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原研哉著『低空飛行 この国のかたちへ』

原研哉著『低空飛行 この国のかたちへ』(2022年、岩波書店)を紹介します。先日「知ってる、知ってる」で、一部分を取り上げました。原さんの主張は、私たちが気がつかない日本の生活文化の良い点を取り上げるので、うなずくことが多く、このホームページで、しばしば取り上げています。「日本式生活を輸出せよ

今度の本は、旅行とホテルという観点から、日本列島の良さを取り上げたものです。「低空飛行」と聞くと、元気がなく高いところを飛べないのか(成績が悪いときに、この表現を使いますよね)と思いましたが、低い視点で日本列島を見るという意味のようです。

宣伝文には、次のように書いてあります。
「日本各地をみずからの足で歩く。そしてデザイナーの目で、さながら高い解像度をもって自然に迫る。そこに発見されたのは、世界に開かれるべき日本の新たな価値である。かならずしも成長が見込めない成熟の時代にあって、自分たちの財産・資源となるのはその風土にほかならない。」
この本も、お勧めです。

スカートの制服

6月11日の朝日新聞夕刊1面「ジェンダーレス制服、心も快適に 性自認の確認廃止「好きな方を」大阪の中学、校則変更」から。

・・・4月に大阪市立中学に入学した女子生徒は、スラックスタイプの真新しい制服を身につけて登校した。理由は「動きやすいから」。入学前の2月、地元の制服店で購入した。
入学式当日。スラックスをはいているのは自分だけ。後日、担任教諭から母親の携帯に電話があり、こんなことを聞かれた。
「LGBTなど特別な配慮が必要な生徒だけにスラックスを許可している。娘さんには学校が把握していない特別な事情があるのですか」
女子生徒は制服店で「スラックスも選べる」と説明を受けて選んだ。「女性の先生はみんなズボンをはいているのに。なんで私はダメなんだろう……」
校則では女子はスカートと決まっていた。性自認などについて本人や保護者から相談があったときだけ、どちらかを選べる運用にしていた。だが、制服店がこの運用を知らず、生徒にスラックスを販売したことで行き違いが生じたという。
保護者は「教諭が生徒にLGBTかどうかを問うこと自体が人権侵害ではないか」と抗議。学校側は校則を変え、すべての女子生徒がスカートかスラックスの好きな方を選べるようになった・・・

・・・数年前、大阪府内の別の中学でも似たような事例があった。男性教諭が当時を振り返る。
ある年の春、一人の女子生徒が前触れもなくスラックスの制服で入学した。
「どうする?」
戸惑った教員たちは対応を話し合った。校則の規定を確認すると、「制服を着用すること」としか書かれていない。女子はスカート、男子はスラックスという明確な決まりがあるわけではなかった。教員たちは「問題なし」と判断。そのまま女子生徒のスラックス着用を認めることにした。
このとき教員たちは、女子生徒に対し、性自認の確認もしなかったという・・・

制服があることを否定はしませんが、自主性のない生徒を作る仕組みですよね。そして、先生はその制服を着ていないのです。学校の一体性を保つなら、先生も生徒と同じとは言いませんがよく似た制服を着たらどうでしょうか。女性教員は女生徒と同じようにスカートだけで、スラックスはダメだとするのでしょうかね。

中立でない、いじめ調査の第三者委員会

6月16日の日経新聞に「いじめ調査委、揺らぐ中立 大半で教員ら学校側関与」が載っていました。
・・・重大ないじめに対応する調査委員会の信頼性が揺らいでいる。外部有識者だけで構成される例は少なく、中立性が疑問視され、経緯調査の進め方が問題になるケースが目立つ。原因究明が不十分では被害者保護や再発防止もおぼつかない。文部科学省は15日、いじめ対策を協議する有識者会議を開催。調査を担える人材のデータベース整備などの改善案を示し、対応を求めた。

2013年施行のいじめ防止対策推進法は、心身に重い被害を受けたり、長期欠席を余儀なくされたりしたケースを「重大事態」と規定。被害者側への丁寧な説明や再発防止策の検討をするため、学校や教育委員会が調査委を設けて原因を調べるよう義務付けた。
文科省は17年のガイドラインで調査委を第三者で構成するか、教員らを含むか、事案に応じ判断するよう求めた。実際は大半で教員らが加わっている。20年度の心身などに重い被害があった233件の調査のうち、第三者のみで調べたのは45件(19%)だった。
教育現場からは「学校の事情に詳しい教員らも参加した方がスムーズに進む事案は多い」(教委担当者)という声もある。しかし加害者を知る立場の教員らが調査主体に加わることに対し、被害者側が不信感を抱くケースも少なくない・・・

このような対応が、その場は切り抜けても、徐々に信頼をなくすのですよね。第三者委員会のいかがわしさについては、八田進二著『「第三者委員会」の欺瞞-報告書が示す不祥事の呆れた後始末』 (2020年、中公新書ラクレ)が参考になります。

