カテゴリーアーカイブ:社会の見方

真鍋淑郎さん、他人を気にしすぎる日本

2022年1月11日   岡本全勝

2021年のノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さんの記者会見(10月5日)から(朝日新聞ウエッブサイト

記者 日本からアメリカに国籍を変えた主な理由は?

真鍋 面白い質問です。日本では人々はいつも他人を邪魔しないようお互いに気遣っています。
彼らはとても調和的な関係を作っています。日本人が仲がいいのはそれが主な理由です。ほかの人のことを考え、邪魔になることをしないようにします。日本で「はい」「いいえ」と答える形の質問があるとき、「はい」は必ずしも「はい」を意味しません。「いいえ」の可能性もあります。(会場から笑い)
なぜそう言うかというと、彼らは他人の気持ちを傷つけたくないからです。だから他人を邪魔するようなことをしたくないのです。

アメリカでは自分のしたいようにできます。他人がどう感じるかも気にする必要がありません。実を言うと、他人を傷つけたくありませんが、同時に他人を観察したくもありません。何を考えているか解明したいとも思いません。私のような研究者にとっては、アメリカでの生活は素晴らしいです。
アメリカでは自分の研究のために好きなことをすることができます。私の上司は、私がやりたいことを何でもさせてくれる大らかな人で、実際のところ、彼はすべてのコンピュータの予算を確保してくれました。
私は人生で一度も研究計画書を書いたことがありませんでした。自分の使いたいコンピュータをすべて手に入れ、やりたいことを何でもできました。それが日本に帰りたくない一つの理由です。なぜなら、私は他の人と調和的に生活することができないからです。(会場から笑い)

新聞を毎日読む人は20代3%

2022年1月9日   岡本全勝

12月28日の朝日新聞経済欄コラム経済気象台、「新聞読者の少子化」から。

・・・「20代以下4%」。ある電機メーカーの社内報が「新聞を毎日読んでいるか」を社員に尋ねた結果だ。30代12%、40代23%、50代30%、60代42%とつづく。
新聞通信調査会が先月発表した「メディアに関する全国世論調査」の結果では、「新聞を毎日読む」人は20代3%、30代9%、40代21%、50代42%、60代58%だった。
両者を比較すると前者は50、60代の値が後者より十数ポイントも低いが、いずれにせよ日本の若者が新聞を読まないのは事実のようだ。
全国調査は2008年が初回で、新聞を読む人の割合は全世代とも年々減少傾向にある。読まない人が歳を取ると読み始めるわけではない。10年後に30代の値が3%以下になることも予見される。新聞読者の「少子化」は深刻だ。
朗報は20代の49%、30代の68%がインターネットのニュースは毎日読むと回答したことか。興味関心に合う記事を「スマートニュース」などキュレーションアプリで取捨選択し、スマホで読む様子が調査結果からうかがえる・・・

新聞社が読者開拓に失敗していることが分かります。ニュースを見るだけなら、インターネットやテレビの方が早いです。新聞の長所、すなわち、世界中のニュースを編集してくれること、それによって何が起こっているのか何が重要なニュースかが分かること、関心事以外のニュースも目に入ること、専門家による解説が載っていることなどを、若い人に説明しなければなりません。
かつてのように、競争相手のメディアがない時代ではありません。インターネットに流れる若者を新聞購読に誘導するように、各社が販売促進に努力しているようには見えないのです。

組織がつく嘘、上司の責任

2022年1月5日   岡本全勝

国土交通省の建設工事受注動態統計調査書き換え事件、三菱電機での品質不正、日立製作所子会社での検査不正・・・。役所や企業での嘘をつく行為が続いています。

日本人は正直だ、日本の組織は倫理観が高いといった、これまでの通説を覆す事案です。これまで行われていた不正が表に出たということで、現在が悪いのではなく、過去から悪いことをしていたのです。ということは、日本人の職業倫理観が高いという通説は間違いだったのか、どこかの時点で悪化したのでしょうか。

三菱電機の調査委員会報告書では、「ビジネスの根幹に関わる倫理観や規範意識が低下していた」と批判しています。読売新聞記事「三菱電機、不正5製作所29件…検証報告書「倫理観や規範意識低下」」(12月24日)には、次のようにも書かれています。
・・・調査委が全従業員向けに実施したアンケートの回答内容を、会社に提出するよう上司から求められたとの相談も複数寄せられた。「従業員が率直に声を上げることを良しとしない考えが表れている」として、厳重な注意を行ったという。
「不正をやめたい」と管理職に進言したところ、逆に 叱責 を受けた担当者もいた。管理職に相談しても問題解決が期待できず、「言ったもん負け」の文化があるとの指摘は、前回報告に続き、今回の調査対象の製造拠点でも確認された・・・

