カテゴリーアーカイブ:社会の見方

指導者に求められる資質

2012年1月9日   岡本全勝

塩野七生著『ローマから日本が見える』(2008年、集英社文庫)から。

・・「指導者に求められる資質は、次の五つである。知力、説得力、肉体上の耐久力、自己制御の能力、持続する意志。カエサルだけが、この全てを持っていた」(イタリアの普通高校で使われている歴史教科書より)

(編集部)いやはや、イタリアの高校生というのは、すごいことを学校で習うのですね。日本では歴史教育問題が騒がれていますが、この一節を見ると正直言ってがっくり来る・・
(塩野さん)・・私もこの一節を見つけたときには、「参った」と思いました。
そもそも「指導者の資質」などというテーマは日本のビジネス誌でもよく採り上げられる話題ですが、日本の場合なら必ず登場してくる決断力、実行力、判断力などといったことが、ここではまったく触れられていない。その理由はなぜだと思いますか?
要するに、人の上に立とうとする以上、この三つの資質は当然持ち合わせているべきことで、改めて採り上げるまでもない。そう考えられているからです・・

ところで、組織管理者に求められる資質と、指導者に求められる資質は違う。それは何かと、近年考えています。私はこの職業について以来、行政組織管理に関心を持ち、勉強してきました。自ら実践するためだけでなく、後輩たちの参考になるようにいくつか文章も書きました。
(本屋に行けば、古今東西の指導者論と、現代の組織の管理者論が、山のように並んでいます。ところが、ある本には「君子危うきに近寄らず」とあり、別本には「虎穴に入らずんば虎児を得ず」とあります。また、「初志貫徹」を遂げた偉人とともに、「臨機応変」の必要も述べられています。困りますねえ、凡人には。それはさておき)
現在の日本の指導者に求められている能力は、組織管理者の延長ではないと思います。日本社会や会社の経営がうまく行っている時には、そんなに違いはないのかもしれません。しかし、明治以来のあるいは戦後の「日本の成功」と言われた「日本型経済政治行政モデル」が立ちゆかなくなった時に、従来型の組織管理者では、社会や組織を良い方向に転換できないのです。
組織内部をうまく管理すること。これは同じです。違いを簡単に言えば、「外の変化にどう対応するか」と、「将来に向けてどうかじ取りをするか」でしょう。そのための改革を、どのように構成員に説得するか。反対者を説得するかです。
もちろん平時でも、指導者と組織管理者とでは、求められる能力が異なるのでしょう。しかし転換期に、その違いが目立つのでしょう。指導者だけでなく、官僚にも求められる違いもあります。この議論は、もう少し丁寧な説明が必要ですね。今回も、短文でお許しください。

作成者の意図と使う人の都合

2011年12月25日   岡本全勝

公共用のトイレで、トイレットペーパーのロールが横に2つ並んでいる型のホルダーがあります。これは、一つのロールを使い切って紙がなくなっても、困らないようにという意図です。ところが、多くの人は、2つのロールが同じように減るように使います。すると、2つのロールがほぼ同時になくなることになって、設計者の意図に反する結果になります。これを防ぐのが、ロールを縦に2つ並べておいて、一つがなくなったら、次のロールが出てくるようにしたものです。D.A.ノーマン著『複雑さと共に暮らす―デザインの挑戦』(2011年、新曜社)に、書かれていました。
なるほどね。2つロールが並んでいる場合、多くの人は、片方を先に使い切って、もう一つの方を手つかずに残そうとはしないでしょう。必ずたくさん残っているロールを使うでしょう。すると、2つが同じ程度に減っていくのですね。

経済の金融化

2011年12月20日   岡本全勝

ロナルド・ドーア著『金融が乗っ取る世界経済―21世紀の憂鬱』(2011年、中公新書)がわかりやすかったです。金融業が実体経済を上回って拡大し、経済活動の中で大きな比重を占めるようになったこと、金融が実体経済と遊離して動き、時には金融市場と世界経済を危機に陥らせることを、分析しています。
この20年間の世界経済の変化を大まかに言えば、国際化と金融化と言えるでしょう。この本は、後者の金融化について書いたものです。

そして経済と政治との関係は、その変化に対応するための自由主義的改革と、金融・経済危機対策であったと言えるでしょう。しかし、日本はまだ十分な経済産業構造の改革を見いだせず、世界各国政府は十分な金融危機対策を打てていません。
何度もこのホームページで書いているように、国際化によるアジア各国の追い上げで、日本のひとり勝ちは許されなくなりました。加工組立型工場とコメの保護によって成り立っていた地方経済は、成り立たなくなりました。これが、失われた20年の原因の一つです。
金融危機に対しては、2008年のリーマン・ショックには、世界各国が協調してひとまずの対応ができましたが、今年のユーロ危機は、まだ続いています。そして、制度的押さえ込みは、まだできていないでしょう。

ところで、ドーア先生には、かつてコラムで私のホームページの記事を引用してもらったことがあります(2007年10月22日の記事)。お礼のメールを打ったら、イタリアから返事を頂きました(10月23日の記事)。

アジアの社員が日本人従業員を指導する

2011年12月14日   岡本全勝

少し古くなりますが。タイの洪水で工業団地が浸水し、日系企業も操業停止に追い込まれました。企業が生産を続けるために、タイ人従業員を日本に呼び寄せて、部品の生産を始めました。
例えば12月4日の日経新聞は、電子部品会社の例を取り上げています。そこでは、タイから来た熟練工が、日本人従業員を指導していることを書いています。1989年にタイに進出して以来、技術を蓄積していて、「日本人では量産ラインを管理できない」と、日本人社長が述べています。
労働力不足を補うために、外国人労働者の入国を増やすべきか否かの議論がありました。その議論より、現実はもっと先を行っているようです。アジア各国が、経済や技術の面で日本に追いつくことは、「日本は優秀だ」と思っていた人にとっては、少々残念なことでしょう。しかし、日本が世界と共に繁栄するためには、アジア各国と日本の経済格差が縮まることが必要です。

日本企業はアジアで稼ぐ

2011年12月10日   岡本全勝

12月8日の日本経済新聞に、興味深いデータが載っていました。主要128企業が、どの地域で収益を上げているかのグラフです。2011年上期(4~9月)では、アジア・オセアニアで48%です。半分をアジアで稼いでいます。欧州が19%、アメリカが18%。日本(国内)は、4%でしかありません。国内が4%というのは、驚きです。もちろんこの数値は主要128社ですから、企業全体では国内比率は大きくなるでしょう。