カテゴリー別アーカイブ: 再チャレンジ

行政-再チャレンジ

イギリスの孤独担当大臣

昨日、「社会的孤立が生む認知症」に、イギリスに「孤独担当相」ができたことを書きました。今日7月18日の朝日新聞に「英国人 実は孤独?」という記事が載っていました。

・・・英国政府が今年、「孤独担当大臣」を置いた。見知らぬ人ともパブに集いビールとサッカー観戦で盛り上がる英国人だが、成人の5人に1人が孤独を感じているという。孤独が長引けば健康を害しかねないとの認識も広がっている・・・

・・・ 英国では75歳以上の半数以上が独居だ。ジェンキンスさんは「以前は教会やパブで世代を超えた交流があったが、そんな近さは失われつつある」と心配する・・・英国赤十字と生協の調査では、900万人以上の成人が「いつも」または「しばしば」孤独を感じていると推計されている。成人の5人に1人だ。
別の調査では、障害者の半数が常に孤独を感じる、また65歳以上の5人に2人がテレビかペットが「一番の友人」と回答した。ロンドンの移民・難民の6割弱は孤独や孤立が最大の課題だという・・・

・・・対策を求める声が強まり、高齢者や障害者らを支援する官民5団体は11年、「孤独を終わらせるキャンペーン」を始め、行政への働きかけを強めた。
決定的だったのは労働党のジョー・コックス議員の存在だ。戸別訪問で孤独な人の多さを知り、15年の初当選後、対策を検討する超党派の委員会を設立。だが翌年、英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票の直前、極右の男に殺害された。事件の衝撃とともに遺志を継ぐ機運が高まった。
委員会は昨年末、担当大臣の設置を政府に要望。メイ首相が今年1月、トレイシー・クラウチ議員(42)を孤独担当相に任命した。
英政府は今年中に「対孤独戦略」を立案する。クラウチ氏の下に各省庁から8人の政務次官らを集めて対策チームを設置。6月以降、実態調査に乗り出した。世代や地域によってどのような介入が効果的か、地域で活動している団体や専門家に問うものだ。
英政府は孤独を「人との交わりがない、あるいは足りないという、主観的で好ましくない感情」と改めて定義。「社会的関係の質や量についての現状と理想に不一致があるときに起きる」とした。国家統計局が主体となって「孤独の指標」の確立もめざす。
クラウチ氏は「ボランティアや活動家、企業、政治家が力を合わせれば、孤独に打ち勝つため前進できる」。これまで民間主導だった孤独対策を国が指揮することになり、個人の内面に公権力が踏み入る危うさをはらむが、社会の受け止めはおおむね肯定的だ・・・

詳しくは原文をお読みください。

社会的孤立が生む認知症

7月4日の朝日新聞オピニオン欄「認知症の予防どうする」、西田淳志・東京都医学総合研究所心の健康プロジェクトリーダーの発言から。

・・・世界的な医学誌、英ランセットに昨夏、「認知症の3分の1は予防可能かもしれない」という趣旨の論文が載りました。
青年期の教育機会の不足や、中年期の聴力低下、高齢期の孤立など、九つの要因を取り除ければ、認知症の発症を35%減らせるかもしれないという内容です。期待される認知症根治薬開発が難航する中、英国でも大きく報じられました。
しかしこれらの要因を減らすことで認知症の発症が実際に予防できたという介入研究による報告は限られており、現状では因果関係についての慎重な解釈が必要だと思います・・・

・・・ただ、この論文が「社会的孤立」を認知症のリスク要因と位置づけた点は、興味深いです。
今年1月に英国で誕生した閣僚ポスト「孤独担当相」のきっかけとなった報告書には、「38%が認知症になったことで友人を失った」とあります。認知症の予防という観点からだけでなく、認知症になっても孤立を生まない社会的な仕組みを、作ることが大事なのだと思います。
孤立を「自己責任」の範疇としている限りは、多くの公衆衛生的課題、健康課題の解決には結びつきません。
その意味で、英国の取り組みは参考になる部分が多いと感じます。英国民保健サービス(NHS)は数年前から、「社会的処方」という取り組みを試行しています。
例えば「寂しく、生きがいがない」と孤独を訴える患者に、地域の絵画教室や運動教室に行く「処方箋」を出し、そうした機会への参加を具体的に手配するのです。
こうした取り組みによって、地域の保健医療費の支出が減るなどの報告も出てきています。
社会的に排除されやすい人々、孤立しやすい人々を地域社会に包摂する具体的な仕組みが認知症予防の観点からだけでなく、総合的な健康政策としても位置付けられるべきだと思います・・・

