近代化で受けた心の傷

2月18日の朝日新聞読書欄、モリス・バーマン著『神経症的な美しさ アウトサイダーがみた日本』(2022年、慶應義塾大学出版会)についての、磯野真穂さんの書評「急速な近代化がもたらす後遺症」から。

・・・本書前半の一節が甦った。
「(あらゆる先進国が)中世から近代への移行によって受けた傷は精神的・心理的なもので、現実の始原的な層(レイヤー)を押しつぶし、そこに代償満足を補塡した――実に惨めな失敗に終わったプロセスである(略)そこには、実存ないしは身体に根ざす意味の欠如がつきまとっている」
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著者は日本を先進国への移行過程で最も傷を負った国であるとする。英国が200年かけた近代化を、日本は20年ほどで成し遂げねばならなかったからだ。古来より受け継がれた暮らしのあり方を捨て、西洋を模倣し続けた日本人。その精神は西洋への憧憬と、心の核を求める煩悶の間で分裂し、虚無に泳いだ。これはあらゆる先進国が抱える問題であるが、日本はその速度ゆえ、後遺症が神経症レベルで現れ続けていると著者は分析する・・・