「再チャレンジ」カテゴリーアーカイブ

行政-再チャレンジ

日本型雇用の変化

7月9日の読売新聞に「脱日本型雇用の波」が載っていました。

・・・大手企業の間で、若手社員の賃金水準を引き上げる一方、中高年社員には早期希望退職などを募って削減を進める動きが目立ち始めた。グローバル競争や産業構造の変化に対応するため、人員の構成を転換する狙いがある。だが、欧米に比べて非効率的とされる働き方の改革は道半ばだ・・・

その中に、電機や製薬業界での早期希望退職の動きが紹介されていました。
・・・人手不足にもかかわらず、企業が希望退職を実施するのは、事業や人員構成の構造転換を図るためだ。バブル崩壊後や2008年のリーマン・ショック後に目立った「リストラ型」とは様相が異なる側面がある。
中外製薬は、18年12月期の売上高が過去最高を記録したが、今年4月、172人の希望退職を発表した。「新薬開発にAI人材が必要」とされるなど、事業環境が大きく変わってきた」(広報)ことが理由という・・・

新卒一括採用、終身雇用を前提に、社員は社内で職場を移り、仕事の内容の変更も受け入れました。しかし、かつてのような組立型工場だった時代から、IT時代の職場になると、「企業内転職」では対応できなくなったようです。社員はどのような技能を身につけて、どの技能を売ることで生きていくか。難しい時代になりました。

就職氷河期世代の支援

7月5日の読売新聞解説欄、山田昌弘・中央大学教授の「氷河期世代支援 30万人正社員化 間に合うか
・・・バブル崩壊後の景気低迷期に就職時期を迎えた「就職氷河期世代」に対し、政府が支援策を本格化させようとしている。何が課題になっているのか・・・
・・・政府は6月に決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」で、就職氷河期世代を対象に職業訓練や採用企業への助成金拡充などを集中的に行い、正規雇用を30万人増やす目標を掲げた・・・

紙面には、「骨太の方針」のポイントが表になっています。その中に、地域若者サポートステーションや引きこもり支援NPOなどが載っています。第一次安倍内閣で、「再チャレンジ政策」が進められましたが、まさにそのときの問題意識は、就職氷河期世代、正規になれなかった人たちだったのです。私は、担当室長でした。
簡単な資料」「保存されている当時の官邸資料

「正規と非正規」「勝ち組と負け組」という言葉が、はやりました。そのような観点から見ると、日本社会は「標準的人生」からはずれた人、何らかの制約を持った人には冷たい社会でした。
アルバイト・パートタイマー・派遣社員は正職員と同じ仕事をしても待遇は悪く、技能を向上させる機会もありません。女性は、補助的業務しかさせてもらえせんでした。学校を中退した若者は、誰もかまってくれません。事業に一度失敗すると、再挑戦の機会は与えられませんでした。

これらの問題は、それぞれに対策が進められています。しかし、これら「標準的と言われる人生を歩めなかった人」という視点で、統一して考える必要があると思います。
その人たちに、どのような支援をするのか。子供たちに「正しい生き方」を教えるとともに、「失敗した際の対応策」をどのように教えるか。
これが、成熟社会日本の課題です。ちょうど、連載「公共を創る」で、そこを書いているところです。

引きこもりの援助

6月24日の朝日新聞連載「ひきこもりのリアル」は、「孤立防ぐ、「お手本」自治体 戸別調査→就労に結びつく活動」です。

・・・ひきこもる人たちの孤立を防ごうと、先進的な取り組みをしてきた自治体がある。各家庭の状況をよく知る保健師ら福祉関係者の情報をもとに、ひきこもる人たちを積極的に訪ね、福祉や医療、就労支援などにつなげようとする手法だ。他の自治体からの視察が相次いでいる・・・

・・・当初、家から出てきてもらおうと、映画鑑賞や卓球などを企画したが「求められていなかった」と菊池さん。「こみっと」でヘルパー養成研修やそば打ちなど就労に結びつく活動をしたところ、しだいに参加者が増えた。
土産品を販売していた男性は十数年間、ひきこもった経験がある。東京都内の会社に就職したが行き詰まり、母親の体調悪化もあって退職。町に戻ったが、職が見つからなかった。
転機は10年6月、社協職員が家に置いていったヘルパー研修のチラシだった。研修参加をきっかけに外に出られるようになった。
113人を追跡した社協の調査(14年度)では、86人が家から出られるようになっていた。ヘルパーになった人のほか、人材バンクに登録して農家の手伝いをする人も。老人クラブなど地域住民も一緒に使う「こみっと」で人と触れ合ったことも効果的だった。現在、ひきこもっている人は10人程度だという・・・

