投稿者アーカイブ:岡本全勝

政権交代のために、中道左派の役割

2021年12月10日   岡本全勝

11月30日の朝日新聞オピニオン欄「立憲民主、立て直せるか」、田中拓道・一橋大学教授の「雇用と財政、体系的政策を」から。

・・・1990年代以降、日本を含む先進国はグローバル化や情報技術の発達により、産業構造が大きく変化しました。長期間安定して働ける職場が減った半面、非正規雇用は増えました。男性が「働き主」で女性が子育てや介護を担うという家族のありようも大きく変わりました。
雇用と家族の変化にいち早く対応したのが、欧州の政党でした。中道右派は市場の活力を重視しながらも、教育や福祉を通じて人々を労働市場に誘導する形で、新自由主義政策を修正しました。中道左派は、労働組合の党内への影響力を弱め、中産階級を支持層に取り込み、子育てや就労支援などを充実させ、生き残りを図りました。
その頃、日本では選挙制度改革が一番の関心事でした。96年の衆議院選挙から小選挙区比例代表並立制が導入され、政治のエネルギーはもっぱら政党の離合集散に費やされてきたのです。

史上最長となった安倍晋三政権は、「1億総活躍」や「人づくり革命」など巧みなキャッチフレーズを打ち出しました。しかし、子育てや就労支援、公教育への支出は、いまだに先進国では最低水準です。雇用を増やしたとはいえ、多くは非正規職にとどまっています。雇用と家族の変化にきめ細かく対応したのではなく、格差は固定化されたままです。
多様化する人々の働き方に合わせてきめ細かい支援をしなければ、格差は拡大し続けます。少子高齢化を止めるためにも、高齢世代向けから現役世代向けへと社会保障の転換を図る必要があります。
ところが、日本の中道左派は政治勢力として弱いままで、雇用、社会保障、財政を含む体系的な政策を打ち出せていません。立憲民主党の衆院選の公約は、消費税率の時限的な引き下げでした。分配のメニューを並べるだけでなく、財源の裏付けを明らかにしなければ、政権担当能力は示せないでしょう・・・

この点では、研究者やマスコミの役割も問われています。

連載「公共を創る」102回

2021年12月9日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第102回「「新しい通念と仕組み」構築の方向性」が、発行されました。
経済発展期には効果を発揮した日本型の雇用慣行と職場慣行が、今や負の機能を生んでいるという話を続けます。

経済成長期に効果的だったメンバーシップ型雇用は、いまや職場への不満を持つ社員を生んでいます。転職する仕組みが少ないこと、いったん就職すると会社に甘えることが原因でしょう。家族、親族、地域での付き合いから離れ自由になりましたが、それに代わる付き合いをつくれていないために、孤独になっています。自由は人生の選択肢を増やしましたが、自分で選び責任を持たなければならなくなりました。そして、人生双六が読めなくなりました。

このような暮らしの変化に応じた、安心のための仕組みと通念をつくる必要があるのです。社会保障は経済的な防護柵(落ちないようにする仕組み)と安全網(落ちた際の支え)を用意していますが、今問題になっているのは、社会生活での自立です。
そのためには、まず教育内容を変える必要があります。

政権交代のために、長期ビジョン提示が必要

2021年12月9日   岡本全勝

11月30日の朝日新聞オピニオン欄「立憲民主、立て直せるか」、松井孝治・慶応大学教授の発言「批判の前に長期ビジョン」から。

・・・1998年にできた民主党は「与党批判だけでは政権は取れない」と考えていた旧社会党の議員、「自民党では改革できない」と自民党を飛び出した議員らで結党されました。その精神は、既得権益に縛られた自民党に代わり、官僚主導の政治を変えるというものでした。しかし今は、もっぱら与党のスキャンダルを追及する野党というイメージが定着しています。
この変質は2000年代後半、小泉内閣のときに起こり始めていた、と私はみています。当時の小泉純一郎首相の「改革」の演出が巧みだったため、むしろ自民党の方が改革を進めている、という印象を国民に与えました。そんな自民党に対抗し、選挙で勝つために、民主党は与党の新自由主義などを批判する「批判政党」へと次第に変質し、今に至っているのです。

