年別アーカイブ:2023年

公務員は非営利団体に負けていないか

2023年4月24日   岡本全勝

連載「公共を創る」第148回」(新しい課題と手法について、行政が対応に遅れ、非営利団体が先に取り組んでいます。彼らの感度の良さと熱意に、公務員は負けていないでしょうか)を読んだ官僚の一人から、次のような反応がありました。一部改変して紹介します。
確かに、この指摘の面もありますね。行政改革や歳出削減で、公務員に時間と予算の余裕がないことは連載第141回で指摘しました。

・・・NPOに負けていないか、という点は、残念ながらそのとおりだと感じました。
感度の良さ(悪さ)と熱意の高さ(低さ)の背景には、ご指摘のとおり、個々の公務員の余裕度(新たな仕事をこなす余地)に加え、公務員が自らの裁量で処分できるリソース(人員・資金)がほとんどない、という点があるのではないかと思います。

世の中に「やった方がいいこと」は満ちあふれていますが、「行政がやらねばならぬこと」に引き上げるには、高いハードルがあります。行政の公平性もその一つだと思っており、同じニーズを持つ人々のうち一部だけでもなんとかしてあげる、という発想は、NPOにはできても行政にはなかなか難しいように思います。
施策の継続性・一貫性も同様で、財源が足りなくなったからやめます、ということが難しい行政では、そもそも問題に手を付けること自体、慎重になりがちです。

個々の公務員の「やる気」「熱意」の問題のように捉えられがちですが、どの程度のリソースをどういう課題の解決に振り向けるのか、最終的にはそのリソースを税で負担してもらう(あるいは既存のサービスの廃止という形で負担してもらう)ことについての判断を誰がどのように行い、そのための住民・国民の理解をどのように得ていくのか、というところが課題なのかなあと感じました・・・

「おっさんビジネス用語」

2023年4月24日   岡本全勝

4月11日の朝日新聞夕刊に「「おっさんビジネス用語」わかる? 鉛筆なめなめ・ポンチ絵・ツーカー」という記事が載っていました。

・・・「ポンチ絵」「ツーカー」「ダマでやる」「ざっくばらん」――。ビジネスの場面で中高年の男性を中心に使われる独特なフレーズを、「おっさんビジネス用語」として紹介したツイッターが話題になった。たくさんの若者が社会人生活のスタートを切る春。あなたはこの言葉がわかりますか?(笹山大志)

「ポテンヒットには気をつけて」。保険会社に勤める30代の男性はある日、会議で上司から声を掛けられて混乱した。
ポテンヒットと言えば、野球で野手の間にボールが落ちるラッキーなヒットのこと。「気をつけてってどういうこと?」。後に、部署や社員の間でお見合いになって仕事をスルーしてしまうことだと知った。
こんなこともあった。「鉛筆なめなめでいいよ」。契約額が確定せず、審査に出す書類に金額を入れられないでいた時、上司にそう声を掛けられた。ネットで調べ、帳尻を合わせて数字を入れるといった意味だと理解した。
こうした体験をもとに、男性は昨年7月、「おっさんビジネス用語ビンゴ」をツイッターに投稿した。「なるはや」「よしなに」「がっちゃんこ」「ガラガラポン」といった24個の言葉を並べて示すと、「いいね」は4・7万、リツイートも2・1万に上った・・・

昭和の官僚である私には、これらは、なじみのある言葉です。というより、このように指摘されるまで、「おっさん言葉」とは思っていませんでした。
三省堂国語辞典から消えたことば辞典』(2023年、三省堂)も、面白そうです。

学校現場への文書半減の試み

2023年4月23日   岡本全勝

4月20日の専門情報誌「官庁速報」が、「学校現場への文書半減=山梨県教委」を伝えていました。県の教育委員会から学校に、1年間で1500枚もの文書が送られているとのことです。
新型コロナウイルス感染症に関して、各省から自治体に膨大な数の文書が送られたことを、かつて紹介しました。役所で仕事をしているとき、送りつけられる大量の文書を「紙爆弾」と揶揄していました。あまりにたくさん来ると、処理できずに放置され「不発弾」のままで埋もれてしまいます。受け取る方の事情を知らずに、自分の方の都合だけで仕事をすると、こんなことが起きます。

