重ね、課題を解決していきます。

私はこれを、国と地方との関係の、一つの新しい形だと考えています。国(中央政府)と地方(地方政府、地方自治体)が協議をする場は、これまでもいくつもありました。地域振興計画をつくる場合、あるいは特定事業に関する協議。さらには分権の一つとして「国と地方の協議の場」もあります。しかし、ややもすれば「格式張った儀式」「有識者の意見発表の場」になりがちです(ある新聞記者曰く)。
今回のような、テーマと地域を絞って、継続的に協議をする。国からは関係大臣と担当職員が出席し、実務的に議論するというのは、これまでに例がないと思います。地方にとっては、国に意見が言いやすい。国にとっては、責任ある回答が求められます。言いっぱなし、聞きっぱなしに、ならないのです。現地で開催することも、意味があると思います。

場をつくるということは、重要です。1回ずつメンバーや議題を決めていては、それに労力が費やされます。1回ごとでは、陳情の場、聞き置く場になりがちです。定期的に開くこと、継続が重要なのです。そして、地方自治体からは、ワンストップで、意見を聞いてもらえます。実は、関係府省が集まる府省横断型の対策も、このような場がないと、進めにくいのです。このような場を作れば、各省の縦割りの弊害は防げます。

「これまでにない事態だから、これまでにない対応が必要だ」と、皆さんおっしゃいます。しかし、それをお題目に終わらせず、どう具体化するか。それが、難しいのです。その際に、施策の内容も重要ですが、それを決める過程も重要です。今回の協議の場は、その一つの方法だと、私は考えています。
これまでにない災害と復興は、新しい行政手法を試すことができる場であり、これまで温めたアイデアの実験の場です。官僚の想像力が、問われます。
これは、通常の審議会ではありません。行政法学では、どのように分類されるのでしょうか。今回は、法令をつくることなく、大臣と知事との合意で設定しました。「実務家同士で協議し、課題を解決したい」という、知事の意向です。
もちろん、今後、具体のテーマを協議し、結果を出すことで、この協議会が評価されます。

昨日早朝の本部会合と、今日土曜日の協議の場。2つも大きな会議を、滞りなく設営してくれた職員に感謝します。それも、直前まで議事次第が変更になり、資料が差し替えになるという条件の下でです。

5か月間の成果取りまとめ、今後の作業計画

今朝、官邸で、復興本部会合を開きました(概要)。緊急災害本部や原発事故対策本部と合同です。
これまで5か月あまりの間の、復旧の状況、現在取り組んでいる課題、これからの作業計画を、わかりやすい資料(資料1-1)として報告しました。 基礎数字などは、別冊にしてあります(資料1-1別冊①)。我ながら、よくまとまった資料だと思います。ご利用ください。
私たちの仕事は、国民の皆さんに理解してもらうことが重要です。難しい資料を大量に示しても、読んでもらえませんよね。この資料は、項目を絞り、かつ1ページごとに最初に2~3行でポイントを書いてあります。そこさえ読めば、概要が分かるようになっています。工夫してくれた森参事官、ありがとう。

また今回は、各府省が作成しつつある「事業計画」と「工程表」も、発表しました。港湾や堤防など、インフラの復旧計画です(資料1-1別冊②)。これも、各省が大車輪で作ってくれました。それぞれ、かなり具体的な目標が、示されています。まだ熟度の低い事業は、順次具体化します。
当初、「8月中に取りまとめ、9月に発表する」と言っていましたが、今回の会議に間に合わせました。協力いただいた各省と、取りまとめてもらった上田次長、ありがとうございました。目標より遅れると批判されるのですが、目標より早く達成しても、褒めてくれる人はいませんねえ。

資料1-1のp9には、復興本部の今後の作業計画=何をいつまでにするかを、図にして示しました。これが、私たちがこれから取り組む主な作業一覧です。こうして見えるようにすると、目標による管理になります。今後この図で進行管理するとともに、達成度を評価することになります。復興本部内だけでなく、政府各府省、県や市町村にも共有してもらうことも重要です。もちろん、マスコミや国民の皆さんにも理解していただき、評価してもらえます。