しかし、こうした政治手法では「どんな日本社会を作りたいのか」という政党としてのビジョンを国民に示すことはできません。
かつて民主党は、子ども手当を創設するチルドレン・ファースト(子ども第一)、高校無償化なども含む「コンクリートから人へ」、それに「新しい公共」といった自民党が掲げないような政策理念を掲げました。今後の立憲民主党も、若い世代のために何をするのかということを軸に、長期的な将来ビジョンを示すべきです・・・

市町村アカデミー、新しい研修

2021年12月8日   岡本全勝

市町村アカデミーでは、1年間に90ほどの研修を行っています。内容は大きく分けて、市町村行政の基本的知識と技能(法制執務、地方税など)、地域と時代の新しい課題、市町村長・幹部・議員向けなどがあります。
このうち「新しい課題」は、自治体からの要望や学内での検討によって、毎年入れ替えています。

今年は新しく「感染症の危機管理対策」のほか、今月も「事業推進のためのデータ活用」を実施しています。
これらの課題は、まだ進行中のものなので、定番の教科書や研修課程はありません。どのような内容にして誰を講師に呼ぶのか。それぞれ手探り状態です。もっとも、市町村現場からすると、その状態を知りたいでしょう。政府の方向はどうなっているか、最先端の情報は何か、他の市町村はどのように取り組んでいるか、他の市町村も何に悩んでいるかなどです。
事態の推移、研修生たちの要望、今回の研修結果の評価、担当省庁の考えなどを踏まえて、改善していきます。デジタル化は、今後も力を入れる必要があります。

来年度も、いくつも新しい研修に取り組みます。「研修一覧
私の経験を踏まえて、「政策の最先端」(地域社会課題群とその取り組みの最新情報)「管理職の必須知識講座」(近年、管理職に必要となった知識の一覧)を教授陣に提案し、新設してもらいました。詳しい内容は検討中です。乞うご期待。

国内の学会と海外学会

2021年12月8日   岡本全勝

11月30日の日経新聞教育欄、恩蔵直人・早稲田大学常任理事の「人文社会科学の学会、世界での競争不可避に」から。

・・・国際的に活躍する研究者の中には積極的に海外学会で活動する人もいたが、言語や地理的な壁や研究テーマによって、国内学会と海外学会はすみ分けがされていた。
ところが近年、海外学会とのすみ分けが崩れ始め、海外での報告が優先されるようになっている。
グラフは、ある国内学会における研究報告件数である。報告件数は開催都市などによっても左右されるので単純に比較はできないが、10年前と比べて減少傾向にあることは確かだ。こうした傾向は、他の国内学会でも確認できる。研究者たちの間で、報告をするなら海外学会でしたいという流れがあるようだ。理由はいくつかある。
まず有益なコメントを得やすいこと。海外学会は世界から研究者が参加する。当該分野の第一人者が参加することも多く、有益で価値あるコメントは自らの研究のブラッシュアップに役立つ。
また、一部の研究分野では、学会報告が評価対象としてカウントされるという背景もある。この場合、同じテーマによる複数回の報告は制限されており、国内学会よりも海外学会の方が高い評価を得やすい。
さらに海外学会では、査読と呼ばれる事前審査があり、一定水準に到達していない報告は受け付けてもらえない。こうした制度が整っていることも、海外学会の支持に結びついている。競争は厳しくても評価が明確な場を求めるというのは、スポーツの分野において、一部のプレーヤーが海外での活動を選ぶのに似ている・・・

・・・海外学会での報告にしても海外論文誌への投稿にしても好ましい傾向であり、我が国の研究水準の向上には不可欠である。研究活動がいちはやく国際化した医学分野、理工学分野、経済学分野などでは、ここで述べたような問題は過去のものかもしれない。しかし、依然として国内での研究トピックが存在している多くの人文社会科学分野の学会は大きな転機を迎えているといえよう・・・

横山晋一郎・編集委員の付記
・・・日本の大学の世界ランキングが振るわない一因は、人文社会科学系の評価が低いことだといわれる。論文の多くが日本語で書かれ、研究対象も日本特有の事象が少なくないからだ。
大学の国際競争が激しくなると、いつまでも〝内弁慶〟でいることは許されない。海外学会志向の強まりは当然といえる。
問題は、それが国内学会の衰退を招きかねないことだ。全ての大学が国際舞台で活動するわけではないように、全ての研究者が海外学会に所属する必要もない。学会は若手研究者養成の貴重な場でもある。恩蔵氏の問題提起の意味は重い・・・