12月30日の朝日新聞は、1面でその原因を解説していました「繰り返される不祥事、声上げられぬ社員「上層部は自己保身に走る」」。
・・・大企業で不祥事が繰り返されるのは、社員が声を上げられず、経営陣の問題意識も低いためだ。各社の調査報告書は「上にものが言えない」問題を指摘する。
三菱電機の調査委員会の報告書は、不正を知っても通報できなかった社員の声を紹介している。「上層部が自己保身に走る」として信頼されず、組織にとって都合の悪い情報を吸い上げられなかった。
みずほ銀行では、2月に4千台以上のATMが停止した際などで顧客への周知が遅れた。藤原弘治頭取が障害を知ったのはネットニュースだった。調査報告のアンケートなどでは、経営陣に忖度する「内向きの姿勢」があったという。

東京電力ホールディングスでは再稼働をめざす柏崎刈羽原発(新潟県)で、社員が他人のIDカードを使って中央制御室に入っていた。侵入者を検知する装置の不備が放置されるなど、「核セキュリティー」の基本が守られていなかった。
東電の「核物質防護に関する独立検証委員会」が9月に出した報告書からは、社員の苦悩が伝わってくる。アンケートで「正直にものを言えない風土があったと感じるか」についてたずねたところ、柏崎刈羽の役職員の27%が感じている(「どちらかというと」を含む)と答えた。組織が責任を回避し個人に「丸投げ」していると感じている人もいた・・・
この項続く

巨大情報通信企業の情報開示

2022年1月4日   岡本全勝

12月24日の日経新聞、ファイナンシャルタイムズ、ラナ・フォルーハーさんの「テック大手、広く収益開示を 個人情報の価値反映」から。

・・・米国のアルファベットやアマゾン・ドット・コム、メタ(旧フェイスブック)といったプラットフォーム大手や、マイクロソフトが利用者に関する多くの情報を追跡しているのは周知の事実だ。
ただ、検索から電子商取引、SNS(交流サイト)、クラウドコンピューティングまで、これら企業が運営するプラットフォームで得る情報からいかにして利益を得ているかはあまり明らかではない。彼らが握る情報量の多さに対し我々、利用者の知る量はあまりに少ない。この非対称性は、大手テックへの核心的批判の一つとなっている。
米欧の規制当局は、テック大手がこの情報の非対称性を武器に消費者や企業顧客に不利な状況を作り出している点を問題視し、調査している。

英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)のイノベーション公共目的研究所(IIPP)が12日に発表した報告書は、テック大手への逆風をさらに強める内容だ。これによると、テック大手は米証券取引委員会(SEC)の年次報告書(10K)の開示規則を逆手にとって、本来なら提供すべき詳細な財務情報の開示を回避しているという。
米オミダイア・ネットワークが資金を提供したこの研究プロジェクトでは、UCLの研究者のイラン・ストロース氏、ティム・オライリー氏、マリアナ・マッツカート氏、ジョシュ・ライアンコリンズ氏がSECの開示規則がデータを収益化するIT大手の事業モデルに適しているかを調べた。結論はあまり適してないというものだった。
消費者物価を企業の独占力の尺度とする米国の現反トラスト法(独占禁止法)が、無料でサービスを提供する代わりに利用者のデータをテック企業が得る手法が横行する今の時代に不向きなように、SECの現在の開示規則も大量の個人情報を使って巨額の利益を稼ぐ監視資本主義には適さない。

根本的問題が2つある。第一は、今の金融規制当局は財務情報にしか目を向けていない点だ。テック大手は無料でサービスを提供し、利用者の増加がさらなる利用者増につながるネットワーク効果を発揮できる規模まで利用者を増やすことで自社のあらゆる製品やプラットフォームからデータを収集、それを収益化している。財務情報しか開示せずにすむおかげで、テック大手は市場を支配している実態を隠して利益率を上げ、様々な不公正な方法で自社プラットフォームの優位性を高めることが可能になっている。
第二にテック大手など多様な事業を抱える複合企業のセグメント開示に関するSEC規則は、プラットフォームで収集するデータに秘められた巨大な価値を認識していない。今の規則は収益を直接的に生む製品しか対象にしていない。テック大手を理解していれば誰でもわかるが、膨大なデータを集積し、それを収益化できる点に価値がある・・・

