連載「公共を創る」第172回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第172回「政府の役割の再定義ー官僚に求められる「交渉能力」とは」が、発行されました。

これまでの官僚に求められた能力について説明しています。前回から、官僚が国家全体の利益を考えず、自身の属する省庁や局の利益を優先することがあった点について論じています。
官僚はそれぞれの政策分野での専門家です。しかし、社会や国家全体を忘れて専門分野の利益拡大に力を注ぐことがあったのです。省庁の幹部候補生(上級職。現在の総合職)を育成する際、省内(業界や専門機関を含んでいました)ではさまざまな分野を経験させるのに、省外に出して幅広い視野を身に付けさせることはしませんでした。

官僚には、理解力と説明力という「頭の良さ」とともに、交渉力もあります。官僚は実務家ですから、必ず折衝の相手がいます。折衝には、自らの考えを相手に理解してもら
わなければならない場面だけでなく、相手からの提案や依頼を断ったり後回しにしたりする場面があります。その際には自説を述べるだけでなく、相手に納得してもらう必要があるのです。

このほかにも、官僚に求められた「変な能力」があります。例えば、理不尽なことに耐える能力です。時に、国会議員に無理難題を吹っ掛けられたり、与野党に対する説明の場で厳しい追及に遭ったりするのです。

年内はこれで終わり、新年は1月11日号からです。

世界で異形な日本の30年のデフレ

12月2日の日経新聞特集「物価を考える」に、わかりやすい図表が載っていました。1992年を100として、2022年までの主要国の物価の推移が折れ線グラフになっています。

多くの先進国は毎年モノやサービスの値段が平均で2%ほど上昇してきました。物価はこの30年で、アメリカ、イギリス、イタリアは2倍に、ドイツ、フランスは1.7倍程度になりました。一人独自路線で、ほぼ水平なのが日本です、1.09倍にしかなっていません。
この30年間が、いかに異常だったかがわかります。経済界と政府の責任は大きいです。国内で生活している限りでは、わからなかったのでしょうか。

物価が上がらないのは消費者としてはよいことでしょうが、その間に賃金も同じような動きをしています。日本の賃金はそれらの国に比べて、半分になりました。
今後毎年給料を2%ずつ上げても、それらの国には追いつきません。単純には、2%上乗せして4%の上昇を続ければ、30年後に追いつきます。
政府がすべきだったのは、毎年のインフレ目標を2%にするのではなく、毎年の賃金(例えば最低賃金)の上昇を2%にすることだったのでしょう。

地方創生「小さな拠点・地域運営組織」

地方創生が、地域の交流拠点作りに乗り出しています。「小さな拠点・地域運営組織の形成(小さな拠点情報サイト)

「人口減少や高齢化が著しい地域においても、必要な生活サービス機能を維持・確保し、地域における仕事・収入を確保するため、地域住民自らによる主体的な地域の将来プランを策定し、地域課題の解決に向けた多機能型の取組を持続的に行う組織である「地域運営組織」の形成を促すとともに、各種生活サービス機能が一定のエリアに集約され、集落生活圏内外をつなぐ交通ネットワークが確保された拠点である「小さな拠点」の形成を推進しています。」
(役人らしい長い文章で、一度読んでも内容は把握しにくいですね(苦笑)。この文章を英語に訳せと言われたら、私は困ります。)

右側の動画「地域運営組織編」には、先日紹介した矢田明子さんのコミュニティケア(コミュニティ・ナース)も出てきます。

忙しい時代に0.75倍速

日経新聞夕刊月曜日連載の「令和なコトバ」は、現代社会を切り取る興味深い記事です。12月4日は「0.75倍速 タイパ時代 あえて引き延ばし」でした。

動画配信サービスには、1.25倍速とか1.5倍速という設定があります。普通の再生速度より早く再生してくれるので、急ぎで見る場合は便利です。しかも、音声はそんなに変になりません。
とろが、0.75とか0.5といった遅い速度もあるのです。私はこの記事を読むまで気がつきませんでした。

使われる理由は、練習の教材としてだそうです。ダンスや音楽の練習にです。外国語なども早くて聞き取れないときは、使えそうです。
もう一つは、時間稼ぎだそうです。子どもに静かに動画を見ていて欲しいときに、引き延ばすのだそうです。そんな使い方もあるのですね。

読者から、早速反応がありました。「私もギターの運指をコピーするときに、0.5倍速で見るときがあります」とのことです。

コメントライナー寄稿第15回

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第15回「日本型職場の功と罪」が12月14日に配信され、19日のiJAMPにも転載されました。

驚異の経済発展を遂げた日本。その職場は当時、世界が注目するところでした。しかしいまや、日本の労働者の時間あたり生産性は、経済協力開発機構加盟38か国の27位です。労働の質の面でも、二流になりました。この原因として産業構造の転換の遅れが挙げられますが、私は、職場慣行もあると考えています。

かつては効率的だった大部屋主義が、今では短所になってしまったのです。日本では、仕事が係に割り当てられ、社員は前任者からの引継書を見ながら、同僚の支援で仕事を進めます。これに対し諸外国では、仕事は各人に割り当てられ、職務記述書と執務要領で仕事をします。
「係員全員で助け合って仕事をする」職場は効率的でしたが、前例通りに仕事をこなせばよい時代が終わり、新しい仕事に対応しなければならなくなると、目標を与えられないままでは、社員はどちらに進んだらよいかわかりません。
そして、一人に一台パソコンが入り、職場はいつの間にか個人で仕事をするようになりました。大部屋ではなくなったのです。すると、誰が何をしていて何に困っているかわかりません。各人も、係全体の仕事がどのように進んでいるかを知ることができません。上司が、部下に指示を出し、部下の悩み答えなければなりません。しかし、管理職はそのような訓練を受けていません。

困難に直面しているのが、管理職です。係で仕事をする職場では、管理職は「部下に任せた」ですみました。管理職養成も先輩を見て覚えるもので、社員の中から優秀な者を管理職に抜擢していたので、管理職を育成する仕組みがなかったのです。
日本の職場の生産性を上げるためには、管理職に管理職の仕事をさせることと、管理職を意識的に養成することが必要です。