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金環日食

今朝、金環日食を見ることができました。皆さんのところでは、どうでしたか。
東京は、天気予報では曇りとのことで、あきらめていたのですが、薄曇りでした。お向かいのご主人が、ご近所の子どもを集めて、「天体教室」を開いておられたので、参加させてもらいました。よく見えました。やはり感激しますね。

市場が解決できないこと

日経新聞5月14日オピニオン欄、マイケル・サンデル教授の「市場第一主義と決別を」から。
・・過去30年間、米国では行き過ぎた「市場勝利(原理)主義」が席巻してきた。政治は問題の本質的な解決に踏み込まず、表面的な管理を重視するようになった。つまり政治が正義、平等・不平等、家族・コミュニティーの存在意義などを巡る問題に取り組まなくなったのだ。それこそ米国、日本などの国々に共通する人々の不満の源泉となっている。
この問題と向き合う唯一の方法は、市場が扱う品物について公正な議論を重ねることだ。市場の価値と市場ではないものの価値、すなわち家族やコミュニティー、民主主義といったものとの間で、より良いバランスを取る必要がある。市場が生み出す公的なサービスとそうではないものについて、開かれた議論をしなければならない。
経済成長だけで全ての問題が解決できないにもかかわらず、市場が正義や共通善まで定義できるかのような考えがまかり通っているが、それは間違っている。この「市場勝利主義」から抜け出し、新たな政治的議論を通じて市場の道徳的限界を考えなければならない・・
サンデル教授の『それをお金で買いますか―市場主義の限界』(2012年、早川書房)も出版されました。

少し話が飛躍しますが、日本の行政や議会も、その議論は「モノとお金」に偏ってきました。正義や平等、家族やコミュニティーなどの議論を避けてきたのではないでしょうか。国会や地方議会では、予算が議論の中心です。しかし、予算額では地域の暮らしやすさや行政の成果が測れないことを、『新地方自治入門』で解説しました。

ボランティア活動、求められる内容の変化

5月13日の読売新聞が、「被災地支援ミスマッチ。ボランティア、短期に集中。ニーズは生活密着型」を伝えていました。
・・東日本大震災のボランティア活動に、ミスマッチが起きている。大型連休中も県外から多くの問い合わせがあったが、受け入れた自治体は少ない。被災地では、大人数が必要ながれき撤去などの作業が減る一方、仮設住宅見回りなど地域に密着した活動が求められている・・

指摘の通りです。原発避難解除区域などは、がれきの片付けはこれからです。しかし、それが済んだ津波地震被災地では、現地で求められる活動内容が変わっています。
例えば、仮設住宅への支援(どのようなことが求められ、何をするかも含めて)、これから進める「まちづくり」(区画整理、高台移転など)に際しての住民意見のとりまとめへの支援などです。これらは、元気な個人が「はじめまして」と訪ねていっても、できる仕事ではありません。「単純肉体作業」でなく、組織的な活動と専門的知見が必要なのです。

個人ボランティアから組織ボランティアに、求めが移行しています。あるいは、個人ボランティアを組織し、その人たちを「使う」組織ボランティアが必要なのです。どのようにその動きを進めるか、専門家の知見を借りて検討中です。

他方、読売新聞16日の夕刊は、仮設住宅での孤立防止のため、自治体が行っている見守り活動が、住民の拒否にあっている例を取り上げていました。石巻市では、調査に回答した6,000世帯のうち3,300世帯(55%)が、見守りを希望しないと答えています。毎日のようにボランティアが訪ねてくることを、煩わしく感じるのだそうです。しかし、訪問拒否をしていた世帯で、2人が死んでいるのが見つかりました。

日本行政学会で報告

今日は、日本行政学会(慶應大学)で、「東日本大震災における行政の役割」を報告してきました。私の役割は、被災者支援から復旧復興の過程において、政府の一員として携わったものから見た、行政の役割についてです。行政の研究者、それはまた官僚制の研究者でもありますが、その方々の前で、「今回の大震災に対し、日本の行政・官僚は何をしたか」の審判を受ける場でもありました。「まな板の鯉」です。
時間が限られているので、阪神淡路大震災の教訓を踏まえて、政府は今回、どのように「違った対応」をしたか。自治体(被災自治体、応援自治体)、企業、NPO・ボランティアとの役割分担。そして、被災者生活支援本部、復興本部、復興庁という臨時組織を立ち上げ運営していることの意味を、お話しました。レジュメを載せておきます。

