カテゴリーアーカイブ:政治の役割

トランプ大統領、「アメリカの強さ」意味の違い

2016年11月12日   岡本全勝

日経新聞電子版11月11日、ファイナンシャルタイムス提携記事「トランプ氏の「米国第一」、退廃と衰退の始まり」から。

・・・ケネディのビジョンの寛大さと広大さ、力強さはトランプ氏の宣言――我々の計画は米国が最優先となり、グローバリズムではなくアメリカニズムが信条となる――の狭量な国家主義との悲しいコントラストを描く。この2つのビジョンの違いは計り知れないほど大きく、不吉だ。米国の戦後世代が世界中の自由を守ると固く誓うようになったのは、理想主義からだけではなかった。ケネディが述べたように、この世代は「戦争によって鍛えられ、つらく苦い平和によって自制心を培った」。トランプ氏に投票した世代と好対照を成す。すなわちファストフードによって太らされ、テレビのリアリティー番組によって幼稚化された世代だ。

ケネディ世代は大恐慌と第2次世界大戦から厳しい教訓を学んだ。あの世代は「アメリカ・ファースト(米国第一)」――米国を広い世界の問題から隔絶しようとする政策――が最終的に、経済と政治の大惨事につながったことを知っている。だから1945年以降、共和党、民主党双方の新世代の指導者たちは世界のために経済と安全保障の構造を築いた。米国のリーダーシップと、北大西洋条約機構(NATO)、国連、世界銀行といった国際機関、同盟関係を軸とする構造である・・・

・・・中東での戦争にへきえきし、国際貿易が国内経済に問題を引き起こしていると説得されているようにみえる国では、「米国第一」政策に誘惑されるのは無理もない。米国には、経済を支えるだけの巨大な国内市場があり、国の安全も大西洋、太平洋という2つの大海で守られている。だが、もし世界から身を引けば、米国はやがて、今より貧しくなり落ちぶれるだろう。そして1930年代と同じように、最後には米国自体の安全と繁栄も、国際貿易の崩壊と権威主義者の復活に脅かされることになる公算が大きい・・・

原文をお読みください。

 

 

トランプ氏勝利、クリントン候補と共和党の敗北

2016年11月10日   岡本全勝

11月10日の朝日新聞オピニオン欄「トランプ大統領の衝撃」、久保文明・東大教授の発言から。
・・・その白人中間層が「とにかく現状を変えてくれ」というギャンブルに近い思いを込めた票が、トランプ氏に結集したのでしょう。
逆に、元大統領夫人であり、上院議員や国務長官を経験したクリントン氏は、既存の政治を嫌い、変化を求める有権者の流れに押しつぶされてしまいました。
ある意味、敗者はクリントン氏と民主党だけではありません。自由貿易、国際主義を掲げ、国際秩序を支える立場の政党だった共和党は見る影もありません。トランプ氏という反自由貿易主義、孤立主義でアメリカ第一主義の前に、これまでの共和党主流派は敗れ去りました。明らかに共和党の政策の限界を示すものでしょう・・・
・・・クリントン氏が民主党の予備選でサンダース氏に苦戦した通り、全体として、米国のエリートが米国政治の方向性をコントロールする力がだいぶ弱くなっているのかも知れません。これは英国でもそうでしょう。欧州連合(EU)からの離脱を決めた「ブレグジット」がそうでした。また、トランプ氏がこの選挙戦を通じて行ったことは有権者の不満に火をつけることで、人種や民族などの集団間の対立、分断を促進することでした。これから米国のリーダーとして、分断、対立ではなく、融合と統合を行えるのか、集団と集団を隔てる壁ではなく、架橋になることができるかが重要です・・・(2016年11月10日)

アメリカ社会と政治、大統領の限界

2016年11月9日   岡本全勝

アメリカ大統領選挙は、接戦の末、トランプ氏に決まったようです。
渡辺将人著『アメリカ政治の壁―利益と理念の狭間で』(2016年、岩波新書)が、勉強になりました(かなり前に読んでいたのですが、ここに書くのを怠っていました。何事も、思い立ったときに、しておかなければなりませんね。反省)。著者は、マスコミ記者やアメリカでの政治事務所での経験をもつ、北海道大学准教授です。
8年前、熱狂的に迎えられたオバマ大統領が、なぜ思うような政治ができなかったか。その政治・社会的背景が描かれています。
分析視角として、民主党と共和党との対立や、大統領より強い議会という構造だけでなく、その対立をさらに複雑にする社会の分裂を指摘します。一つの補助線は、「利益の民主主義」と「理念の民主主義」です。これが、宗教、マイノリティー、経済・貿易などの争点で、支持政党とは違う分裂を生んでいます。オバマ大統領の敵は、共和党ではなく、民主党内にいるのです。新書という分量に、わかりやすく書かれています。是非、本をお読みください。
新しいアメリカ大統領もまた、国民の政治的意識の分裂の中で、難しい舵取りを迫られます。自らの主張を実現しようとすると、法案を議会で成立させる必要があり、その議員たちは有権者の意向を無視できません。
オバマ大統領が、1期目に早々と求心力を失う模様は、ボブ・ウッドワード著『政治の代償』(邦訳2013年、日本経済新聞出版社)が生々しく描いています。
ところで、かつて日本では、決められない政治を打破するために、大統領制にすべきという主張もありました。しかし、構造的には、衆議院が必ず与党優位になる議院内閣制の方が、大統領の与党が必ずしも議会で優位にならない大統領制より、強いはずなのです。現に、今やアメリカより日本の政治の方が「決めることができる」政治になっています。
さて、海の向こうの大国の政治も重要ですが、我が日本の政治はどうか。利益と理念の政治はどう対立し絡み合っているか。考えさせられます。
社会の亀裂の状況が、日本とアメリカでは大きく違います。アメリカでは「全員がマイノリティなのです」という指摘があります。日本ではかつて、「単一民族、一億層中流」という説明が受け入れられていました。しかし、そのような時代は過ぎ、正規非正規、子どもの貧困といった「亀裂」が大きな課題になっています。それを、政治・政党がどう拾い上げるか。その役割の差もあります。(2016年11月9日)

