カテゴリーアーカイブ:社会の見方

国際と国内の分断

2023年1月16日   岡本全勝

1月4日の朝日新聞オピニオン欄、板橋拓己・東大教授の「2度目の大戦を招いた「戦間期」と今の類似点 何に再び失敗したのか」から。

――現在の国際情勢は、二つの世界大戦の間の「戦間期」に似ているともいわれます。
「今のロシアを、戦間期ドイツのワイマール共和国と重ねる見方は多いですね。巨大な国家が解体した後に帝国意識が残存したという点、いったん経済的に破綻(はたん)しかかったという点で共通しています。ワイマールは1920年代にハイパーインフレと大恐慌を経験し、ナチスが台頭した。ロシアも90年代に経済的に大きく混乱し、その後プーチン氏が強大な権力を握りました」
「もちろん戦間期と現代で、全体状況は大きく違います。その中で、あえて現在と似ている点を探すとすれば、大きな戦争後の『秩序構築』に失敗したことと、社会が極度に分断されていることです」

――「秩序構築の失敗」とは。
「欧州諸国が血みどろの戦いを繰り広げた第1次世界大戦は、世界に大きな傷痕を残しました。その戦後の秩序構築が、戦間期の20年間の課題でした。冷戦終結後の30年間も、大きな『戦争』の後の秩序構築という側面がある点では似ています」
「しかし、戦間期の秩序構築は失敗でした。第1次大戦後に成立したベルサイユ体制やワシントン体制は、勝者側の論理で作られた国際秩序でした。やがて、ドイツ、イタリア、日本のような現状打破を目指す国の挑戦を受けることになった」

――冷戦終結の後はどうだったのでしょうか。
「米国の歴史家サロッティは、冷戦後の欧州の秩序は『プレハブ構造』だと指摘しています。NATO(北大西洋条約機構)などの西側の秩序は、冷戦のためにつくられたものです。冷戦終結後、根本的につくり替えてもよかったはずですが、実際にできたのは西側の秩序を建て増したプレハブでした。基本的な構造は変わらないまま、NATOとEUが東に拡大していった」
「旧社会主義国の人々を、冷戦に負けたという屈辱感なしにどうやって国際社会に包摂するか。90年代に模索は重ねられましたが、うまくいかなかった。その反動としてプーチン氏のような人が出てきた。冷戦後の秩序構築の失敗の結果として、今回のロシア・ウクライナ戦争を捉えることもできるかもしれません」
この項続く。

「男らしさ」が招く生きづらさ

2023年1月15日   岡本全勝

12月30日の日経新聞経済教室「生きづらさを考える」、奥田祥子・近畿大学教授の「「らしさ」の呪縛 解き放て」から。

・・・人生で直面する様々な困難や苦悩が、「生きづらさ」という言葉で語られる機会が増えた。筆者は生きづらさは個人に起因する問題ではなく、社会構造を問うべき課題として捉えている。だが、情報がメディアを介して広まる過程で生きづらさの要因が単純化され、問題の所在が曖昧になるケースが散見される。
例えば、ジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラム発表)に関する報道は、女性をひとくくりにして平等の恩恵を享受できていない"被害者″のレッテルを貼り、「生きづらさ」の象徴としての女性像を流布している面が否めない。
一方、経済協力開発機構(OECD)の「幸福度白書」など複数の国際調査で、日本は男性の幸福度が女性よりも低いことが明らかになっているが、詳しく報じられることはない。男性の生きづらさは日本では社会問題とは認識されず、政策議論の俎上に載ることもない・・・

・・・まず、生きづらさの根底にあるのは、男は「出世競争に勝ち、社会的評価を得なければならない」「一家の大黒柱として妻子の経済的・精神的支柱であるべきだ」「弱音を吐いてはいけない」など、旧来の「男らしさ」のジェンダー(性)規範である。
笹川平和財団が2019年に公表した「新しい男性の役割に関する調査報告書」によると、日本の男性の53.7%が「仕事では競争に勝ちたい」、60.8%が「男は妻子を養うべきである」と答えた。ほかにも「他人に弱音を吐くことがある」が「当てはまらない」が60%を占め、固定的な「男らしさ」を志している男性が多いことが浮き彫りとなっている・・・

