カテゴリーアーカイブ:社会の見方

世界金融・経済危機とG20の試み

2011年11月15日   岡本全勝

藤井彰夫著『G20 先進国・新興国のパワーゲーム』(2011年、日本経済新聞出版社)が、勉強になりました。
2008年、リーマン・ショック後の世界金融・経済危機に対処するため、G20首脳会議が開かれるようになりました。この本は、G20を軸に、先進国と新興国の、経済と金融秩序を巡るせめぎ合い、イニシアティブの争奪を描いたものです。世界経済や金融についてのニュース、さらに各国の首脳会談のニュースは、断片的にマスコミで伝えられますが、それがどのような流れの中にあるのか。このように、近過去の出来事を、構図の中で解説してくれる本は、役に立ちます。
世界政府がなく、国際連合も十分に機能しない。しかし経済や金融は国境を越えて動き、危機は国家単位では押さえられない。これが現状です。それに対し、どのような仕組み、機構を作って対処するか。G20は条約や決まりもない、任意の集まりです。運用次第で、機能し、また機能しません。これが、歴史と政治のダイナミクスなのでしょう。そしてその役割は、あとで歴史となって理解されるのでしょうね。

リーマン・ショックによる世界金融・経済危機は、2008年9月麻生政権が発足して直ちに直面した、大きな課題でした。まずは、それに忙殺されました。日本が、資金繰りに困る各国を支援するため、IMFに1,000億ドルを融資することを、各国に先駆けて表明しました。各国からは大きな評価を得たのですが、国内ではその意味が理解されませんでした。官邸での総理記者会見でも、官邸詰めの記者さんは政治部が多く、質問も出ませんでした。
国連総会やその場を利用した各国首脳との会談、ASEMAPEC、G20、日中韓首脳会議と、立て続けに国際会議や首脳会談がありました。世界第2位(当時)の経済大国日本への期待の大きさを、肌で感じました。日本が景気刺激のために超大型の財政出動をするので、各国にも付き合ってもらうべく説得すること、大恐慌の轍を踏まないように保護主義を取らないことの説得など。これが世界の経済危機を救う仕事だと、実感しました。
総理秘書官室の担当は、財務省出身、国際金融のプロである浅川秘書官(副財務官)でした。ニューヨーク、北京、リマ、ワシントン、ロンドンと、総理のお供をして、政府専用機で往復しました。ほとんど寝ることもできず。
2008年の世界金融・経済危機は、欧米の金融機関・金融市場が震源地でしたが、今回2011年の世界金融・経済危機は、南欧の国家財政が震源地です。このような危機を克服し、世界の統治の技術、国際機構は進化するのでしょう。

新聞の役割・ビッグネームと読者を結ぶ

2011年11月5日   岡本全勝

10月21日の朝日新聞、オピニオン欄「ようこそ、論争の解放区へ」に載っていた、イギリス、フィナンシャル・タイムズの論評面編集長(コメント・エディター)のジェームズ・クラブツリーさんの発言から。
・・どうすれば自分たちの「商品」がインターネット時代に適応できるか。あらゆる新聞が、それを見極めようとしています。「何が起きたのか」という基本情報はもはや新聞の独壇場ではなく、どこでも手に入る。だからこそ、オピニオンの時代です。
新聞には、見識に裏付けされた質の高い分析・論評が、ますます求められています・・
コメント面は、専属コラムニストと外部執筆者が、ほぼ半分ずつ書いています。エディターの役割は、最もホットなテーマと、それを最も面白く語ってくれる最もビッグなネームを探し出すこと。よそとは違う発想や争点を探し当てるコツが必要なのです。
経済紙なので、読者の中核は投資家や経済人です。何がビジネスに影響を及ぼすかを知るには、政治リスクの理解が欠かせません。企業の四半期決算を見ているだけではだめで、「アラブの春」や福島第一原発事故がわからなければならない。たとえば原発事故では、日本という国がこの危機にどう対処し、それは現代日本のありようをどう語っているのか、といった論評こそが興味を持たれます・・

