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日本法の国際化

雑誌「ジュリスト」2010年2月15日号が、日本の法律の英語訳など国際化を特集していました。「日本法の透明」というテーマで、研究が続けられていて、その紹介です。先日、「日本の法令の英語訳」を書いたので、興味を持って読みました。いくつも考えさせられることがありましたが、今日はその一部を紹介します。
・日本の法律の条文の作り方に、構造的問題があるのではないか。例えば著作権法の「公衆通信」を、どのように外国語に翻訳せよというのか。内閣法制局のチェック体制が、海外のユーザーに向いているとは到底言えないし・・
・わが国の立法過程には、外国のユーザーの声が十分に反映しているのか。反映する必要性は、どれほど大きいのか?
・判決の文章が日本語として難解で、翻訳を依頼する前に「和文和訳」が必要な場合がある。
・日本法の在り方として、「他国(特に先進諸国)に合わせていく」という考え方と、「むしろ諸外国を引っ張っていく競争力のある法を作り輸出する」という考え方がある。いずれが適切なのか?
・英語に翻訳するにしても、対応する英単語が法律用語として特定の意味を持っている。単語を翻訳するにしても、どの単語を選ぶか難しく、たとえ1つの単語を当てはめても、正確な翻訳にならない。その条文の書かれた背景、判決のコンテクストなしでは、意味が通じない。
日本の経済活動が国際化し、海外から会社や人が入ってくると、日本の法や判例が、その人たちに理解しやすいものでなければなりません。また、定住外国人が増えると、その人たちにも理解しやすい必要があります。日本法の国際化が、必要となるのです。
国際化というのは、このようなところにも、現れてくるのですね。日本は明治時代に、ヨーロッパ法の受容に成功し、日本語で法律の教育と実務ができるようになりました。それは、ありがたいことです。しかし、それが、「ガラパゴス化」を生みました。日本人の活動が日本国内で日本語だけで完結しておれば、問題はない、なかったのですが。経済社会活動の国際化は、それを許してくれません。「第3の開国」を、実感します。「日本法の国際化」という表現が正しいか問題がありますが、こう表現しておきます。(この項続く)

消防大学校・特別な訓練

消防大学校では、NBC・特別高度救助コースの学生が、今日は屋外訓練場を使って、化学テロの訓練をしていました。NBCは、原子力、生物、化学災害です。地下鉄サリン事件を、思い出してください。大学校では、このような特殊な学科もあります。使う機材も特殊で、救助の方法も特殊になります。火事の場合は少しでも早く救出しますが、化学テロの場合はむやみに近づくと、消防隊員が巻き添えになってしまいます。人が倒れていますが、何が起こっているかわからないのです。
授業では訓練が多くなりますが、今日は学生が企画した訓練でした。全身を覆う防護服に身を固め、被害者役の学生やダミー人形を救出します。
先週は、幹部科の学生が、特別教室で広域応援の指揮訓練、屋外訓練場と建物を使って指揮訓練をしていました。頭でいくら学んでも、実際にからだが動かないと、実践に役に立ちません。しかも、一人でなく、大勢の隊員とたくさんの部隊を、動かさなければなりません。
そして、現場は混乱し、正確な全体像はつかめません。訓練では、あわてた住民が間違ったことを消防隊員に伝えます。住民役の学生は、なかなかの演技でした。実際の現場では、混乱した被害者、野次馬などで、もっと大変でしょう。
学生企画訓練は、授業の総仕上げ・卒業訓練です。彼らは、卒業が近づいています。

認知考古学

松木武彦著「進化考古学の大冒険」(2009年、新潮選書)を読みました。人間の心・認知の仕組みはどう進化してきたか。遺跡や遺物から、推測するのです。
ヒトの体と心の基本設計はどう環境によって作られたか、美意識はどう生まれたか、縄文から弥生土器へと形はなぜ変化したか、狩猟革命と農耕革命、民族の誕生、巨大なモニュメント、文字。これらの人類史的意義と、日本の場合を議論しておられます。事柄の性格上、そうなのかなと思うところもありますが、面白かったです。

おだやかな2月

東京は、昨日今日と天候に恵まれ、おだやかな休日でした。今年は例年になく天気が悪く、もう9回も雪が降ったそうです。といっても、富山県に比べれば、雪と言うほどのものではありません。
わが家の椿も、少しずつ花を開き始めました。今年はつぼみがたくさんついているので、楽しめそうです。
ご近所の家が取り壊され、整地されました。大きな夏みかん、ビワ、桃、カリンの木など、うっそうと茂っていて、小鳥たちの楽園でした。すべて切り倒されました。梅の老木は、花が盛りだったのですが。

事実の追求と国民的議論の片付け方・イギリスの独立調査委員会

18日の朝日新聞が、「イラク戦、独立調査委員会。英国式戦争のけじめ。前・現首相も公開喚問」を解説していました。次のような内容です。イギリスで、イラク戦争を検証する、独立調査委員会が開かれています。世論や野党の突き上げで、ブラウン首相が設置しました。歴史学者や元外交官ら5人で、構成されています。イギリス国会は強い調査権を持ちますが、二大政党制の下で、手順などをめぐって対立が起き、うまくいかないことが多かったそうです。そこで、政治的に中立で、一般の人から尊敬される議会外の「賢人」に調査を委ねる方式が生まれたのだそうです。もちろん、調査委員会にかけるということが、政治的意図を持つので、完全な中立はあり得ないのでしょうが、一つの知恵ですね。アメリカではニクソン大統領の時に、ウオーターゲイト事件の究明のために、特別検察官を任命したことを思い出します。政策ではありませんが、行政の検証として、日本でも、年金記録問題の調査のために検証委員会がつくられました。これについては、「行政構造改革 第二章第四節1政治の責任(2)行政組織の管理と業績の評価」で議論しました。