日経新聞夕刊「人間発見」、10月13日の週は、藤林武史・元児童相談所長の「傷ついた子どもの心と共に」でした。
・・・精神科医で西日本こども研修センターあかし(兵庫県明石市)センター長の藤林武史さん(68)は福岡市で児童相談所長を18年間務めた。児相に全国で初めて弁護士を常駐させ、虐待などで親と暮らせない子どもが可能な限り里親家庭で成長できるように取り組むなどの改革をリードしてきた。退任後は「子どもの最善の利益」を軸に全国の児相が創意工夫にあふれた挑戦ができるよう支援を続ける・・・
10月15日の「「最後の砦」守った18年」から。
・・・「2003年、福岡市の児童相談所長の採用試験を公募で受験し採用された。」
就任当時の児相の状況は、親や子どもと向き合って支援内容を提案する児童福祉司は、みな児相に異動してきた行政職でした。生活保護の担当経験がある人も中にはいましたが、子ども支援の専門的な訓練はほぼ受けていませんでした。一方で、増え続ける虐待に対応する中で常に疲労感があり、多くの人が「早く他部署に異動したい」と言っていました。
本来、児相職員は専門性が必須です。「いらんおせっかいをするな」と拒む親に「お困りでしょう」と関係をつくる力が重要。「実は助けを借りたい」という親や子の気持ちを観察して、引き出す力が求められるのです。
私は試行錯誤の末、人事課に掛け合い、医療機関などで対人援助の経験がある社会人の福祉職採用を始めました。登山で言えば、3合目からスタートできるようになり、現場に少しずつ活気や安定感が生まれました。
「11年、全国で初めて児相に弁護士を常駐させる改革に踏み切った。今では全国の児相が続いている。」
福岡市では09年から虐待による子どもの死亡事案が続き、職員が疲弊していた。児相は法律上、親の同意がなくても子どもを一時保護できるのですが、親との衝突が大きいと職員の精神的負担も大きくなる。もちろん子どもにも影響します。
そこで児相に子どもをとられると思い抵抗する親に、保護の必要性を熱意や経験則だけでなく、法的根拠も踏まえて説明できれば、職員の精神的負担が軽減できるのではと考えました。虐待死をなくすには、弁護士も参加して、保護すべきだと考えたケースが法的に妥当かどうか迅速に判断するのが良い処方箋になるのではと考えました。
弁護士常駐で必要なケースは保護し、必要のないケースはしない、あるいは保護を解除するという意味では効果はありました。ただ試行錯誤した結果、必要以上に「リスクがあれば、もっと保護すべきだ」というスローガンを唱えても、子どもの命は救えない、というのが私の結論です。
虐待死事案は、児相が関わった時点では事態の切迫度などの法的な保護要件が必ずしもそろっていないことも多い。だから虐待死を防ぐには「保護ありき」ではなく、児相に虐待の相談や疑いの通報があった時に、「SOSが出せない」という親の困りごとをいかに児相職員が引き出せるかが大切です・・・