カテゴリー別アーカイブ: 明るい課長講座

生き様-明るい課長講座

二つの「正解」

自然科学における正解と、私たちの仕事における正解とは異なることを、拙著『明るい公務員講座』第1章で説明しました。
自然科学における問題の答は、一つに決まります。1+1=2であって、3は間違いです。それは、誰が見ても判断できる、客観的なものです。

他方で、私たちの仕事の多くは、正解が一つではありません。例えばある課題に対して対策組織をつくる場合、どれくらいの人数を集め、誰を責任者として、どのような人を配置するのか。一つの正解があるわけではありません。いくつかの案を作って、利害得失を考えてその中からよいだろうと思われる案を選びます。優秀な職員を配置すればよいのですが、引き抜かれた組織が困ります。「絶対正しい」という案はないのです。どこかで、折り合いをつけなければなりません。
職員が、市長の挨拶文案を作成する場合、これは正解で他は間違いということはありません。盛り込まなければならない要素が入っているかどうかは客観的に判定できますが、季節の挨拶を入れるのか、文体はどうするのか、長さはどの程度かは唯一の正解はありません。そして、職員と課長が「これがよい」と思っても、市長が「だめ」といえば、採用されません。

東日本大震災で判断に迷った際に、どのように決断したか。何が正解だったかを聞かれることがあります。前例のない事案で判断に迷うことはありましたが、二者択一やこれが正解で他は間違いというような問題はほとんどありませんでした。
「支援物資が輸送拠点であふれてしまった」とか「棺桶が足らない」という問題は、正解が一つではなく、また二者択一でもありません。正解は「どのようにして切り抜けるか」です。
まずは解決方法を探さなければなりません。考えられる案が一つで大きな副作用がないなら、迷うことなくそれを採用するでしょう。
解決方法がない場合が困るのです。その場合の正解は、「知恵を出してくれそうな人を探し、意見を聞くこと」です。私一人がいくら悩んでも、答は見つかりません。
できる限り広く意見を聞く。そしていくつかの案が出たら、それらの利害得失を判断する。その際も、関係者の意見を聞く。そして判断します。そこに私の力量が試されます。全員が納得すればよいですが、そうでない場合に決断があります。その判断基準は、「後世の人の批判に耐えうるか。説明できるか」「閻魔様の前で説明できるかどうか」です。
続き「迷ったときの判断基準、2つ

情報を上げたいと思わせるリーダー

11月10日の日経新聞夕刊「私のリーダー論」、村木厚子・元厚生労働事務次官(下)から。

――情報を上げたいと思われる上司になることが大切だと常々話されています。
「重要な情報が耳に入らずに『自分は聞いていない』という上司がいます。私もそう言いたいときはありますが、自分が部下の立場だったら、本当に大事な人には相談しています。もっとはっきりいうと、役に立つ上司のところには情報を持っていきます。大事なことを聞かされないのはリーダーとして格好悪いことなのかもしれません」

ごきげんだから、うまくいく

10月28日の朝日新聞夕刊、坪田一男・坪田ラボ社長の「なぜ医者から経営者に」から。

・・・先端の研究を進める一方で、同社が掲げるメッセージは「未来をごきげんにする」とわかりやすく、風変わりだ。
ごきげんは自分の理念。「うまくいくから、ごきげん」ではなく、「ごきげんだから、うまくいく」が持論。抗加齢医学の研究で、元気な100歳以上の人に聞きとりを重ねた際、その思いを強めた。多くの人が朝の目ざめや食事などの日常に感謝し、ほがらかにくらしている。「ごきげんだから、長生きする」と考えた。
ごきげんでいる工夫を尋ねると、答えが次々と返ってきた。
夢中になれる好きなことをやる。ごきげんな人とつきあう。メディテーション(瞑想〈めいそう〉)をする。その日あったよいことを三つ書く。夜6時にはブルーライトをさえぎるメガネに変える。夜8時以降、スマホやパソコンを使わない。1日8時間寝る・・・

叱られない職場、若手社員の不満

10月25日の読売新聞連載「コロナ警告 きしむ社会」は、「ゆるい職場 離れる若手」でした。部下職員をやさしく扱うことと、指導しないこととは別です。

・・・東京都内の大手通信会社に勤める入社3年目の男性(24)は、職場に不満をためている。優しい上司は、そのことにおそらく気づいていない。「叱られたことがない」というのが不満の理由だからだ。
2020年4月の入社直後からコロナ禍でリモートワークとなった。上司はパソコンの画面越しに「いいよ、大丈夫だよ」というだけで厳しい指導を受けたことがない。「このままでは自分はダメになる」。男性は転職を心に決めた。
「ゆるい職場」に危機感を抱いた若手社員たちが今、職場を去り始めている・・・

