体験談や失敗談が受ける

4月9日の日経新聞「私の履歴書」、吉田忠裕・YKK元社長の「海外で講演」から。

・・・吉田工業(現YKK)の海外事業部に異動した1973年以降、海外出張の機会が多くなった。2、3年後に初めてインドネシアへ出張し、ファスナーの合弁会社を訪れたときのこと。現地の社員向けに何かスピーチをしてほしいと頼まれた。創業社長の息子ということで注目されていたのかもしれない。何の用意もなく困ったが、吉田忠雄の経営哲学「善の巡環」について話すことにした・・・
・・・だが私が忠雄になったつもりで「善の巡環」を語っても、インドネシアの聴衆は全く盛り上がらない。シーンとしている。米国のビジネススクールで鍛えたプレゼンテーション能力も役に立たなかった。大変なショックだった。

今振り返ると当たり前の話だ。忠雄は机上の論理ではなく、経営の実践を通じて哲学を練りあげた。話だけなぞっても人の心を動かすことなどできない。他人ではなく、自分の体験に基づいて語らなければダメだと痛感した。
もし社長の息子ということで聴衆が私に忖度し、盛大な拍手でもしていたら私は勘違いしたかもしれない。その方が損失は大きかった。インドネシアに限らず、海外でのスピーチは私個人の失敗談が一番通じやすかった。自分の失敗は自分が一番よく知っているからだ。成功した話はなかなか受けない・・・