社会的孤立は、このようなリスクにもつながるのですね。イギリスに「孤独担当相」ができていたのは、知りませんでした。

引きこもり支援の実例

NHKのウエッブニュースに、「不器用でもいいじゃない 元エリート会社員の“ひきこもり”支援」が載っています。引きこもりの人を支援する活動の実例です。
慶應大学の授業で、これからの行政の例として、再チャレンジ施策を講義したので、参考に紹介しておきます。

あわせて、「引きこもりクライシス 100万人のサバイバル」のサイトも紹介しておきます。

弁護士、福祉と連携して出張相談へ

4月30日の日経新聞に「法テラスの出張相談 福祉と連携、利用広げる」が載っていました。

・・・お年寄りや障害者ら、生活面で支援が必要な人が直面する法的トラブルをうまく解決してもらえるよう日本司法支援センター(法テラス)が力を入れている。こうした人たちの被害は法的なサービスにつながりにくい実態があるためだ。今年1月からは、認知症などで被害の自覚がないお年寄りらの自宅での相談に応じる新たな取り組みが始まった・・・
・・・法テラスは開業後、お年寄りや障害者ら福祉支援が必要な人たちの法的課題を巡り「被害が当事者にも認識されず、情報も届いていない」といった反省点が浮かび上がった。その結果、福祉分野で広がる「アウトリーチ」を導入。「相談待ちでなく、援助者の側から積極的に問題を見つけ出す」(法テラス本部)手法で、福祉機関と連携した出張相談などに取り組んできた・・・

記事には、判断能力が低下したと思われる高齢者が金銭の被害にあっていて、それを弁護士が救った事例が紹介されています。
困っている人をどう救うか、自分では判断できない人、行政の窓口に相談できない人をどのように救うか。様々な取り組みが広がっています。

引きこもりの長期化、高齢化

6月3日の朝日新聞オピニオン欄「長引く引きこもり」、山本耕平・立命館大学教授の発言から。
・・・山梨県では、民生委員や児童委員に聞き取りしたところ、ひきこもりの人の6割が40代以上でした。KHJ全国ひきこもり家族会連合会の調査では、平均年齢は2004年の27・6歳から、今年は33・5歳に上がりました。ひきこもっている期間は平均で7・5年から10・8年に延び、いずれも過去最高、最長になっています。
現在40歳前後の人は、およそ20年前に就職するときが就職氷河期と重なりました。非正規雇用を続け、キャリアを積めないことでひきこもる人もいます。
不登校が長引き、自室に閉じこもってゲームばかりする若者のイメージが強いかもしれませんが、こうした調査からは、長期化、高齢化の実態が見えてきます・・・

・・・一度社会に出て働いてからひきこもる中高年齢層への支援は、若年層に比べて手薄です。長期化、高齢化を招いている大きな要因の一つだと考えています。
要因は実に様々で、ひきこもるのを防ぐ、あるいは抜け出す単一の妙手はありません。発達障害や精神障害、中年以降に多いとされる内臓疾患など、直接的な原因が明らかな人は、医療面から解決につながる可能性が高まります。一方、自己責任論が蔓延(まんえん)する世の中で、自身の存在感を否定され、生きる価値を見失ってひきこもる人がはるかに多い。解決に時間がかかりますが、居場所づくり、一般企業とは違う代替的な働く場の提供など、いろいろな対策を総合的に組み合わせる必要があります。
行政はおしなべて「窓口に相談してくれたら、支援します」という姿勢です。外出できずひきこもらざるを得ないのに、ハードルが高くないですか。支援策が「現実社会への適応」に偏っているのも問題です。例えば相手の目を見て話す訓練があります。「同僚と会話が続かない人」向けの就労支援の一つですが、「自分には生きる価値がない」と感じている人に、根本原因を取り除かずに技能訓練だけを行っても、効果は薄い・・・
原文をお読みください。