カテゴリーアーカイブ:社会の見方

鎌田先生の力作、地球の歴史

2016年10月27日   岡本全勝

鎌田浩毅・京都大学教授が、中公新書を一気に3冊も出版されました。「地球の歴史、上中下」(2016年、中公新書)です。これは、お勧めです。
1 宇宙の誕生から、地球の誕生、人類の誕生、さらには未来の地球まで、130億年を超える壮大な物語が、3冊の新書に要約されています。分厚い本、専門書はあるのでしょうが、これだけコンパクトな本は見当たりません。これだけで、お得です。
2 単に事実の羅列でなく、切れ味良い切り口で、宇宙の誕生、地球の誕生、大陸や大気の誕生と循環が説明されています(すみません、まだ上巻しか読んでいないので)。
先生の言によると、科学的ホーリズム(全体像)、長尺の目、歴史の不可逆性、現場主義の、4つの視点だそうです。
例えば、地球の誕生からの分化が、次のように図示されます(p113)。46億年前に火の玉地球から、45億年前の水惑星、そして陸・水惑星になり、25億年前に生命の惑星になり、1万年前から文明の惑星になります。まあ、その図を見てください。
3 地質学や古生物学が統合され、地球科学になりました。その後、地球だけでなく惑星を研究することで、地球惑星科学になります。天文学、物理学、科学、さらには分子生物学まで取り込んで、地球と生物の進化学になっているのです。
スケールと視野の広さ、そしてそんなところでつながっているのだという意外さに、びっくりします。 私流に理解すると、鍵となる概念は、時間と空間、分化と関連ですね。
4 私たちが学生時代に学んだことが、時代遅れになっています。科学によって、ここまでわかるようになったのかということは、驚きです。私たちが学生の頃は、地学はつまらない学問だと思っていました(失礼)。この本を読むと、わくわくしますよ。
5 随所に、「へ~」が現れます。地球が水球だということは知っていましたが、鉄の惑星だと知っていましたか。月があったことで、今の地球があることも。P波が縦波で、S波が横波ということは学びましたが、S波は物体がねじれるように伝わるので、液体や気体では伝わらないのだそうです。Pがprimaryの頭文字、 Sはsecondaryの頭文字だったのですね。習ったのかもしれませんが、忘れていました。な~んだ。
6 それにしても、よく一人で、これだけの幅広いことを書かれましたね。もちろん、それぞれの分野の知見を拾っておられるのですが、その範囲が半端ではありません。執筆に8年かかったそうです。納得します。
7 そして、いつものように、鎌田先生のわかりやすい語り口です。たくさんの図表がついています。それぞれに出典が書いてあり、先生がわかりやすいように改変しておられます。巻末には、索引と参考文献もついています。高校や大学の教科書になるでしょう。

先生はこれまでに、専門の火山学だけでなく、古典や勉強術まで、たくさんの本を書いておられます。でも、この3冊は間違いなく先生の代表作になるでしょう。「著者インタビュー」もお読みください。
ぜひ、今週末に本屋に行って、3冊買ってください。私も、今日も早々と風呂に入って、続きを読みますわ 。(2016年10月27日)

辞書の販売部数の減

2016年10月20日   岡本全勝

朝日新聞10月17日夕刊「辞書、紙の逆襲 読ませる英語、部数伸ばす」に、次のような数字が載っていました。
・・・全国出版協会・出版科学研究所の「出版指標年報」によると、1993年に約1500万冊だった紙の辞書の推定販売部数は、2000年代に入ると電子辞書に押されて急減。12年には約600万冊にまで落ち込んだ・・・
学生は昔も今も、辞書を買うと思うのですが。買わなくなった人は、どのような人たちでしょうか。(2016年10月20日)

名著の位置づけ

2016年10月8日   岡本全勝

玉木俊明著『歴史の見方 西洋史のリバイバル』(2016年、創元社)が、面白かったです。ヨーロッパ経済史が専門の著者が、西洋史について、特に日本における西洋史の盛衰について書いた本です。
第1部は、近代西洋経済史のいくつかの名著についての書評です。これが、単なる内容の紹介でなく、その本が書かれた時代背景や現在から見た限界を書いているのです。これは、勉強になります。
私たちも、それぞれの分野で名著を読みますが、それがなぜ名著なのか、その本を読んだだけではわかりません。それまでの通説を打ち破ったり、パラダイムを変換したりしたことが、名著に位置づけられるゆえんでしょう。単にそれまでの学界の研究成果をまとめただけでは、概説書や教科書です。そして、その後の研究によって、その名著がどのように乗り越えられたか、今もなお影響力があるとするなら、それはどの部分なのか。門外漢には、わかりません。
玉木先生の試みは、優れたものだと思います。名著=正しいと思っていた私たちに、「あの名著も、その後の研究で、間違っていたとわかった」「このような点が、欠落していた」など厳しい指摘がありますが、それが勉強になります。
第2部は、近代西洋経済史の主要な論点の解説と、日本人が西洋史を研究し日本語で論文を書くことの意味を論じています。これも、一読をお勧めします。これも、興味深いです。
ラース・マグヌソン著『産業革命と政府―国家の見える手』(邦訳2012年、知泉書館)が紹介されています。「神の見えざる手」は、アダム・スミスが『国富論』で主張した市場経済の機能ですが、それだけでは経済の発展はなかった、国家の介入が必要であったことを主張したものです。「国家の見える手」は、よい表現ですよね。使わせてもらいましょう。(2016年10月8日)

