月別アーカイブ:2026年5月

利上げ臆病な日本

2026年5月11日   岡本全勝

4月20日の朝日新聞オピニオン欄、原真人・編集委員の「長引く戦争と経済危機 利上げ臆病な日本、持続可能な財政を」から。詳しくは記事を読んでいただくとして。
・・・持続可能な財政の大前提として、世界では税や社会保険料などの「国民負担」と、年金や医療、介護や子育てへの「社会保障給付」の水準のバランスをとろうと努めている。例えばフランスのように「高福祉高負担」の国もあれば、米国のような「低福祉低負担」の国もある。
日本はと言えば、社会保障を一定レベルに保ちつつ国民負担を低く抑える「中福祉低負担」路線を続けてきた。そんな都合が良すぎる政策を永遠に続けられる「魔法の杖」は存在しない。迫り来る世界的な危機の嵐を、この無責任な財政のままで乗り切れるはずがないと肝に銘じるべきだろう・・・

・・・巨大地震や感染症のパンデミックなど重大危機はいつでも起きうる。「Xデー」が来れば想定外の巨大支出を迫られるかもしれない。もし財政余力が乏しいままでその時を迎えたら、政府は十分に機能を果たせず、最も弱い立場の人々の生命や生活を守ることさえできなくなる恐れもある。
何より深刻なのは、将来の危機が懸念されているのに政権や与野党が手をこまねいていることだ。財政再建は有権者に不人気なテーマだが、国政に携わる者なら必ず挑まねばならない課題である。

先日、政府の経済財政諮問会議が世界的に著名な米国の経済学者2人を招いた。会議は高市政権が掲げる「責任ある積極財政」を理論的に支える立場で、メンバーに積極財政と金融緩和を志向する「リフレ派」が陣取っている。会議事務局は当初、高市政権が描いている路線に著名学者たちのお墨付きを得ようともくろんでいたようだ。国債の追加発行も辞さず、危機管理投資を増やし、経済成長によって税収を増やす。そんな「お手盛り」構想である。
ところが2人の学者が発したのは甘い構想への苦い忠告だった。
ブランシャール・マサチューセッツ工科大名誉教授は「危機管理投資は重要だが明確な財政的収益が見込めない。成長を押し上げるかもしれないし、そうでないかもしれない。それだけを根拠に国債を財源とすることを正当化できない」とクギを刺した。
ロゴフ・ハーバード大教授は政権への注文を聞かれ、「制度面で一つだけ選ぶとすれば中央銀行の独立性が尊重されること」と述べた。日銀に超金融緩和を継続させようと圧力をかけてきたリフレ派にとっては耳が痛い指摘だ。
泰斗たちの提言を待つまでもなく、財政をまともな水準に回復させることは今の日本にとって最大の、そして最低限の課題である・・・
参考「消費税ゼロ、経営者「反対」66%

言葉は人をつなぐか、離すか

2026年5月10日   岡本全勝

人は、言葉を使って会話することで、他者とつながりをつくります。ところが、人を離す機能も持っています。
一つは、外国の方と話す場合です。言葉が通じず、困ります。

もう一つは、日本語なのに、意味が通じない場合です。私の意図と違って取られる場合があります。言葉足らずの場合もあります。同じ単語を、別の意味に取ってしまう場合もあります。
時には「そんなことを言っていない」と、険悪になる場合もあります。しかも、親しい人との間で起きるのです。

親しくない人との会話は、通じるかどうかを気を遣って話します。また、通じないこともあるので、それを織り込んで話します。なので、行き違いは減ります。ところが親しい人との会話は、お互いがわかっているだろうとの前提で話すので、行き違いが生じます。主語を省略することも多いので。親しいが故の、行き違いです。
みなさんも、そんな経験はありませんか。

SNSはたばこと同じ運命か

2026年5月10日   岡本全勝

4月24日の日経新聞、サラ・オコナーさんの「SNSはたばこと同じ運命? 喫煙、低所得者は抜け出せず」から。

・・・SNSは2026年に入って、かつての「ビッグ・タバコ・モーメント(たばこ業界が社会的責任を問われるようになった重大局面)」が到来したときのような論調に直面している。規制当局や裁判所によるテクノロジープラットフォームへの監視が厳しくなっていることが背景にある。そのためSNSを批判する人々が、たばこに対する世論が「よくない」という方向へ転じたように、同じような変化がSNSにも訪れることを期待するのもよくわかる。
20世紀中ごろの米国では成人のほぼ半数が喫煙者だったが、その割合は2020年には13%前後にまで低下した。しかし、喫煙率が低下したとはいえ、そこには1つ、不都合な事実があった。
最も貧しい人々の多くが、依然として喫煙から抜け出せずにいたという事実だ。では、SNSの利用についても同じことが起こるのだろうか――。