オバマ大統領の評価

2016年11月1日   岡本全勝

10月29日の朝日新聞オピニオン欄、渡辺靖・慶応大学教授の「オバマとは何だったか」から。
・・・バラク・オバマ大統領に関して最も印象的なのは、強靱な理想主義者であると同時に、冷徹な現実主義者であるという点だ・・
・・・ もう一つ印象的なのは、新たな時代の変化に合致するよう、彼が米国の自画像(アイデンティティー)を刷新しようとした点だ。
まず国内的には、アフリカ系として初めて米国大統領に就任したこと、就任演説で無宗教者の尊厳を擁護したこと、米大統領として初めて同性婚支持を表明したことなどがある。白人やキリスト教徒の比率が低下し、人口構成や価値観が多様化する米社会を象徴するものだった。
また、格差拡大や中流層の没落、ジョージ・ブッシュ前大統領(共和党、01~09年)の政権末期に発生した金融危機(リーマン・ショック)など、「自由」の名の下に社会正義がむしばまれている状況を是正すべく、金融規制改革や医療保険制度改革(オバマケア)など、連邦政府による規制や関与を強化した。真の「自由」のためには、放任主義ではなく、政府の一定の介入が必要だとする米国流のリベラリズムの再生だ。米国では1980年代の「レーガン保守革命」以来、政府を自由への「手段」ではなく「障壁」と見なす政治文化が支配的となり、「リベラル」には負のイメージがつきまとうが、いわばその反転を試みたわけである。
しかし、その分、保守派からの反発はすさまじかった。「イスラム教徒」「米国生まれではない」「社会主義者」といった事実に反する中傷に加え、共和党との対立は激化した。今回の大統領選におけるドナルド・トランプ候補(共和党)の躍進の背景には明らかに「反オバマ」感情――そして、そのオバマを制御できない共和党指導層に対する憤り――が存在する。その意味では、オバマの最大のレガシーは共和党を分裂させた点にあるのかもしれない。
「リベラルでも保守でもない、一つの米国」という理念を掲げて歴史的就任を果たしたオバマのもと、19世紀半ばの南北戦争以来、最も政治対立が深刻な状態にあるのは皮肉としか言いようがない・・・

(外交について)
・・・しかし、こうした一連の姿勢には「謝罪外交」「弱腰外交」との批判も相次いだ・・・
・・・もっとも、そうしたオバマ外交への批判には、「世界の警察官」という往年の米国イメージにとらわれすぎているものも少なくない。「弱腰外交」と批判する側から説得力のある代替案が提示されているかというと心もとない。
さらに言えば、問題が起きるとすぐに米国の顔色をうかがう、米国の行動を頼りにする、逆に、すべての非と責任を米国になすりつける旧来の思考パターンから、日本を含め、各国もなかなか抜け出せないでいる。例えば中国の海洋進出や北朝鮮の核問題などは、米国なしに解決できないが、米国のみで解決できる問題ではない。
国内的・対外的なこうした自画像の刷新は、米社会とそれを取り巻く国際環境の変化を意識したものだろう・・・
一部を紹介したので、原文をお読みください。(2016年11月1日)

中国、文化大革命が残したもの。2

2016年10月26日   岡本全勝

朝日新聞10月20日オピニオン欄、王輝・中国天津社会科学院名誉院長へのインタビュー「体制内で見た文革」の続きです。

・・・「文革は中国社会に何をもたらしたのでしょう。伝統的な文化や価値観が否定され、宗教施設なども壊されました」との問に。
・・・文革中には過激な破壊活動が起きました。現在、中国が抱える問題はすべて文革がもたらしたものだという見方もあります。
(共産党への)信仰、理想、信念といったものが失われました。(豊かで平等な社会をつくるといった)共産主義の理想を信じる気持ちがなくなりました。人々は自信をなくし、残ったのは拝金主義と享楽主義でした・・・
・・・文革は高度に集中した伝統的計画経済を打ち壊し、その後の改革開放への条件をつくった。もし文革の歴史がなければ、中国はソ連の道をたどっていたでしょう。
文革前に、多くの庶民は知りませんでしたが、私は幹部として何が起こっているのかを見ていました。党内には、すでに特権階級が生まれつつあった。幹部たちは夏は避暑地の北戴河に行き、庶民には一生、手が届かない生活をしていたのです。文革がなければ、特権化はさらに拡大し、中国は(民主化を求めた群衆にチャウシェスク大統領が殺された)ルーマニアと同じになっていたでしょう・・・

「これから中国政治はどこへ向かうのでしょう」との問に。
・・・中国は今、左(共産主義)に進むこともできず、かといって右に行くこともできない。右とは米国式の民主政治の道です。このまま進んでいかなければ、生き残ることはできません・・
「民主化には進めませんか?」
・・・進めば、中国は四分五裂の道をたどるでしょう。これは怖いことです。米国は望んでいるかもしれないが、中国がソ連のように崩壊したら、経済も大混乱を起こす。かわいそうなのは庶民たちです。金持ちたちはみな国外に逃げるのだろうけど……
「では、共産主義の道は?」
・・・すでに貴族権益のようなものを持つ階級も生まれているから、左にも行けない。今や中国にどれだけの大金持ちがいると思いますか。彼らから再び財産を奪ったら、大混乱になります。ただただ、今のままでやっていく。これしかほかに道はありません・・・(2016年10月26日)