この1年間、走り続けてきたので、私たちのしたことを振り返って整理してみる、良い機会でした。専門家の前で話すことは、いささか緊張します。しかし、旧知の先生方がたくさんおられるのと、基本的知識を共有していただいている方々なので、しゃべりやすかったです。
また、昨年この仕事に携わったときから、官庁、自治体、マスコミ、国民に私たちの仕事を知ってもらうために、ホームページを立ち上げ、なるべく多くの情報を載せるようにしました。また、これまでにない仕事なので、後世の人たちや研究者の方々にも利用していただけるよう、古くなったページも残してあります。

昭和50年(1975年)に東大法学部で、西尾勝先生の「行政学」の授業を受けました。そして、公務員を職業に選び、34年勤めてきました。この間いろいろと貴重な経験をさせてもらったので、その経験を後輩や研究者に提供することも、私の務めです。時間ができたら、この1年間の経験と考えたことを文章にまとめたいと思っています。

日本行政学会の報告レジュメ

2012年5月19日に、日本行政学会で報告した際のレジュメです。そのほかの添付資料は省略します。

日本行政学会・共通論題(資料)                 平成24年5月19日
復興庁岡本全勝

大震災からの復興ー政府の役割と組織の運営

1 今回の特徴ーこれまでにない国や自治体からの支援
・被害がこれまでにない大きさと範囲、市町村役場が被災
・阪神淡路大震災(1995年)の教訓
(1)政府の支援(タテの支援)
①責任組織の設置と一元化(被災者支援本部、復興本部、復興庁)
②直接の被災者支援
・緊急物資の調達と配送、被災者への支援情報の提供(壁新聞など)
③市町村役場への支援(財政、職員、技術など)
④インフラだけでなく、生活や産業の復旧を重視
・雇用創出基金(被災者を臨時雇用)、仮設工場や仮設店舗の貸し出し
⑤制度改正と特例制度
・民間アパートを仮設住宅として借り上げ
・復興特区制度と交付金制度
⑥増税をして、資金を確保

(2)各セクターによる積極的な支援ーお金と物資だけでなく、知恵や労力を提供
①他自治体からの応援(ヨコの支援)
職員の応援、避難者の受入れ、役場機能の代替
②企業の貢献とボランティアの活躍(外からの支援)
・支援物資の提供、支援活動、企業の社会的責任(CSR)
・サービスと生産の早期再開(基礎的インフラ以外に、ガソリンスタンド、コンビニなど)

2 復興に向けて
(1)地震津波被災地
・道路や堤防などの本格復旧ー計画を策定済み
・住宅と町並みの復旧ー津波被害地域で再建は危険。移転の住民話合い
(2)原発事故災害地域
・放射線量の低い地域から、住民の帰還
・当分の間、帰還できない地域の住民への支援
(3)街が復興する3つの要素
①インフラの復旧=道路、住宅、施設、ライフラインなど
②暮らしの復旧=公共サービス(教育、医療、介護)と商業サービス
③働く場の復興=雇用と産業(企業活動と事業の再開)

3 臨時組織の運営ーこれまでにないことをする。そのための組織をつくる。
(1)組織の設置と運営
①被災者生活支援本部の設置
②職員の招集、組織の立ち上げ
③任務の発見・確認と日々の作業

(2)一元的組織設置の機能と効果
事業官庁と自治体の役割を前提として、「司令塔」を作る意義
①情報の集約と業務の調整
・現地の状況と課題を全体的に把握
・各府省の情報交換の場
・府省間で課題と問題意識を共有
・各府省への連絡と指示
②各組織の補完
・市町村役場や県庁を補完ー直接支援
・各省庁の隙間を埋める
・企業やNPOとの連携
・関係府省を束ねる
③「見える組織」
・自治体、被災者、関係団体、議員、マスコミからの「窓口」ー指摘、不満、問合せ
・被災者、関係組織、国民に対して、情報提供と政府がしていることを伝える
・存在自体が「政府を見せる」

被災者生活支援本部の記録http://www.cao.go.jp/shien/index.html
山下哲夫執筆「政府の被災者支援チームの活動経過と組織運営の経験」季刊『行政管
理研究』2011年12月号(行政管理研究センター)
復興庁http://www.reconstruction.go.jp/
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