性教育の重要性

6月14日の朝日新聞オピニオン欄、助産師・桜井裕子さんのインタビュー「人生のための性教育」から。

――学校の講演やSNSなどで、桜井さんは性について相談を受けてきました。子どもや若者はどんな悩みを持っていますか?
「8~9割は確認したいこと、体のことで、話を聞いてもらってホッとしたかったという感じ。でも1割強は妊娠や性暴力など深刻な内容です。女子の悩みで一番多いのは月経で、『つらい』『バラバラ』などの相談です。毎回3回以上痛み止めが必要なら、婦人科に行った方がいいと言います。痛みの原因は見極めた方がいい。保護者から『それぐらい我慢したら』と言われ、悩んでいる女子は少なくありません」
「男子は自分の性器についての悩みがすごく多い。総じて『小さいとモテない』と思っているようです。人それぞれでいろんな性器があることを説明すると安心するようです」

――日本の学校の性教育は紆余曲折がありました。
「1992年は性教育元年と呼ばれ、改訂された学習指導要領が施行されて小学校から『性』を本格的に教えるようになりました。エイズ予防が背景にあったと思います。私もコンドームの使い方を教えてほしいと要望されましたし、当時は何の制限もかけられていなかったことを覚えています」
「しかし、2003年に当時の都立七生(ななお)養護学校の事件が起きます。在校生同士が性関係を持ったことから教員が知的障害のある生徒向けの独自の性教育プログラムを作りました。性器の部位や名称を入れた歌や人形を使うものでした。が、都議会議員が『不適切』と批判、教育委員会が校長や教員を降格や厳重注意処分にしました。その後、裁判で処分は違法と認定されたものの、以降、性教育が一気に萎縮した。私もある学校で校長から『バッシングされたらどう責任をとるのか』と性交の話を避けるように言われました」

――なぜ性教育で性交の話をしてはいけないのですか。
「学習指導要領には学習内容を制限する『はどめ規定』と呼ばれる規定があり、1998年の改訂で『妊娠の経過は取り扱わない』と明記されました。経緯はわかりませんが、精子や卵子は教えても、性交は原則教えられなくなりました。小学5年の理科では『人の受精に至る過程は取り扱わない』、中学1年の保健体育では、妊娠・出産ができるよう体が成熟することは学びますが、妊娠の経過は扱わないとされています」
「規定ができた当初はそれほど制約を感じませんでしたが、やはり七生養護学校事件を機に統制が厳しくなった。4年前にも東京の区立中学で『性交』『避妊』などの言葉を授業で使ったとして、『不適切』と都議が批判、都教委が指導するということが起こりました。でも区教委は『不適切とは思わない』と反論した。少し風向きが変わってきたなと感じます」
「このところ、PTAからの講演依頼が増えてきました。家庭向けの性教育本なども売れていますが、特に保護者や若い先生の間に性教育が必要だという意識が広がっていると感じます。ただ、はどめ規定は、学校の性教育の大きな足かせであることは間違いない。この規定がなければ堂々と話ができ、子どもの理解も進みます」

――昨年、文部科学省などは「生命(いのち)の安全教育」の教材を作りました。
「性暴力や性被害を予防する教育です。性暴力が社会問題化したことも背景にあるでしょう。一歩前進です。しかし、『プライベートゾーンは他人に見せない』『相手が嫌と言うことはしない』など、禁止・抑制のオンパレード。性について基本的なことを教えていないのに、安全について教え行動制限している。ちぐはぐです」
「文科省は『寝た子を起こすな』論は捨てて、時代や子どもたちの実情にあった教育をすべきです。実態からすれば寝ていないですし、寝ている子には、年齢に合わせた形で科学的な事実を教えてやさしく起こしてほしい。SNSやアダルトビデオで暴力的に起こされるのは危険です」

――そもそも、性教育はなぜ必要なのでしょうか。
「健康、パートナーとの関係、出産――。性に関することは、その人の人生そのものです。性教育は、子どもに正しい情報を伝え、自分で選んで行動するためのもの。子どもたちには『自分の幸せと相手の幸せも考えて。来年の自分に感謝されるような今日を選んでほしい』と伝えています」
「包括的性教育にゴールはありません。自分で選び、決めるという自己決定をしていくための学びで、簡単ではない。だから、失敗しないよう備えることも重要ですが、それよりも自己決定を支えることが大切です。性教育は、子どもが自分の人生や将来のことを考える足がかりなのです」

町工場での外国人労働者

6月13日の朝日新聞夕刊「カモン東大阪、海外の人材」から。

・・・ものづくり大国ニッポン。その大きな拠点が、大阪の東大阪市です。浜名湖ほどの面積に、およそ6千の町工場。工場の集積度は日本ナンバー1です。
東大阪市役所で国籍別の人口推移を見せてもらいました。1980年まではゼロだったベトナムの方が2020年には3千人超えです。ほかの国の方もたくさんいるようです。

ぜったい、町工場で働いている人がいるはず。
私、自転車で巡ります。
まずは「三共製作所」。
創業は1929年。航空機、自動車などの部品をつくる。
この会社、ハンパない。
ベトナム、ネパール、ミャンマー、フランス、ガーナ……。従業員100人のうち6割が、外国のみなさんである。

共生のコツを松本に聞いてみると……。日本語で話し、同じ鍋を囲む。外国人同士でもパーティーを開き、銭湯に行くなど楽しんでいるとのこと。「そもそも、外国人の方が多いので、日本人が外国人の中に入らないと生きていけません、ハハハ」・・・