佐伯啓思先生「資本主義の臨界点」2

2022年1月3日   岡本全勝

佐伯啓思先生「資本主義の臨界点」」の続きです。
・・・ところが、高度な工業化による大量生産・大量消費による経済成長は、先進国では1970年代には頂点に達する。そこでその後に出現した「成長戦略」は何かといえば、80年代以降のグローバル化、金融経済への移行、それに90年代の情報化(IT革命)であった。先進国は、グローバル化で発展途上国に新たな市場を求め、新たな金融商品や金融取引に利潤機会を求め、ITという新技術にフロンティアを求めた。そして、その結果はどうなったのか。
それらは、ほとんど先進国に富も利益ももたらさなくなりつつある。グローバル化は中国を急成長させたが、米欧日などの先進国は、成長率の鈍化、格差の拡大、中間層の没落などに悩まされる。モノの生産から金融経済への移行は、金融市場の不安定化と資産の格差を生み出した。情報革命は一握りの情報関連企業に巨額の利益を集中させた。いわゆるGAFA問題である。明らかに新たなフロンティアは限界に達しつつある。

今日、先進国は、一方では、格差問題の解消へ向けた所得再分配に舵をきるといい、他方では、改めて新興国の市場を取り込むグローバル化と、デジタル技術の革新に活路を求めている。結局「グローバリズム」と「イノベーション(技術革新)」を成長に結びつけ、その成果をもって格差を是正しようというのである。
では「グローバリズム」と「イノベーション」は成長を可能とするのだろうか。話はそれほど簡単ではない。グローバリズムは、今日、国益をめぐる国家間の激しい競争へとゆきついた。成長戦略や経済安全保障を政策に組み込んで国益を積極的に実現することが国家の責務となった。自由な市場競争どころではない。新重商主義とでもいうべき国家主導の経済戦略なのである。

また、イノベーションが経済成長を実現するなどと気楽に構えるわけにはいかない。今日のイノベーションは確かに一企業の生産効率を高め、労働コストを低下させることは事実であろう。しかしそれが意味するのは、勤労者の所得の低下である。少なくとも総所得が上昇するとは考えにくい。ということは、総消費は増加せず、GDP(国内総生産)の増加はさして見込めないであろう。
かくて、AIやロボットや自動運転装置等のイノベーションは目覚ましく、確かにわれわれの生活を変えるであろうが、だからといってそれが経済成長につながるという保証はどこにもない。新技術が大衆の欲望フロンティアを開拓して大量生産・大量消費の好循環を生み出した高度成長の60年代とはまったく異なっている。
とすれば、空間、技術、欲望のフロンティアを拡張して成長を生み出してきた「資本主義」は臨界点に近づいているといわざるをえない。「分配」と「成長」を実現する「新しい資本主義」も実現困難といわざるをえないだろう・・・

・・・近代社会とは、人間が、己の活動や欲望について無限の拡張を求める社会であった。科学や技術によって自然を支配し、それを自らの自由や欲望の拡張に向けて改変する時代であった。そこに無限の進歩があるとみなした。資本主義は、近代人のこの進歩への渇望に実にうまく適合したのである。
そして今日われわれは、人間の外部に横たわる自然を改変するだけではこと足りず、AIや遺伝子工学、生命科学、脳科学等によって、われわれ自身を改変しようとしている。これらの新しいテクノロジーによって一層の自由や富や寿命を手に入れようとしている。本来的に有限で、いわば「死すべきもの」である人間が、無限で「永遠なるもの」へと接近しようとしているようにも見える。人間が人間という「分限」を超え出ようとしている。近代の欲望は、まだ「有限性」の中にあって少しずつフロンティアを拡張するものであった。だが最近の技術は、それさえも超え出てしまったのではなかろうか。
皮肉なことに、人間の「有限性」を突破しかねない今日の技術のフロンティアにあって、先進国は経済成長の限界に突き当たっている。われわれはようやく「資本の無限の拡張」に疑いの目をむけつつある。とすれば、われわれに突き付けられた問題は、資本主義の限界というより、富と自由の無限の拡張を求め続けた近代人の果てしない欲望の方にあるのだろう・・・