「公共を創る」連載4年

連載「公共を創る」が、2019年4月25日から掲載を始めて、4年になりました。5年目に入るということです。あと2回で150回になります。最初の頃は毎週木曜日に、最近は毎月3回木曜日の掲載です。よく続いたものです。お付き合いいただいた読者の方々に感謝します。

当初の予定が狂い、こんなにも長編になったことは、「「公共を創る」連載3年」をお読みください。私の問題関心は変わっていないのですが、書き進めていくうちに、社会の課題の項目が広がりました。また、読み物とするために具体事例などを豊富に入れるようにしているからでもあります。

若い人が知らないであろう「昔の話」を書くことも意識しています。私の経験や考えたことを、伝えたいという思いがあります。
国家行政論は、書かれたものが少ないのです。特に最近は、官僚がものを言わなくなりました。私はありがたいことに、自治省・総務省だけでなく、省庁改革・再チャレンジ政策・首相秘書官・大震災復興など、行政を考える仕事をさせてもらいました。
原稿に手を入れてくれる右筆が、私の主張を理解してくれて、間違いの訂正だけでなく、違った意見も書いてくれるのです。

去年の今ごろ「あと半年くらいかかりますかね」と書いたのですが。ようやく結論の部分に入ったので、あと半年で終わるでしょう。

生成人工知能

生成人工知能や対話型人工知能が、報道を賑わしています。
いくつかの要素を入れると、それに沿って文章を書いたり、応答してくれるとのこと。それが、かなりの水準に達したのです。学校での作文の宿題や試験に、本人に代わって答えを書いてくれます。大学でも、論文を代筆してくれます。

その開発を止めたり、規制してはどうかといった議論も、出ています。でも、開発は止まらないでしょう。人間は便利なものは、使いたくなります。
「電卓を禁止しろ」とは言わないでしょう。ただし、数学の試験には持ち込みが禁止されます。便利になることと、試験や宿題に利用しないこととは、別問題です。
代筆なら、人工知能に頼らなくても、大学入試で学外の人に作ってもらい、携帯電話で送ってもらう事件が出ています。作文や論文の代筆は、しばしばあるようです。

作文にしろ答案にしろ、「いくつかの要素を入れて文章を作れ」という条件なら、いずれコンピュータが書いてくれるようになるでしょう。学生が教科書を学んで、それらの知識から文章を作るのと同じ作業ですから。外国語の翻訳も同じです。よく似た構文を選び、訳語の中から適切なものを選べばよいのです。この点では、かなり進んでいるようです。

役所でもよく作られる上司の挨拶文、「本日ここに××が開催されるに当たり、一言お祝いの言葉を述べます・・・」などは、人工知能に任せるのがよいですね。あれほど、聞いていて、あほらしい文章はありません。
結婚披露宴の祝辞も同じです。そして、機械がつくってくれる祝辞は似たり寄ったりになって、面白くないでしょうね。話者の体験談や、新郎新婦との関係といった、機械が知らない話を入れることが、受ける話のコツですから。

公務員は非営利団体に負けていないか

連載「公共を創る」第148回」(新しい課題と手法について、行政が対応に遅れ、非営利団体が先に取り組んでいます。彼らの感度の良さと熱意に、公務員は負けていないでしょうか)を読んだ官僚の一人から、次のような反応がありました。一部改変して紹介します。
確かに、この指摘の面もありますね。行政改革や歳出削減で、公務員に時間と予算の余裕がないことは連載第141回で指摘しました。

・・・NPOに負けていないか、という点は、残念ながらそのとおりだと感じました。
感度の良さ(悪さ)と熱意の高さ(低さ)の背景には、ご指摘のとおり、個々の公務員の余裕度(新たな仕事をこなす余地)に加え、公務員が自らの裁量で処分できるリソース(人員・資金)がほとんどない、という点があるのではないかと思います。