・・・生きづらさを抱えた中年男性が職場で引き起こす問題のひとつが、部下や同僚へのハラスメント行為だ。多くが無自覚のうちに、パワハラやセクハラに及んでいる。背後には、自身の価値観や行動規範に基づいて物事の是非を決めつけるなどのアンコンシャス・バイアスが根深く潜んでいる。
インタビュー調査では「部下のためを思った助言だった」「過去に自分が上司から受けた指導を受け継いだだけ」などの発言が目立ち、事実認定され、懲戒処分を受けた後でも、ハラスメント行為を自認できない男性も多かった。
画一的で排他主義的な組織で成り立っていた「男社会」を観念的に支えたのが、「男らしさ」規範だ。多様性受容やジェンダー平等を世界が希求する今、男社会は機能し得なくなっている。にもかかわらず、古い価値観に固執する土壌にハラスメントは起きやすい。

中年男性の生きづらさのもうひとつの負の影響が、プレゼンティーイズム問題である。プレゼンティーイズムとは、心身の不調を抱えて働き、職務遂行能力が低下している状態を指す。生産性低下を招く、企業活動において深刻な問題だ。
職場のパワーゲームに敗れるなど、自身が目指す「男」像を実現できないつらさからストレス過多となり、心身に不調をきたす。それでも弱音を吐かず、働き続けなければならないという心理的負荷を伴った労働により、職務遂行能力が低下するという悪循環に陥っている。武藤孝司・独協医科大学名誉教授は20年に発表した論文で、疾患の種類にかかわらず欠勤よりもプレゼンティーイズムのほうが生産性損失が大きい、という米国の研究結果を紹介している・・・

参考「男性的働き方が障壁」(1月7日)

豊かでない日本を生きる知恵

2023年1月14日   岡本全勝

12月21日の朝日新聞、小説家・青山文平の「豊かでない日本を生きる智慧 1995年のニューヨークと2022年の東京」から。

・・・私が初めてニューヨークの地に立ったのは1995年の冬でした。いまとなっては信じがたいのですが、当時のアメリカ経済は最悪で、一人当たりGDPは日本の65%。1ドルはなんと80円を割る超円高。街は荒れ、私もティファニーの真ん前で、悪名高いボトルマンに剃刀をちらつかされてゆすられました。セントラルパークは観光客が足を踏み入れる場所ではなかったし、一丁目と八丁目は絶対に行ってはダメという意味で、“いちかばちか”などと言われた。

それから、27年。日米の経済力は完全に逆転し、最新のレートで計れば一人当たりGDPはアメリカのわずか半分。為替は一時は1ドル150円を超え、いまも予断を許さぬ状況がつづいています。こうした数字だけを見れば、2022年の東京が1995年のニューヨークになったっておかしくはありません。
でも、銀座和光の前で恐喝に遭うことはまずないだろうし、日比谷公園でくつろぐことだってできる。相変わらず、東京に足を踏み入れてはいけない街区などありません。円安による物価高とはいえ、まだ治安の悪化を招くほどには追い詰められていないからとも言えるのでしょうが、江戸時代の中後期を舞台にした小説を書いている私は、そこに日本人の文化が現われているような気もしています・・・

・・・中期よりあとの江戸は、地方から出てきた流動民が人口の多くを占める百万都市でした。自給自足ならば食うことだけはできたであろう百姓が、カネで暮らす世の中になって借財がかさみ、田畑を離れざるをえなくなっていったのです。当然、江戸での暮らしも楽であろうはずがなく、張り巡らされた運河に、水死体を目にするのは珍しくなかったようです。食うや食わずで、明日は大川に身を投げているかもしれない連中が、土間を入れても四畳の裏店に身を寄せ合って、今日はへらへらと笑っている。そんな、いつ弾けても不思議はない社会だったのです。
けれど、江戸二百六十余年の時の重なりのなかで、実際に打ちこわしが起きたのは、幕末の混乱期と享保や天明の大飢饉のときくらいしかありません。それも極めて秩序立って行われて、抑制が働いていたようです。これは江戸だけのことではなく、中期以降は各地で百姓一揆が多発するのですが、一揆勢が手にする得物は鍬(くわ)や鉈(なた)などの農具で、刀剣のたぐいは持とうとしなかった。あくまで、百姓としてやむなく立ち上がったことを、武器でも示そうとしたのです。

