カテゴリーアーカイブ:社会の見方

近代化で受けた心の傷

2023年3月4日   岡本全勝

2月18日の朝日新聞読書欄、モリス・バーマン著『神経症的な美しさ アウトサイダーがみた日本』(2022年、慶應義塾大学出版会)についての、磯野真穂さんの書評「急速な近代化がもたらす後遺症」から。

・・・本書前半の一節が甦った。
「(あらゆる先進国が)中世から近代への移行によって受けた傷は精神的・心理的なもので、現実の始原的な層(レイヤー)を押しつぶし、そこに代償満足を補塡した――実に惨めな失敗に終わったプロセスである(略)そこには、実存ないしは身体に根ざす意味の欠如がつきまとっている」
・・・
著者は日本を先進国への移行過程で最も傷を負った国であるとする。英国が200年かけた近代化を、日本は20年ほどで成し遂げねばならなかったからだ。古来より受け継がれた暮らしのあり方を捨て、西洋を模倣し続けた日本人。その精神は西洋への憧憬と、心の核を求める煩悶の間で分裂し、虚無に泳いだ。これはあらゆる先進国が抱える問題であるが、日本はその速度ゆえ、後遺症が神経症レベルで現れ続けていると著者は分析する・・・

まちづくりでの、都市工学と社会学

2023年2月27日   岡本全勝

東京大学出版会の宣伝誌『UP』2月号には、野城智也、吉見俊哉両教授の対談「プロジェクトも、人生も、グルグル進む 『建築・まちづくりプロジェクトのマネジメント』をめぐって」も載っています。

お二人は、専攻は違いますが東大教授で、高校からの同級生だそうです。
野城先生は都市工学、吉見先生は社会学と理系と文系に分かれているのですが、それぞれ理系と文系の(本流でない)「その他」であり、文理の壁を越えてお互いに近いと話しておられます。なるほど。

そして「まちづくり」の場合、イギリスでワークショップが開かれると、参加者の3分の1くらいが建築関係で、残りは社会学者などさまざまな人たちが集まってくるのだそうです。これも納得。
家を建て道路を造っただけでは、住みよい町はできないのです。
さらに例えば公営住宅の課題は、不足するので数を増やすとか、質を高めることから、住民の高齢化、孤立が主たる課題になっています。土木の領域を超え、福祉の領域になっているのです。

日本人は世間の目を気にするか

2023年2月26日   岡本全勝

日本人論や日本特殊論の定番に、「日本人は世間の目を気にして行動する」という説があります。確かに、法律で強制していないのに、みんながマスクを着用することなどは、世間の目を気にしているということで説明がつきます。「世間という同調圧力

他方で、「本当かな」と思う事例もあります。私たちは子どもの頃から「人に笑われないように」と教育されてきました。でも、朝の通勤通学の電車中で、たくさんの人がスマートフォンのゲームやドラマに熱中しているのは「みっともない」とは思わないのでしょうか。

国際社会においても、明治以来、「西洋先進国に遅れてはいけない」と「笑われないように」と言われてきました。ところが、1991年の湾岸戦争で、石油をこの地域に大きく依存しているのにもかかわらず、不法なイラク軍を追い出すために関係国が軍隊を派遣する中、日本だけがお金で解決しようとして、世界から厳しく批判されました。
上記のマスクについても、現在ではほとんどの国で着用をやめたのに、日本はまだ守っています。先日ヨーロッパに出かけた知人が「誰もマスクをしていなくて、している自分が恥ずかしかった。すぐに外しました」とのこと。

これらを見ていると、どうも日本人が気にする「世間の目」は一貫せず、ご都合主義的です。そして、「自分では判断したくない」「大きな負担はいやだ」という意識の表れのようにも見えます。
それにしても、エスカレーターの右側が空いているのに、左側に延々と並んで待つのは、やめませんか。非効率です。鉄道会社が「二列に並んで、手すりを持って・・・」と呼びかけているのに、改善されませんね。

デジタル技術を活用した労災防止

2023年2月25日   岡本全勝

2月16日の読売新聞夕刊に「建設業労災 DXで防げ AI危険予測やVR研修」が載っていました。

・・・労働災害による死者が業種別最多の建設現場で、デジタル技術を活用した安全対策を導入する動きが広がっている。人工知能(AI)が危険を予測するシステムや仮想現実(VR)技術を応用した安全研修などを取り入れ、作業員の安全向上につなげる企業も出始めた。厚生労働省も活用を積極的に後押しする。

清水建設(東京)は、人と重機の接触を防ぐシステムの開発を進めている。重機に取り付けたカメラ画像をAIが解析し、人が重機に近づくと警報音が鳴るシステムだ。
AIが人を認識するのに学習させたのは、人体の全身骨格。体の一部が積まれた資材に隠れていたり、かがんでいたりしても検知できる。現在、トンネル掘削現場などで実証実験を重ねており、危険を検知すると重機が自動で止まるシステムの搭載を目指す。・・・

・・・厚労省労働基準局の美濃芳郎・安全衛生部長は「デジタル技術の活用で現場の安全対策だけでなく無人化など作業の効率化も進めば、労働災害のリスクや労働時間を減らすことができ、従業員の職場定着にもつながる。新技術の研究開発や企業への導入を促す取り組みを進め、業界の魅力を高めていきたい」と話している・・・

近藤和彦先生「『歴史とは何か』の人びと」

2023年2月24日   岡本全勝

近藤和彦先生が、岩波書店のPR誌『図書』に、「『歴史とは何か」の人びと』」を連載しておられます。2月号は、「R・H・トーニと社会経済史」です。
9月号トリニティ学寮のE・H・カー 、10月号謎のアクトン、11月号ホウィグ史家トレヴェリアン、12月号アイデンティティを渇望したネイミア、1月号トインビーと国際問題研究所。

これは面白いです。20世紀前半のイギリス歴史学を担った人たちの「肖像画」「舞台裏」です。学者は書き上げた論文で評価されますが、それは機械が作るのではなく、血の通った人間が作るものです。彼らが置かれた環境、育った経歴、意図したところが、論文を作り上げます。新しい歴史学を作った人たち、新しい見方を作った人たちには、もちろん時代背景もありますが、それだけではなく、それを生み出す個人的な背景があります。人間くささが、私たちを引きつけます。

雑誌『図書』は、1冊100円、年間1000円で、ほかにも興味深い文章を読むことができます。大きな本屋では、ただでもらえます。お得です。
近藤和彦訳『歴史とは何か』