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新聞報道を自己検証する

尾関章著『科学をいまどう語るかー啓蒙から批評へ』(2013年、岩波書店)が勉強になりました。長年、朝日新聞科学部記者として勤めた著者が、福島第一原発事故をきっかけに、過去の朝日新聞の科学報道を検証したものです。自己評価、自己反省の書になっています。
まず、朝日新聞という日本の言論界で大きな位置を占めている組織の、自己評価であることが、大きな意味があります。
そして、率直に、過去の科学報道の欠点を述べています。それは、副題にもあるように、これまでの新聞による科学報道は啓蒙型のジャーナリズムであって、批評型のジャーナリズムでなかったという反省です。その結果、国策宣伝の一端を担った、しかし他の道もあったのではないかという反省です。その背景には、科学が社会を進歩させる、科学は善であるという思い込みが、続いていたからです。原子力発電、医療、宇宙開発など具体例で、検証しています。
この本は、一記者による検証ですが、組織として、新聞社や各編集部が、自らの報道を振り返って評価や反省することは、重要な意味をもつと思います。個別の記事の検証やこの1年の回顧でなく、中長期的な位置づけです。社会に大きな影響をもつ存在であるほど、それが必要でしょう。第3者を交えた評価も良いでしょう。
その点では、私たち官僚も、各省がこの半世紀、あるいはこの20年間に、何をして何をしなかったか、何に成功して何に失敗したかを、大きな視点から振り返る必要があると思っています。もちろん、自己評価は難しいです。よいことばかりが書かれて、不利な評価はあまり期待できません。しかし、今後も国民の期待に応えていくならば、何がよかって何が足らなかったということの反省に立って、次の仕事を組み立てる必要があります。
かつて連載「行政構造改革―日本の行政と官僚の未来」で、官僚の失敗と官僚制の限界を論じたことがあります。もちろん、現役官僚が一人で検証するには、大きすぎるテーマですが、議論のきっかけになると思って試みました。途中で、総理秘書官になって忙しくて中断してしまいました。

経済成長を支えた工業高校卒業生

加藤忠一さんから、御著書『高度経済成長を支えた昭和30年代の工業高校卒業生』(2014年、ブイツーソリューション)をいただきました。著者の加藤さんは、昭和35年に福井工業高校を卒業されました。大学を経て、富士製鉄(後の新日鉄。現在の新日鉄住金)に勤められ、鉄鋼研究所長などを歴任された技術者です。
ある日、加藤さんから、「岡本のホームページの記述を引用したいので、許可を得たい」という趣旨の電子メールが届きました。引用か所は、「戦後日本の経済成長、GDPの軌跡と諸外国比較」の図です。本の第1章1の書き出しで、高度経済成長を説明する際に、私のこの図を使ってくださったのです。光栄なことなので、喜んで使っていただきました。
全く存じ上げない方です。「ところで、どのようにして、私のホームページの記述を見つけられましたか?」とうかがうと、「インターネットで探した」とのことでした。
ご本は大部なもので、かつユニークです。第1部では、高度経済成長期に、工業高校教育が果たした役割、そして卒業生がどこに就職しどのような貢献をしたかの分析です。第2部は、78人の方が寄稿された「自分史」です。第3部は、大卒の人から見た工業高校卒業生の評価です。単なる回顧録ではありません。
昭和30年代の工業高校卒業生は、総数120万人と推計されるそうです。この方々の活躍なくしては、戦後の工業化、そして高度経済成長はなかったのでしょう。産業史、社会史論です。まさにその時代を生きた方々でなくては、書くことのできなかった研究書でしょう。
全国の工業高校や県立図書館寄贈されたとのことです。600ページを超える大部の本なのに、2,160円で買うことができます。ご関心ある方は、どうぞお買い求めください。

産業復興施策の一覧表

復興庁のHPで、「産業の復旧・復興」のページを再編集してもらいました。これまでの取り組み、現在の取り組み、そしてどこまで復旧が進んだか。これらを、体系化して整理してあります。この目次のページからクリックすることで、それぞれの詳しい内容を見ることができます。
再編集してくれた松田君に、お礼を言います。たくさんある情報(ページ)を、どのような分類で整理するか。これって、結構難しいのですよ。
そして、これまでにない取り組みをしてくれている各省に、お礼を言います。かつては、産業復興は事業者の自己責任でした。政府がしたのは、低利融資くらいです。今回は、国費による復旧支援をしています。自己責任から公助へと、政府の責任範囲を広げました。そうしないと、この地域では産業は復旧しません。すると、商業サービスもなく、働く場所もないのです。
ただし、産業復興はまだ道半ばです。引き続き、現場での取り組みに力を入れましょう。