・・・愛知教育大の川北稔・准教授(社会学)の話 高齢者の介護のために各家庭に入った人が、ひきこもり状態の人を見つけるケースは少なくない。親子が同居する世帯は「家族がいるから」と地域の見守りの対象から外れ、結果的に実態把握や支援が後手に回ることもある。かつては「若者の就労支援」としての枠組みが中心だったが、ひきこもる状態が長期化、高年齢化している現状では、本人だけでなく家族が社会から孤立しないような支援体制が必要だ・・・

うつ病からの復帰

5月21日の朝日新聞経済面「幸せのカタチ」「休んだら?うつ病支える側に」から。
・・・うつ病などに悩む人の復職や再就職を支援する施設「リヴァトレ仙台」が4月、仙台市にオープンした。生活習慣の改善やストレスの対処法などを組み合わせたプログラム「リヴァトレ」を提供する。
センター長は吉田淳史さん(36)。かつて自身がこのプログラムを受け、うつ病から回復した一人でもある・・・

・・・「競争社会では一度でも負けたら終わり」。吉田さんは20代のころ、そんなふうに思っていた。大学卒業後、飲料大手を経てリゾートホテル運営会社に転職。掃除や顧客対応などで早朝から深夜まで働いた。
管理職に昇進すると、苦しくなった。パソコンとにらみあい、なるべく多く予約を受けつつ、定員オーバーは絶対に許されない予約管理業務に神経をすり減らした。
東日本大震災が起きた時、担当する福島のホテルでボイラーの調子が悪くなった。キャンセルも相次いだ。不安に襲われた。
朝、起きられなくなった。大事な資料が入ったファイルをシュレッダーにかけてしまった。コピー用紙を冷蔵庫にしまっていた。仕事を続けると周囲に迷惑をかけると思い、震災から半年後に会社を辞めた。
次に転職した大手スーパーでも研修段階からついていけなくなり、2カ月で辞めた。病院に行くと、うつ病と診断された。 吉田さんは病名を知って逆に安心した。
〈だからこんなにつらかったのか〉・・・

・・・吉田さんが受けたプログラムで、農家で畑の雑草を抜く作業の日があった。隣の人よりも早く作業しようと没頭する吉田さんに、スタッフが声をかけた。
「もう休んだらどうですか?」
手を止め、周囲を見回した。ゲームをしている人もいて、そこには緩やかな時間がながれていた。肩の力が抜けた。
〈ゆったり生きた方が幸せなのかな〉
体調が回復してくると、こんどは自分が悩む人を支えたいという気持ちがわいてきた。30歳でリヴァの社員になった。
厚生労働省の患者調査によると、うつ病を含む気分障害の患者数(2017年10月)は127万6千人。96年の2・9倍に増えた。リヴァトレを受けて社会復帰した人はこの8年で約710人。支えの輪が広がっていくことを吉田さんは願っている・・・

古い社会的リスクと新しい社会的リスク

4月4日の日経新聞経済教室、田中拓道・一橋大学教授の「全世代型社会保障の論点(上) 財源負担への納得感醸成を」から。

・・・まず先進国が共通して直面している課題を、「古い社会的リスク」と「新しい社会的リスク」という言葉で確認しておこう。
かつて社会保障とは、男性稼ぎ主の所得喪失を主たるリスクととらえ、医療保険・年金などを通じて人々の生活を保障するものだった。これらは主に高齢期を対象としていた。
ところがグローバル化と産業構造の変化によって、新しいリスクが生まれてくる。先進国の産業が製造業から情報・サービス業へ移行すると、一時的な失業や不安定な就労が増えていく。事務職やサービス業などで女性の就労が拡大すると、仕事と家庭の両立に苦しむ女性も増えていく。現役世代向けの就労支援、子育て支援がなければ、社会の格差は拡大する。

グローバル化が進む中で政府支出を増やすことは難しい。高齢化の進む国では、古いリスクと新しいリスクへの支出を巡って競合が起きやすくなる。
先進諸国では(1)医療・年金など高齢者向け支出の伸びを抑制しつつ(2)労働力の移動を促進し(3)子育てや教育への支援を拡充するという改革の組み合わせが試みられてきた。
ただし、どの国でも改革がうまく進んだわけではない。特に重要なのは、市場の役割を重視してきた米国や英国で社会の分断が広がり、低所得層を中心に保護主義や排外主義への支持が強まったことだ。各国はグローバル化に適応しつつも国内の格差を抑制し、社会の安定を保つという難しいかじ取りを迫られている・・・