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生き様-明るい課長講座

働きやすい職場の指標

3月6日の日経新聞オピニオン欄、西條都夫・上級論説委員「人的資本、ユニーク開示続々「今の職場お薦めですか」」が、よい職場つくりに参考になります。

・・・働く人をコストではなく、価値を生み出す源泉ととらえる「人的資本」の開示が、2023年3月期の有価証券報告書から上場企業に義務化される。手慣れた財務情報の開示とは勝手が違い、何をどう社会に伝えるべきか、戸惑う企業も多いだろう。
「女性管理職比率」など法令で決まった開示だけでも許されるが、これを機に企業の根幹を支える「人」についての経営方針や目標を広く発信し、経営改革の一助としてはどうか。そのために役立つ指標やデータを紹介したい。

▼職場の推奨率
マーケティングの分野にはネットプロモータースコア(正味推奨率)という指標がある。自社製品のユーザーに「友達にこの製品をどの程度熱心に薦めますか」と10段階で尋ね、前向きな回答から否定的な回答の比率を差し引いて、ブランドへの忠誠や愛着を計測する手法だ。
石川県を地盤とする地銀グループの北国フィナンシャルホールディングス(FHD)はこれを職場に応用した。「あなたの職場で働くことを、親しい友人や知人にどの程度お薦めしますか」と従業員に質問し、「とてもお薦め」という前向きの答えから、「絶対に薦めたくない」といったネガティブな答えを引き算した値がマイナス52%だった。
一見低めの数字だが、同社は22年の統合報告書でこれをあえて公表。杖村修司社長は「当社は半沢直樹型の旧態依然の銀行の風土から脱却し、コンサルティングなどでも稼ぐ令和型モデルへの転換を進めている」といい、人事においても各社員に自律的なキャリア形成を促す新制度を導入したばかりだ。
サーベイの値は変革を前にした社員の不安の反映でもある。「その証拠に従来の人事制度に慣れ親しんだ中高年層ほど推奨率が低かった」と人材開発部の横越亜紀部長はいう。その後、実際に新制度が稼働すると、未知の仕組みへの恐怖も薄らぎ、直近の調査では推奨率も上向いた。同社は今後もデータ開示を続ける考えだ。外からは見えにくい社員の心の状態を数字で示す貴重な情報である。

▼世代別エンゲージメント
仕事への熱意を示すエンゲージメント調査は多くの企業が実施しているが、結果を公表する企業は一握りで、世代別の結果を報告する例はさらにまれ。1000社近い企業の統合報告書などに目を通した「人的資本開示ウオッチャー」の田中弦・ユニポス社長が調べた範囲では、ダスキンと京セラ、出光興産の3社しかなかったという。
そのダスキンの結果をみると、「仕事にやりがいを感じる」「ダスキンで働けてよかったと思う」の2つの質問に対して、25〜29歳の層は肯定的な回答が他の世代に比べて目立って低かった。大学を出て入社して一通り仕事を覚え、現場のリーダーとして一定の管理責任も負う。だが、それに見合った権限や待遇が付与されない。
そんな若い世代の「声なき声」を感知した会社は「年功序列にとらわれず、若手を大胆に抜てきできる制度を導入した」(大久保慶子・人事企画教育室長)という。世代による認識ギャップを放置すれば、組織は変調をきたす。正直なデータの開示は、素早く手を打つきっかけにもなる・・・

わかりやすい指標ですね。主観的ですが、社員たちの本音が出てくるので、客観的な指標よりよく表しているでしょう。このほかに、出生率、新卒離職率が上げられています。原文をお読みください。あまたの管理者論や社員育成術を読むより、意義があるように思います。
あなたの職場は、どうですか。現状を嘆いていても、改善されませんよ。行動を起こす必要があります。

自分と異なる意見に耳を傾ける

3月2日の日経新聞夕刊「私のリーダー論」、キャシー松井さんの「逆境が力に」から。

「管理職になったばかりのころ失敗しました。部下から別の人へのクレームがあり、なるほどと思わせる内容だったため、すぐ他方を叱責しかけたのです。『自分の言い分もしっかり聞いてくれ』。もっともな意見でした。時間をかけて聞くことが大事と反省しました」

「今後のビジョンを決めるうえでも、自分と異なる意見に耳を傾けるのが大事です。これだけ変化の大きい時代。多くの情報が入ってこそ、正しい方向性を決められます。同意できなくても、なぜこう思っているのか理解しようとするエンパシーは必要です。聞いてもらったということ自体が部下の意識を高めます」
「気をつけたいのは、立場が上になるほど、自分自身に対して厳しい見方をしにくくなることです。匿名でもいいからフィードバックを受ける工夫をすることもリーダーに必要なスキルだと思います」

「率直な意見を聞かせてくれる人の存在は、仕事でもプライベートでも大事な存在です。私は若いころから『自分だけの取締役会(パーソナルBOD)』をつくってきました。メンバーは自分が頭のなかで選んだ人たち。解決できない問題が生じると、取締役会を”招集”する。要するに意見やアドバイスを聞いてみるのです。メンバーには同じ金融業界の人もいますし、業界外の専門家もいます。男性も女性も、また昔からの友人もいます。みなそれぞれに忙しく、ネットワークを保つのには時間も手間もかかりますが、必要な投資です」

管理職に必要な能力、渉外

リーダーシップやマネジメントの教科書を読むと、どのようにして職員を指導し、成果を上げるかが書かれています。もう一つ重要なのが、そのような部下との関係ではなく、外部との関係です。
外部と言っても、2種類あります。一つは、その組織内での他の部局(課長ならほかの課とか)と、その上司である部長や首長・社長です。もう一つは、組織の外部です。