・・・山梨県教育委員会は今年度から、市町村教委や学校現場へ送る文書を半減させる取り組みを始めた。国や各種団体からの通知を県教委が精査し、「送付しない」「市町村教委に留め置く」などと分類。共有の必要があるもののみ、要点をまとめた文面と共にグループウエアや校務支援システムで学校現場に送信する。
県教委によると、学校現場に送付される文書は年間1500枚以上に上る。事務負担を軽減し、教育の質向上を図る。教員の担い手確保にもつなげたい考えだ。

今後、国が行う調査やアンケートは、学校基本調査など法律に基づくものや、いじめ調査など児童生徒の命に関わるもの以外、県や市町村教委が分かる範囲で回答し、教員が対応する文書の数を減らす。
県による調査やアンケートは、必要性や方法を見直し、政策立案が目的の場合は必要最低限で実施。可能なものは標本抽出で行う。毎年定例的に行っている調査などは、2~3年に1回などに頻度を下げる・・・

体験談や失敗談が受ける

2023年4月23日   岡本全勝

4月9日の日経新聞「私の履歴書」、吉田忠裕・YKK元社長の「海外で講演」から。

・・・吉田工業(現YKK)の海外事業部に異動した1973年以降、海外出張の機会が多くなった。2、3年後に初めてインドネシアへ出張し、ファスナーの合弁会社を訪れたときのこと。現地の社員向けに何かスピーチをしてほしいと頼まれた。創業社長の息子ということで注目されていたのかもしれない。何の用意もなく困ったが、吉田忠雄の経営哲学「善の巡環」について話すことにした・・・
・・・だが私が忠雄になったつもりで「善の巡環」を語っても、インドネシアの聴衆は全く盛り上がらない。シーンとしている。米国のビジネススクールで鍛えたプレゼンテーション能力も役に立たなかった。大変なショックだった。

今振り返ると当たり前の話だ。忠雄は机上の論理ではなく、経営の実践を通じて哲学を練りあげた。話だけなぞっても人の心を動かすことなどできない。他人ではなく、自分の体験に基づいて語らなければダメだと痛感した。
もし社長の息子ということで聴衆が私に忖度し、盛大な拍手でもしていたら私は勘違いしたかもしれない。その方が損失は大きかった。インドネシアに限らず、海外でのスピーチは私個人の失敗談が一番通じやすかった。自分の失敗は自分が一番よく知っているからだ。成功した話はなかなか受けない・・・

四方田犬彦著『先生とわたし』

2023年4月22日   岡本全勝

あるところに紹介されていたので思い出し、四方田犬彦著『先生とわたし』(2007年、新潮社)を読みました。アマゾンでは、次のように紹介されています。
「伝説の知性・由良君美が東大駒場で開いたゼミに参加した著者は、その学問への情熱に魅了される。そして厚い信任を得、やがて連載の代筆をするまでになる。至福の師弟関係はしかし、やがて悲劇の色彩を帯び始める……。「教育」という営み、そして「師弟」という人間関係の根源を十数年の時を経て検証する、恩師への思い溢れる評論」

由良君美先生は、確か東大駒場で英語を習った記憶があります(もっとも、私の記憶が不確かなことは先日証明済みです)。名前を覚えていたので、読んでみようと思いました。師弟の軋轢、といっても師の一方的な悩みからきていたようですが、それをあとになって理解する弟子の話は、胸にくるものがありました。

旧来「治外法権の」と訳されていたextraterritorialに「脱領域」という訳語を、deconstructionに「脱構築」という訳語を与えたのは、由良先生とのことです。在外経験がないことも意外でした。

著者の四方田さんが1972年に東大文Ⅲに入学し、由良ゼミに入ることから物語は始まります。私は1973年の入学なので、1年違いで駒場の空気を吸っていたことになります。当時の駒場の情景が書かれていて、懐かしさとともに、私とは全く違った高尚な議論がされていたことを教えられました。
文学、社会、自然ととんでもない範囲と数のゼミが開講されていて、田舎からきた18歳には「これが知か」と、まぶしかったです。いくつも参加しては、途中で挫折しました。今から思うと、もったいないことでした。住んでいた駒場寮が、学内にあるのに、勉強にはふさわしくない環境でした。と、言い訳をしておきます。