・・・職場に不満を募らせる男性会社員(24)が、大手通信会社からの転職を考えるようになったのは、社外の刺激がきっかけだった。
入社3年目に入った今年度、打ち合わせの場で取引先で働く同年代の男性社員の知識と提案の質の高さに目を見張った。1年目は何の発言もしなかったのに、いつの間にか成長し、差をつけられていた。上司や先輩から丁寧な指導を受けている印象を持った。
自分の職場はリモート勤務が中心で、上司と対面で会った回数は数えるほど。販売促進の業務などに携わってきたが、叱られた経験がなく、力量に自信が持てないでいる・・・

・・・関西在住の男性会社員(23)は21年春、第1志望だった大手旅行会社に就職した。しかし、コロナ禍で業界の業績は低迷。「終身雇用はあてにならない」と痛感した。
会社は従前の対面の窓口販売にこだわり、デジタル化に消極的に見える。社会で通用するスキルが身につかないと焦り、6月から転職活動を始めた。「自分が成長できるなら、今度は小さな会社でもいい」と思う。
古屋さんは「若者にとっての安定の定義は、大企業に勤めることから、どんな状況でも渡り歩けるよう経験やスキルを蓄積することに変わった」と指摘する。

求める働き方が、世代によって二分されている傾向もみえてきた。
プロバイダー大手のビッグローブ(東京)による今年3月の調査では、20歳代の6割が新年度から出社頻度を「増やしたい」と回答したのに対し、30~50歳代は逆に7割が「増やしたくない」と回答。仕事に慣れたミドル世代は子育てや介護、副業などに充てる時間が確保できるリモート勤務を好む傾向も浮かぶ・・・

職員の心の健康

10月15日の日経新聞オピニオン欄、村山恵一・コメンテーターの「社員の気分を上げる経営」から。心の健康には、病気にならないだけでなく、積極的に仕事に打ち込むこともあります。

・・・従業員のメンタルヘルス(心の健康)に気を配っているか。そう問われれば、イエスと答える日本企業は多いだろう。ストレスチェックやEAP(従業員支援プログラム)があると。それでは足りないと訴えるシンガポール企業が9月、日本に上陸した。2019年創業のインテレクトだ。
スマートフォンアプリを介し、主に企業の従業員にメンタルケアを提供する。ストレスや不安への対処法、睡眠の質や自己肯定感を高める方法が学べ、コーチングも受けられる。アジアを中心に300万人以上が利用する。科学的な根拠を重視し、大学などとの共同研究にも熱心だが、売りはアプリ経由というカジュアルさだ・・・

・・・わが社の従業員はいま何を思い、欲しているのか。経済学だけでなく心理学の視点もないと、経営は回らない。米国を見てみよう。
セクハラ問題に対する会社の対応が手ぬるいと、グーグル従業員が各地でストライキに踏み切ったのは18年だ。19年にはアマゾン・ドット・コムの従業員たちが環境保護を徹底せよと会社に株主提案した。この年のある従業員アンケートでは、75%が「自分たちには雇用主の方針に反対する声を上げる権利がある」と答えている。
経営者が直面するのは「物言う従業員」に限らない。「物言わぬ従業員」からも目を背けられない。米ギャラップが9月に公表した調査によると、米国では働く人の半数が「静かな退職者」だ。
実際に会社を辞めるのではない。行動を起こすほど強い不満はないが、仕事への熱意もない。最低限の業務をこなすだけ。コロナ禍で在宅勤務が広がり、薄れた会社との結びつきが背景にある・・・

・・・教科書に正解が書いてあるような問いではない。アプローチはいくつもあり、模索が会社を鍛える。ソフト開発のコンピュータ技研(大阪市)はヒントになる。
約130人が働く同社は、社員が自分の給与(年収)を自己申告して決める仕組みを20年から段階的に導入してきた。社員はまず、自分が業務や社風にどう貢献できるか、人生の目標とどう関わるかなどを専用シートに記載する。そういう自分に対する会社からの「投資」として給与額を求める。
シートの中身について社員とマネジャーが対話した後、松井佑介代表取締役とマネジャーによる投資準備委員会で各社員への投資の可否を判断する。認められれば松井氏と役員からなる投資委員会で最終決定だ。準備委員会を通るまで、社員はマネジャーと対話して納得のいく着地点を探す。
制度の導入後、社員の7割で年収がアップし、全社の人件費は三千数百万円増えたが、手応えもある。ずっと1~2%台だった営業利益率が4%を超えた。離職率も下がった・・・