多くの組織において、幹部が外部との関係を考えずに仕事ができることはありません。
各省の幹部は、総理官邸からの指示や与野党からの要求、関係団体からの要望に応える必要があります。企業の幹部も、取引先との関係や交渉能力が重要でしょう。
課長は、部長や社長からの指示を受け、また相談したり報告をしなければなりません。関係各課との交渉と調整も重要です。

部下を動かすことは必須ですが、それと同様に外部の関係者をどう納得させるかが重要です。良い上司とは、部下の面倒見がよいだけでなく、部下の状況や成果を外部に正当に伝えることや、場合によってはその上司や外部からの「無理難題」に抵抗することが重要です。
それに負けて帰ってくるようでは、部下もついてきません。部下たちは、上司の渉外能力を見ていますよ。

私は防災の専門家ではありませんが、大震災被災者支援本部・復興庁で、なぜそれなりの成果を上げることができたか。
それは、私が総理官邸を知っていた、官邸幹部から信頼を得ていた、各党幹部も知り合いだった、各省幹部も私を知っていた、自治体幹部も私を知っていたからです。だから、支援本部や復興庁ができることとできないことを部外の人たちに説明して、納得してもらいました。すべてを引き受けることはできないのです。抵抗した際に、「全勝が言うから、しかたないなあ」と思ってもらえたのです。
幹部に必要な能力の一つが、対外的な「政治力」です。

スポーツ選手、身体能力と考える力

2月10日の朝日新聞オピニオン欄、大渕隆・日本ハムファイターズGM補佐兼スカウト部長へのインタビュー「若者の才能、見逃さない」から。

「大谷選手は高校時代、監督の指導ですでに自分を成長させる手法を会得していました。本を読むとか、短・中・長期で目標を立てるとか。こうした、その後にずっと生きてくる『自ら考える力』を選手が持っているかどうかは、スカウトする上で重視しています」
「日本IBMで7年勤めた経験があり、選手をコンピューターになぞらえることがあります。『ハード』が身体能力や技術だとすれば、『OS(基本ソフト)』は考える力や性格。ハードが多少劣っても、OSがウィンドウズ3か10かでは全く違う。野球は相手のいるゲーム。トレーニングはもちろん、色んな情報を解析してアウトプットするスポーツなので、よりOSが重要です。プロ野球の1軍、あるいは大リーグというソフトを回せるかもOS次第です」

――選手の「OS」は、どう見極めているのですか。
「先輩から『スカウティングは、最後は目に見えないものが大事だ』と教わりました。球速や身体能力など、見えるデータは評価の確認には使えますが、そこを重視しすぎるとうまくいかないことが多いです。大事なのは数字にはならない、考える力や強い思いといった『見えないもの』で、そこに焦点をあてなければ我々の仕事の意味はないと思います」
「人間と人間なので、伝わってくる第一印象を大事にします。企業の人は『20分の採用面接では何も分からない』と言いますが、むしろ1回の方がいいこともあります。あとは、ピンチになった時にその人の本質が出やすいですね。ユニホームの着こなしやグラブの手入れ、野球ノートの書き方なども材料にはなります」

 ――「OS」は、アップデートしていく必要もありそうです。
「新人選手の入団時、『君の最高のコーチは、自分自身だ。自分の中に、最高のコーチを育てられるかがとても重要だ』と伝えています。選手は大人の指示や命令で活躍しても、長続きはしません。ゴールを設定し、自分で計画し練習する必要があります。そのとき『最高のコーチ』の知識やレベルが低くては、選手は成長しないと考えています」
「だから選手は、プレー以外の面でも自己研鑽を積んでほしいです。最近の子は素直で真面目な分、言われるがままに練習しがちな傾向もありますが、情報を収集する能力は高く、デジタル世代ならではのアイデアを持っています」

ご不快構文

2月6日の日経新聞夕刊「令和なコトバ」は「ご不快構文 それ、謝る気ないですよね?」でした。
ちまたにあふれる○○構文の中でも、断然感じが悪いのが「ご不快構文」だそうです。企業や政治家などが不祥事を起こしたときやりがちな、「ご不快な思いをさせて申し訳ありません」という決まり文句を使った謝罪文のことです。

・・・公認心理師で臨床心理士の信田さよ子さんも昨年、複数の相手から、まったく同じこのフレーズを使った謝罪メールを受け取った。「相手が不快に思ったから謝るのではなく、やった行為について謝罪するのが本来の謝罪。自分のやったことを記さない謝罪文はありえないとツイートすると、たくさんの共感の声が届きました」

信田さんはDVの加害者が二度とDVをしないためのプログラムなども手がける。同じ過ちを繰り返さないためのポイントがあるという。①謝り償う②何をやったかを認める③再発防止を誓う――という3つだ。
「『ご不快な思いをさせて……』メールには、②のアカウンタビリティー(説明責任)が抜けている。謝罪は、相手がどう思ったかではなく、自分が何をしたかに軸足を置くべきなんです」・・・

・・・ちなみに英語でご不快構文に近い言葉は、Non-Apology Apology(謝罪でない謝罪、謝罪風の謝罪)。ご不快構文同様、「もし私の言葉があなたを傷つけたなら謝ります」というように、相手に責を負わせるタイプの謝罪を意味する「イフポロジー(If+Apology)」という造語もあり、謝罪でない謝罪の好例として紹介される・・・