負荷がかかっても我慢がきいて、あるいは、するりと逃す術(すべ)を身につけていて、簡単には弾けない……それは日本人の文化と言ってよいだろうし、そして、その文化は、これからますます大事にしなければならなくなる気がします。2022年は、長い日本経済の停滞が、もはや停滞などではなく常態であることを、いやが上にも突きつけられた年でした。豊かな日本を取り戻すのは至難でしょう。でも、私たちには、豊かではない日本を生きる智慧だってあることは、覚えておきたいと思います・・・

教員の心の病

2023年1月11日   岡本全勝

12月27日の朝日新聞に「教員「心の病」、コロナ響く 昨年度休職急増、最多の5897人に」という記事が載っていました。
・・・昨年度に「心の病」で休職した公立の小中高校などの教職員は前年度比694人増の5897人で、過去最多を更新したことが26日、文部科学省の調査でわかった。5千人を上回るのは5年連続。1カ月以上病気休暇を取っている人を合わせると1万944人に上り、初めて1万人を超えた。教員の多忙さの抜本的な改善が進まないなか、若手ほど心の病による休職者・休暇取得者の比率が高い実態も浮かんだ。
都道府県や政令指定市の教育委員会を対象に調べた。精神疾患による休職者と、1カ月以上病気休暇を取った人を合わせた数は前年度から1448人増えて1万944人。うち20代は2794人で、この年代の在職者に占める割合は1・87%と年代別で最多だった。30代は2859人で1・36%、40代は2437人で1・27%。50代以上(2854人、0・92%)と比べると若い世代で目立つ・・・

・・・関東地方の公立小学校に勤める30代前半の女性教諭は今年度、ある学年のクラス担任を頼まれた。暴力をふるう子や授業中に座っていられない子が少なくないため、担当する教員が対応に苦慮してきた学年だ。
目を離せばけんかやトラブルが起きた。休み時間も教室を離れられなかった。下校後は行事の準備や事務作業に追われ、退勤は毎日、午後10時ごろになった。
ある朝。支度を終え、出勤しようとしたが、体がまったく動かず、涙がとまらない。病院で精神疾患との診断を受け、当面、休職することになった。
振り返れば、クラスを抱え込み、孤立していた。病気などで休む教員がいて、欠員補充はなし。その分、校長ら管理職も授業を受け持つ状況。相談できる人はいなかった。「もっとサポートがほしかった」・・・

この問題の原因と対処については、先日書いた「発達障害の児童生徒への支援」の続きにもなります。

発達障害の児童生徒への支援

2023年1月9日   岡本全勝

年末に、児童生徒の8.8%に発達障害の可能性があることを紹介しました。12月29日の日経新聞は、「学習困難な子 支援手探り」を伝えていました。

・・・学習などに困難を抱える児童生徒への支援が十分に行き届いていない。13日公表の文部科学省の調査で、通常学級の小中学生の8.8%に発達障害の可能性があるとされ、35人学級なら3人ほどの割合になる。このうち4割は授業中の個別の配慮を受けていなかった・・・

明治以来の、よい子を育てる、優秀な人を育てる教育は、よい成果を上げたのですが、他方で落ちこぼれる子供に対して十分な支援ができていませんでした。
優秀な生徒は比較的手がかかりません。教員が困るのは、ついてこられない生徒、家庭の事情で勉学に専念できない生徒支援や、モンスターペアレント対策でしょう。大学の教員課程でも、それらの技術が十分に教えられていないようです。