ユーロ危機、政治の挑戦と経済の失敗

2011年10月31日   岡本全勝

ギリシャに端を発した欧州の債務危機が、大きな問題になりました。なぜ、こんなことになったのか、いろいろな解説がされています。私は、経済と金融という側面とともに、政治による新しい仕組みへの挑戦と混乱という観点に関心があります。10月28日の日経新聞「つまずいた大欧州」、下田敏経済金融部次長の解説「ユーロ、債務危機の試練。統合優先、粉飾見ぬふり」が、要点を整理してありました。

ギリシャがユーロに参加する前に、関係者は強い懸念を表明していました。ギリシャは財政規律や物価抑制の基準を満たすことができず、実際に参加は2年遅れました。その際も、基準を達成したけれど、数値が粉飾ではないかと、疑われていたのだそうです。その後、ギリシャ政府が「自白」しました。
それでもなぜ、参加を認めたのか。今回の債務問題の震源地であるギリシャ、スペイン、ポルトガルは、長く軍事独裁政権が続きました。1970年代に独裁政権が崩壊しましたが、放っておくと政治体制が揺らぐ恐れがありました。欧州統合で、これらの国に政治的安定をもたらそうとしたのです。
その後しばらくは、EUの中欧と東欧への拡大で、経済が拡大し、問題が顕在化しませんでした。ここに来て、露見したようです。

通貨と金融政策は統合したけれど、財政政策は各国に残るという、現在のユーロ制度に、問題はあります。しかし、完璧を期そうとすると時間がかかります。少々のリスクを抱えつつも、大きな目的に向かって改革に挑戦する。それが、進歩を生むのでしょう。
「こんな危険もある」「こんな恐れもある」といっていたら、改革は進みません。もちろん、被害の大きな改革は進める必要はなく、リスクには備えをしながら改革を進めるべきでしょう。しかし、石橋を叩いてばかりでは、前進はありません。メリットとデメリット、それも現在だけでなく将来を見通して進めることが必要です。

独創的な事業を生む社会

2011年10月30日   岡本全勝

読売新聞10月29日「論点スペシャル」は、先日亡くなったアップル社の創業者であるスティーブ・ジョブズ氏に関して、「和製ジョブズ出るか」でした。坂村健東大教授は、次のように述べておられます。
・・日本は10年前から「IT立国」と言い続けてきたが、存在感が薄い。
技術がないわけではない。例えば、ジョブズ氏の会社の製品が使っている部品の半分以上が日本製だ。消費者からは見えないが、ビジネスという点では、日本の企業も結構うまくやっている。
しかし、これから日本で、ジョブズ氏のような、世界を変革するアイデアや製品が誕生するかと聞かれると、難しいと答えざるをえない。そういう社会ではないからだ。
インターネットの検索ソフトを見ると、良くわかる。日本の企業も、グーグル社より前に開発していた。しかし、著作権問題に抵触するのではないかなどの議論が起き、企業側の腰が引けた。
日本の法律は、ドイツをお手本にした「大陸法」だ。すべてのことが事前に想定され、相互に矛盾なく決めようとする。法律を作ったり、改正したりするには、時間がかかる。それで、世の流れに遅れる。
一方、英米法の考え方は、どんどん進めて問題が起きると、裁判の判例で解決する。スピードが速く、IT時代にふさわしい。
アップル社は、インターネット経由で楽曲を取り込む独自サイトを開設した。曲の著作権を巡って訴訟が起こるとわかっていながら進めた。訴訟もたっぷり抱えたが、事業は大成功した。
日本は、こうした訴訟文化になじまない。裁判になりそうな危ない事業には手を出すなという話になる。
人材の流動性もない。「いい学校」を出て、「大会社」に就職することが良いこととされ、いったん勤めると辞めない。つまり大企業が優れた人材を抱え込んでいる・・
・・法律や制度などを変えない限り、ジョブズ氏のような才能があっても、生かせないだろう。

続・法律の輸出

2011年10月19日   岡本全勝

(続・法律の輸出)
先日、日本が明治維新の際に、ヨーロッパから法律を輸入しながら、その後、輸出をしなかったことを書きました(10月8日の記事)。このページでは、かつて「社会の制度・インフラの輸出」を書いたこともあります(2011年1月10日)。
政府のインターネットテレビが、アジア各国に対する法制度整備支援を、紹介しています。少し役人らしい言葉遣いもあり、分かりにくい点もありますが、あまり知られていないことなので、ご覧ください。