カテゴリーアーカイブ:社会の見方

中間層が壊れた日本

2023年3月8日   岡本全勝

2月26日の読売新聞言論欄、駒村康平・慶応大教授の「逆風の世代 自己責任でない」から。

・・・日本の大きな問題の一つは、働き盛りの、子育て世代の中間層が壊れてしまっていることです。
厚生労働省の調査をみると、2002年には30代後半の男性の40%が月給30万円台でしたが、19年は33%に減りました。一方で20万円台は31%から40%へ増え、20万円未満の人も合わせ、ほぼ半数が月給30万円に届いていません。分布をグラフにすると、「真ん中」部分がつぶれ、「真ん中より下」が増えていることがわかります。

バブル崩壊や国際的な価格競争の中で、非正規雇用の増加と賃金抑制の流れが続き、中間層が壊れていきました。今の日本は、働き盛りで、結婚するタイミングの若者たちに「向かい風」が集中しています。それを放置し続けたことが未婚率の上昇、出生率の低下につながっているのだと思います。
中間層を再生させ、将来の展望を持てるようにすることが、少子化対策になるはずです。
統計的に、男性の未婚率は年収300万円未満で高くなっています。特に若い世代の賃金を引き上げなければなりません。労働者の賃金アップの交渉力を高める仕組み作りが重要だと思います・・・

・・・コロナ禍で、従来のセーフティーネット(安全網)に見直しの必要があることを強く感じました。「最後のセーフティーネット」と言われる生活保護は、限定的な役割しか果たせなかったからです。
経済がストップし、雇用保険を受けられる期間で再就職が決まらなかった人や、非正規で仕事がなくなった人が困りました。ただ、生活保護を受けられる収入の状況でも、申請しない世帯が多かった。

家族との関係は切れました、就労に困難な状況があります、などと「自分がいかに困っているか」を証明して初めて受け取ることができる生活保護の申請には、心理的なハードルがあるからです。
最大200万円借りられる「特例貸付」が設けられ、335万件、総額1・4兆円の利用がありました。ただ、生活保護を受けられる状況なのに申請せず、特例貸付を利用した場合、住民税が非課税でなければ返済は免除されません。今後、返済義務が生じますが、その余裕がない人も多いはずです。

生活保護より手前の段階で、別のセーフティーネットがもっと充実している、というのが望ましい形だと思います。生活困窮者を対象に家賃を支援する「住居確保給付金」の制度がありますが、もっと対象を広げる手もあります。
セーフティーネットを使いやすくすることで、再び中間層に戻ろうとトライする意欲を引き出す。そういう仕組み作りが必要です・・・

「哲学はこんなふうに」

2023年3月7日   岡本全勝

アンドレ・コント=スポンヴィル著『哲学はこんなふうに』(2022年、河出文庫)を読みました。
哲学とは何か。若いときから関心はあったのですが、簡単に書いたものはありません。本屋に並んでいるのは、西欧哲学史や、哲学者・思想家の歴史です(その点では、政治思想、経済学、社会学も西欧の学者の歴史を並べて紹介するだけで、学問として成り立っていました)。

それに対し、この本は、次のような12の項目について解説したものです。
道徳、政治、愛、死、認識、自由、神、無神論、芸術、時間、人間、叡智。

なるほど、西洋の哲学は、このような項目を論じるのですね。神と無神論が入っているのは、キリスト教の影響でしょう。
私は、哲学は人生の意味、よく生きるとは何かを考えることだと思っています。その点からは、これらの項目は納得するとともに、やや物足りない点もあります。

哲学は「高尚なもの」とか「近づきにくいもの」という印象があるものの、よくわかりません。学者には、簡単なことを難しく書く人たちもいます。難しいことを簡単に説明することが重要なのに。自分の言葉にするのが、難しいのでしょうね。
でも、学問も一つの商売と考えれば、その考え・著作が売れないと成り立ちません。消費者(読者)を獲得するためには、わかりやすくする必要があると思うのですが。象牙の塔にこもって内輪だけで理解し、世間には「難しいぞ」という印象を売ったのでしょうか。
この本は文章もわかりやすく、翻訳も読みやすく、理解しやすかったです。

進化しすぎた技術に疲れる

2023年3月6日   岡本全勝

2月22日の日経新聞夕刊コラム「あすへの話題」、松浦寿輝の「技術に疲れる」に、次のような話が載っています。

アメリカでは、スマートフォンに倦いた若者たちの間で、折りたたみ式携帯電話、フリップフォン、いわゆるガラケーがもてはやされているのだそうです。あまりに高度な機能がてんこ盛りのスマートフォンにうんざりして、たんに通話ができればそれで十分という「ミニマリズム」の生活感覚が、むしろおしゃれなのだそうです。

松浦先生は、次のように締めくくっておられます。
「機能が多ければ多いだけ、それをなんとか使いこなさなければと追い立てられる気持ちになるのは人情である。進化しすぎたテクノロジーに遮二無二追いつこうと走りつづけることに、われわれはどうやら疲れはじめているようである」

近代化で受けた心の傷

2023年3月4日   岡本全勝

2月18日の朝日新聞読書欄、モリス・バーマン著『神経症的な美しさ アウトサイダーがみた日本』(2022年、慶應義塾大学出版会)についての、磯野真穂さんの書評「急速な近代化がもたらす後遺症」から。

・・・本書前半の一節が甦った。
「(あらゆる先進国が)中世から近代への移行によって受けた傷は精神的・心理的なもので、現実の始原的な層(レイヤー)を押しつぶし、そこに代償満足を補塡した――実に惨めな失敗に終わったプロセスである(略)そこには、実存ないしは身体に根ざす意味の欠如がつきまとっている」
・・・
著者は日本を先進国への移行過程で最も傷を負った国であるとする。英国が200年かけた近代化を、日本は20年ほどで成し遂げねばならなかったからだ。古来より受け継がれた暮らしのあり方を捨て、西洋を模倣し続けた日本人。その精神は西洋への憧憬と、心の核を求める煩悶の間で分裂し、虚無に泳いだ。これはあらゆる先進国が抱える問題であるが、日本はその速度ゆえ、後遺症が神経症レベルで現れ続けていると著者は分析する・・・

まちづくりでの、都市工学と社会学

2023年2月27日   岡本全勝

東京大学出版会の宣伝誌『UP』2月号には、野城智也、吉見俊哉両教授の対談「プロジェクトも、人生も、グルグル進む 『建築・まちづくりプロジェクトのマネジメント』をめぐって」も載っています。

お二人は、専攻は違いますが東大教授で、高校からの同級生だそうです。
野城先生は都市工学、吉見先生は社会学と理系と文系に分かれているのですが、それぞれ理系と文系の(本流でない)「その他」であり、文理の壁を越えてお互いに近いと話しておられます。なるほど。

そして「まちづくり」の場合、イギリスでワークショップが開かれると、参加者の3分の1くらいが建築関係で、残りは社会学者などさまざまな人たちが集まってくるのだそうです。これも納得。
家を建て道路を造っただけでは、住みよい町はできないのです。
さらに例えば公営住宅の課題は、不足するので数を増やすとか、質を高めることから、住民の高齢化、孤立が主たる課題になっています。土木の領域を超え、福祉の領域になっているのです。