被災地で考える公共哲学・その2

被災地でいろいろ見聞きして、考えたジレンマを、紹介します。既に、新聞などでも、取り上げられている事例です。

(支援物資と地元商店)
被災地には、全国や世界から、たくさんの支援物資が届けられました。これはありがたいことです。ところが、児童生徒に、ノートや鉛筆がたくさん配られたので、地元の文房具屋さんは、商売あがったりになりました。同様に、スポーツ用品店や衣料品店も、売上げが大きく落ち込んでいるところもあるとのことです。
さて、このような場合、あなたが、まだたくさんの支援物資を保管している市役所やNPOの責任者だったら、どうしますか。

(被災者と支援ボランティア)
まだ初期の頃の話です。体育館に避難された人たちを支援するために、たくさんのボランティアが駆けつけました。避難所での物資の搬送と配分、炊き出しなどの作業をしてくれました。一生懸命汗を流しているボランティアの横で、避難者の何人かは、暇をもてあましていたという例が、あったそうです。もちろん、避難者の多くは、心身ともに疲れておられます。しかし、日が経つと元気な避難者もおられ、支援に行った人の中には、釈然としない人もいたとのことです。
さて、あなたがその場にいる支援者なら、どうしますか。

各県の復興計画

国では、7月末に「復興の基本方針」を決めました。東北3県も、復興計画を作成しています。被災市町村も、復興計画の策定を進めています。しかし、国や県の復興方針・計画が考え方や事業の一覧であるのに対し、市町村の計画は、どこまで堤防を作るか、道路はどこに引くか、どの地域は住宅を建てないようにするか、住宅はどこに移転するかなど、具体的に場所と事業を決めなければなりません。
県や国の計画は文章が多くなるのに対し、市町村の計画は地図や事業計画の数字が必要になります。また、市町村が計画を決める際には、住民の同意が必要です。それで、少し時間がかかるのです。
復興本部のホームページでは、このような関係地方団体の情報も、見やすいように提供していきます。田中君ありがとう。

被災地で考える公共哲学

古くなりましたが、8月9日の朝日新聞オピニオン欄で、多田欣一岩手県住田町長のインタビューが載っていました。6月下旬から、被災者を対象とした東北地方の高速道路無料化が実施されました。無料通行には、被災証明書が必要です。住民の求めに応じて、停電や断水だけでも被災証明を出し、全世帯に発行する市町村もでました。その中で、住田町は岩手県内で唯一、「停電だけでは被災証明を出さない」方針を貫きました。以下、町長の発言です。

・・停電は被災ではない、という認識ではありません。ハウス栽培の農家などでは大きな物的被害がでますから当然、被災したことになる。ただ、停電が物的な被害に直結するとは限りません。住田町では、物的な被害があった場合は被災証明や罹災証明を出しますが、それ以外は基本的に証明書は発行しないという立場です。
国が東北の高速道路無料化を制度化したのは、大きな被害を受けた人の復興支援という趣旨のはずです。津波ですべてを流された人と、半日停電しただけで物的被害もない人が、同じレベルで復興支援の恩恵を受けるのは、本当に正しいのかと考えました・・

(同じように停電したのに、住田町だけ出さないのは不公平ではないですか、との問いに対して)
・・今回、無料化された区間は、東北自動車道をはじめ大半が内陸部です。大きな被害を受けた沿岸部の人は、あまり利用することがない。私が公務で高速道路を利用する回数は、1年に3~5回くらいですよ。本当に被災して困っている人は、ほとんど利用せず、わずかな被害しかなかった内陸部の人たちが無料で頻繁に利用している。それはかえって不公平ではないのか・・

(被災証明によく似たものに、罹災証明書があります。これは内閣府に基準があります。これによって、支援が受けられる場合もあります。しかし、被災証明書は、各自治体の裁量に任せられていて、それぞれの市町村で基準が違います。
被災証明にも、国の指針があった方がいいと考えますか、という問いに対しては)
・・それは違うと思います。こんなときこそ、自治体がそれぞれの良識で判断すべきでした。右へならえで全世帯に被災証明を出せば、国の役人に「やはり市町村には任せられない」と言われてしまう。もう少し頑張ってほしかったという思いはあります・・

ごく一部を紹介しました。あなたは、どう考えますか。マイケル・サンデル教授になって、考えてみてください。