米国の医学史学者、アラン・M・ブラント氏が著書「たばこの世紀」(邦訳未刊)で指摘しているように、たばこはかつて「まさしく大衆が好む商品で、喫煙は人々の典型的な習慣行動だった」。米誌「アメリカンマーキュリー」は1925年に、たばこを「日常的に使われる最も平等な商品だ」と評し、多くの場合、銀行家も靴磨きもたばこの好みが一致していると記している。
しかし、喫煙と肺がんに因果関係があることを学者たちが指摘し始めると、その情報をいち早く受け入れたのは大学卒の人々だった。ある調査によると、米国ではこの問題が初めて一般メディアで取り上げられてから間もない1954年に、高学歴層の間ではすでに喫煙率は低下し始めていた。
その記事には、その後の動向を予測するコメントもいくつか紹介されていた。ある学者は、喫煙者が減っていくペースは一定ではないものの、「今後20〜25年の間に消滅するだろう」との見方を示していた。別の識者は、喫煙のパターンが社会経済的な格差をさらに固定・強化することになると指摘し、「喫煙に起因する疾患は、今後、ますます階層によって左右される現象になっていくことは間違いない」と語っていた。
そして今、後者の予測が正しかったことが明らかになっている。しかも、それは米国に限った話ではない。
十分な教育を受けられなかったり、支えてくれる仲間がいなかったり、適切な医療を受けられなかったりすると、依存性のある習慣を断ち切ることや、そもそもそうした癖が身につかないようにすることはさらに難しくなる。

SNSの利用も同じような道のりをたどっていく可能性があるのだろうか――。
「スマホとは無縁の子ども時代」やスマホの利用時間に制限を求める動きは、主に中間層の親が推進しているように思える。彼らは、SNSの利用が若者のメンタルヘルスに悪影響をもたらすことを示す新たな研究(ただし、依然として議論の余地はある)に極めて強い関心を寄せている。また、経済的に恵まれない若者がSNSで好ましくない体験をしやすいことを示す証拠もいくつかある。
それでも、喫煙とSNSの間には重要な違いがある。喫煙者になるかどうかを決定づける大きな要因の一つは、親が喫煙していたかどうかということだ。だがSNSの場合、たとえ子どもに利用を制限していても親自身が利用する習慣を断ち切っているということを示す証拠は(まだ)あまり目にしない。これはもっともかもしれない。

いずれにせよ、喫煙の減少が所得層の違いを超えて均一のペースでは進まなかったことは有益な教訓だ。中毒性のある製品は、あまり注目を浴びなくなっても長く存続する。そして、それらが中毒性があるうえに有害性も併せ持つ場合、それは社会の不平等を映し出す鏡となるだけでなく、それを増幅させる要因にもなり得るということだ・・・

頭を切り替える

2026年5月9日   岡本全勝

かつては、自分は頭の切り替えが早い、また集中力はある方だと思っていたのですが。最近は、そうもいかなくなりました。

例えば、中断していた連載原稿の執筆を再開する場合です。
5月掲載分の「公共を創る」原稿は、海外旅行に出発する前に、編集長に提出していきました。次の6月掲載分の締め切りが5月半ばに来るので、執筆を再開しました。右筆に手を入れてもらうためには、締め切り1週間前には、右筆に届ける必要があります。
ところが、どこまで書いたか、どのような展開の予定かが、思い出せないのです。そこで、4月分の記事と5月分の原稿を読み返し、続きを考えることにしました。
忘れていますねえ、何を書いていたかを。情けないことです。頭の切り替えが悪いというより、記憶力が衰えているといった方が良いのでしょうか。一旦、頭の中が切り替えられると、そこからは集中できるのですが。もっとも、こちらの方も怪しくなってきました。

もう一つは、中断していた読書を再開する場合です。読みかけていた本を、ほかの本を優先することで中断することがあります。また、興味が移って、ほかの本を読むことがあります。机の上や枕元にあるそれらの本を見て、再開します。
しおりを挟んであるのですが、どこまで読んだか、どのような展開だったかを忘れています。目次を見て、何ページかを遡って読むことで、記憶を呼び戻します。一気に読んだ方が、効率的です。

その点、肝冷斎の多方面での活躍ぶり、頭の切り替えには尊敬します。古典漢文の解説、カレンダー作成、野球観戦、現地調査、猫の相手・・・。頭の中は、どうなっているのでしょうか。

本部の管理と店舗の主体性

2026年5月9日   岡本全勝

4月21日の日経新聞「良品計画を変えた「個店経営」」から。

・・・生活雑貨店「無印良品」を運営する良品計画。美容品などがヒットし、株価は3年間で5倍になった。新型コロナウイルス禍以前から低迷していた業績を回復させた立役者は在庫コントロール部だ。各店舗が需要を逃さず不良在庫も出にくい売り場になった。

小売業界では、収益性を追求した小型店の都心出店が増えている。流れに逆行するような郊外大型店を裏で支えている部署がある。
22年8月、良品計画は在庫コントロール部を新設した。商品計画部内にあったコントロール課を部に昇格し、経営と現場をつないで横断的に在庫を管理する専門部署とした。部署の人数は非公開だという。発足の狙いは、全店舗の販売や在庫の方針を本部主導で決める手法から、各店舗が主体性を持つ「個店経営」への転換だった。

本部が策定した商品投入などの計画を踏まえ、各店舗が販売や在庫の計画を立てる。在庫コントロール部が経営計画と売り場を連動させ、過剰在庫や欠品を抑制して個店の収益性改善を支える。在庫コントロール部は個店ごとに販売・在庫計画のベースプランを作り、坪数に応じた標準の品ぞろえや売り場づくり、陳列数量などモデルレイアウトを共有する。個店の稼ぐ力を最大化する旗振り役だ。

個店ごとに不良在庫の削減を進め、スキンケア品など利益率やリピート率の高い新商品を投入した。陳列や動線も工夫した。需要予測の精度も高まり、セールでも欠品がないように在庫を確保して人気商品が売れる仕組みを整えた。
在庫回転率は改善している。21年8月期は1年間に2.19回だったが、25年8月期は2.36回に高まった。商品数が増加し、国内を中心に売り場面積が拡大するなかでも収益性が高まっている・・・