ロボットは労働者の仕事を奪うか

1月25日の日経新聞オピニオン欄イギリス・エコノミスト誌の転載は、「「ロボットが雇用を奪う」は誤りか」でした。

「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が世界を襲った当初、失業率が急上昇した。米国では、2020年4月に大恐慌期以来初めて14%を超えた。高い失業率が長期化するとみる向きが多かったが、その予測は現実にはならなかった。
富裕な先進国を中心とした経済協力開発機構(OECD)加盟国の失業率は入手可能な最新のデータによると、21年11月時点でパンデミック前に比べてわずかに上昇したにすぎない。直近の実数ではパンデミック前と大差ない可能性がある。ロボットは労働者の味方なのか、それとも敵なのかー。先進国における労働市場の回復は、経済学者たちにとって、この経済学上の根本的な問いに対する答えを再検討するきっかけになっている」として、次のようなことが述べられています。

長年、「ロボットが人間から仕事を奪う」と言われてきました。しかし、人工知能と機械学習がもたらす雇用革命にあるといわれながら、2019年の先進国の就業率が過去最高水準になったこと。ロボットの利用が最も進んでいるとされる日本と韓国の失業率が最も低いこと。ロボットによる自動化が失業増加を招いている証拠はほとんど見つからず、人手不足の状態にあること。

どうやら、人工知能や機械化を進める企業は、新しい製品や分野に手を広げ、さらに経済規模を拡大しているようです。同じ製造過程で同じ量の製品を作っているなら、機械化によって雇用者数は減るでしょう。しかし、経営も経済も動いているのです。
経営はコストカット(経費削減)だけでなく、新製品と新分野への拡大もあり、後者のない企業は衰退するでしょう。

ツイッターの匿名利用

世間という同調圧力」の続きです。1月25日の読売新聞「「世間」が生み出す同調圧力」には、興味深い図表がついています。
ツイッターの匿名利用率の各国比較です。総務省の2014年版情報通信白書第4章の「図表4-3-1-16 Twitterの実名・匿名利用の割合」です。

それによると、匿名利用者の割合は、アメリカ36%、イギリス31%、フランス45%、韓国32%などに比べ、日本は75%です。
日本は突出して高いのです。これも、世間を気にすることの反映のようです。

なお、「図表4-3-1-17 SNSの実名公開における抵抗感」では、「やや抵抗感がある」「抵抗感がある」の合計が、日本だけが66%です。これも他の国が33%から47%であることに比べ高いのです。

すわ、逃げろ

もう2週間以上前の出来事です。
夕方の丸ノ内線、座席は埋まっていて、立っている人もいます。立っている私の前の席が空いて、座りました。
隣の女性は、しきりにスマートフォンを操作しています。そこに、電話がかかってきたようで、耳に当てて話を始めました。
「かなわんなあ・・・電車中で電話して」と思いましたが、最初は小さな声なので無視しました。

そのうちに声が大きくなり「えー、地下鉄の中なので聞こえないのです・・・」と発言。
途切れ途切れに、発言が聞こえます。
「検査が必要?」
「病院に行くのですか・・・」
「私が?」と言っています。
私は「健康診断で引っかかって再検査をするのかな」と想像しました。

しかし「PCR検査を受けるのですか?」と聞こえた瞬間に、私は席から立ち上がって、隣の車両に移動しました。
その間、5分間ほどだったでしょうか。この方も、家族や職場に感染者が出たのでしょうね。感染しておられないことを祈ります。
その後、2週間以上経過したので、私は感染しなかったようです。

3段階の科学者の説明

1月27日の朝日新聞オピニオン欄、横山広美・東大教授の「科学的提言、信頼得るために」から。

・・・新型コロナ対策の専門家有志は21日、オミクロン株による感染者数の急増への対応について提言を発表した。その前日に検討された案には「若者は検査せずに診断」という旨の文言が入っていた。医療機関のキャパシティーを心配してとのことだが、各方面からの苦言を受けて撤回された。「人流抑制よりも人数制限」という方針も混乱を招いた。

科学者と社会のコミュニケーションは、3段階に分けることができる。緊急時のクライシスコミュニケーション、それよりは状況に余裕のある段階でのリスクコミュニケーション、そして平時から行う科学コミュニケーションである。
クライシスコミュニケーションの重要な点は、社会の構成員にこの危機は制御可能であるという具体策を示すこと、恐怖を煽らないこと、一貫したメッセージを発することだ。メッセージは状況によって変えてもよいが納得感が肝心である。今回の提言はこの2年間で私たちが自分たちなりに抱いた落としどころと、ずれが生じた・・・

世間という同調圧力

1月25日の読売新聞くらし面「今を語る」は、佐藤直樹・九州工業大名誉教授の「「世間」が生み出す同調圧力」でした。

・・・推奨されてはいるが、強制されているわけでも義務でもないのに、ほとんどの人が常時マスクをつけて生活をしています。
なぜか。感染防止意識が強いだけではありません。日本には「法のルール」の前に「世間のルール」が存在し、この「世間」が同調圧力を生み出しているからです。
日本では多くの人が、「世間に迷惑をかけないことが大切だ」と刷り込まれて育てられます。だから、政府や自治体による強制力のない要請であっても、空気を読んで、自主的に従います・・・

・・・長い歴史を持つ世間では、「友引の日に葬式はしない」など、たくさんのルールが作られてきました。それがたとえ合理的な根拠のないものであったとしても、多くの人は律義にこれらを守ることで秩序を維持してきました。しかし、やっかいなことに「世間のルール」は明文化されていませんし、その輪郭もはっきりしていません。

地域のつながりが減少し、目に見えない仮想化した世間では、何が批判されるのかもわからない。過度にお互いの心中を察し、「空気を読め」と要求されます。
共感過剰シンドローム(症候群)と呼んでいます。会議で周囲と違う意見が言えない、終業時間になっても同僚が仕事をしていれば帰宅しにくい。「自分は自分、他人は他人」と考えることができません。
逆に、空気を読まず、ルールに従わない人は「迷惑な人」であり、バッシングしても構わないという心理を正当化しやすくなります。異論や少数意見を許さない、息苦しい同調圧力が生まれます。コロナ禍で、「感染よりも世間の目が怖い」という声を耳にした人も多いのではないでしょうか・・・

佐藤先生とその先達になる阿部謹也先生の著作は、私も参考にしています。連載「公共を創る」にも引用しています。