世の中に「やった方がいいこと」は満ちあふれていますが、「行政がやらねばならぬこと」に引き上げるには、高いハードルがあります。行政の公平性もその一つだと思っており、同じニーズを持つ人々のうち一部だけでもなんとかしてあげる、という発想は、NPOにはできても行政にはなかなか難しいように思います。
施策の継続性・一貫性も同様で、財源が足りなくなったからやめます、ということが難しい行政では、そもそも問題に手を付けること自体、慎重になりがちです。

個々の公務員の「やる気」「熱意」の問題のように捉えられがちですが、どの程度のリソースをどういう課題の解決に振り向けるのか、最終的にはそのリソースを税で負担してもらう(あるいは既存のサービスの廃止という形で負担してもらう)ことについての判断を誰がどのように行い、そのための住民・国民の理解をどのように得ていくのか、というところが課題なのかなあと感じました・・・

「おっさんビジネス用語」

4月11日の朝日新聞夕刊に「「おっさんビジネス用語」わかる? 鉛筆なめなめ・ポンチ絵・ツーカー」という記事が載っていました。

・・・「ポンチ絵」「ツーカー」「ダマでやる」「ざっくばらん」――。ビジネスの場面で中高年の男性を中心に使われる独特なフレーズを、「おっさんビジネス用語」として紹介したツイッターが話題になった。たくさんの若者が社会人生活のスタートを切る春。あなたはこの言葉がわかりますか?(笹山大志)

「ポテンヒットには気をつけて」。保険会社に勤める30代の男性はある日、会議で上司から声を掛けられて混乱した。
ポテンヒットと言えば、野球で野手の間にボールが落ちるラッキーなヒットのこと。「気をつけてってどういうこと?」。後に、部署や社員の間でお見合いになって仕事をスルーしてしまうことだと知った。
こんなこともあった。「鉛筆なめなめでいいよ」。契約額が確定せず、審査に出す書類に金額を入れられないでいた時、上司にそう声を掛けられた。ネットで調べ、帳尻を合わせて数字を入れるといった意味だと理解した。
こうした体験をもとに、男性は昨年7月、「おっさんビジネス用語ビンゴ」をツイッターに投稿した。「なるはや」「よしなに」「がっちゃんこ」「ガラガラポン」といった24個の言葉を並べて示すと、「いいね」は4・7万、リツイートも2・1万に上った・・・

昭和の官僚である私には、これらは、なじみのある言葉です。というより、このように指摘されるまで、「おっさん言葉」とは思っていませんでした。
三省堂国語辞典から消えたことば辞典』(2023年、三省堂)も、面白そうです。

学校現場への文書半減の試み

4月20日の専門情報誌「官庁速報」が、「学校現場への文書半減=山梨県教委」を伝えていました。県の教育委員会から学校に、1年間で1500枚もの文書が送られているとのことです。
新型コロナウイルス感染症に関して、各省から自治体に膨大な数の文書が送られたことを、かつて紹介しました。役所で仕事をしているとき、送りつけられる大量の文書を「紙爆弾」と揶揄していました。あまりにたくさん来ると、処理できずに放置され「不発弾」のままで埋もれてしまいます。受け取る方の事情を知らずに、自分の方の都合だけで仕事をすると、こんなことが起きます。

・・・山梨県教育委員会は今年度から、市町村教委や学校現場へ送る文書を半減させる取り組みを始めた。国や各種団体からの通知を県教委が精査し、「送付しない」「市町村教委に留め置く」などと分類。共有の必要があるもののみ、要点をまとめた文面と共にグループウエアや校務支援システムで学校現場に送信する。
県教委によると、学校現場に送付される文書は年間1500枚以上に上る。事務負担を軽減し、教育の質向上を図る。教員の担い手確保にもつなげたい考えだ。

今後、国が行う調査やアンケートは、学校基本調査など法律に基づくものや、いじめ調査など児童生徒の命に関わるもの以外、県や市町村教委が分かる範囲で回答し、教員が対応する文書の数を減らす。
県による調査やアンケートは、必要性や方法を見直し、政策立案が目的の場合は必要最低限で実施。可能なものは標本抽出で行う。毎年定例的に行っている調査などは、2~3年に1回などに頻度を下げる・・・