漢字の威力

2016年10月5日   岡本全勝

「オートファジー」という言葉が、突然ニュースに出てきて、世間に知られることになりました。ノーベル賞とマスコミのおかげです。
ところで、このカタカナ、多くの人は意味を理解できないでしょうね。日本人の多くは、オートは「自動」だと推測します。ファジーは、少々カタカナ英語を知っている人なら、「あいまい」と理解するのではないでしょうか。インターネットで「ファジー」を検索すると、「ファジーとは英語の“fuzzy”からきたカタカナ英語で、英語同様「あいまいな」「ぼやけた」といった意味で使われる」と出てきます。
この言葉は、ギリシャ語から作られた言葉だそうです。英語圏の人も、「Autophagy」と聞いて、細胞内のタンパク質分解機能ととわかる人は、どれくらいいるのでしょうか。
ところが、これを漢字にすると「細胞の自食」で、何となく細胞が自分を食べるんだとわかります。もちろん、正確な理解ではありませんが、少なくとも細胞の話、生理学の話なのだと当たりがつきます。免疫でのマクロファージ(Macrophage)を知っている人もおられるでしょうが、これも「食細胞」と漢字にすると、何となくわかります。
カタカナ英語は勉強したときは理解するのですが、しばらくすると、意味を思い出せないのです。それに比べ、漢字って、すごいですよね。表意文字と表音文字の違いでしょう。
IT用語もカタカナ英語でなく、漢字にしてもらうと、私たちも理解しやすいのですが。ネット、メール、アドレス、ファイル、アップ、サイト、ウインドウ、プロバイダー、サイバー、ラン・・・(2016年10月5日)

若者の保守化

2016年10月3日   岡本全勝

9月30日の朝日新聞オピニオン欄「若者の与党びいき」から。
平野浩・学習院大学教授の発言
・・・データでは、55年体制時代は年齢層が高いほど自民党支持率が高く、一方で若い層ほど低いという明確な関係がありました。例えば1976年には、50代の自民支持は4割を超えていたのに対し、20代は、どの世代よりも低い、2割弱にとどまっていました。
それが2009年には、20代の自民支持は3割弱に達します。50代は4割とさらに高いですが、支持する政党を答えた人に限ると、自民支持率は50代が57%、20代が58%と僅かに逆転が見られました。衆院比例区での自民党投票率も20代は34%と50代の27%を上回り、70代の38%に次いで高い率を示していました。
今年7月の参院選では、朝日新聞の出口調査で、比例区での自民への投票率は18、19歳は40%、20代は43%に達し、20代は他のどの世代よりも高くなりました・・・

山田昌弘・中央大学教授の発言
・・・若者は現状を打破する政党を支持し、中高年は現状維持の保守を支持する、というのは1980年代までで、今は幻想です。生活満足度の調査では、いまの20代は8割が満足と答える。だから与党に投票するのです。
20代の満足度は、40、50代はおろか70代以上も上回り、全世代で最高です。70年ころまでは一番低かったのと比べると、大きな変化です・・・
・・・横軸に「現状に満足か不満か」、縦軸に「将来に希望があるか悲観的か」という4象限グラフを描きます。現状に不満で未来に希望を持つ人は「革新(ラジカル)」。貧しいが成長に期待が持てた80年代までの若者です。現状に満足で将来に希望がある人は「進歩(リベラル)」。昔の自民党支持者です。現状に満足だが将来に悲観的なのが「保守」。今の日本の若者です。最後が現状に不満で将来にも希望がない「反動」。トランプ現象など右傾化する欧米の若者がここに入ります。
足元を見れば、日本人に最も大切な、安定した人並みの生活への近道は「男性は正社員、女性はその妻になる」。正規雇用は3分の2、非正規が3分の1となり、高度成長期なら誰でもなれた正社員は今や既得権です。私は将来、日本に3分の2と3分の1の分断が起きると思います・・・(2016年10月3日)