日経新聞、大震災復興事業の検証。産業復興

日経新聞の大震災復興事業の検証、2月9日の第2回は産業復興でした。「水産加工の沈下やまず 津波被災地「空白」埋める挑戦

今回の災害復旧復興政策での大きな項目の一つが、産業なりわいの再建支援です。以前の災害では、事業の再建は事業者の自己責任でした。今回、町での暮らしを再開するために、そして地域のにぎわいを取り戻すために、産業再開に国費を投入しました。商店がないと暮らすことができず、勤め先がないと失業します。仮設店舗や工場の無償貸し出し、グループ補助金、二重ローン対策、人とノウハウの支援などです。

これらの支援策も、当初から全体像を持って行ったものではありません。そのときそのときに必要なものを考え、政策として作り上げたのです。従来の「哲学」を変更するには、それなりの理屈が必要です。グループ補助金も、当初は地域の主たる産業を再建するという趣旨(縛り)でした。その後、その条件を徐々に緩めました。
施設設備を復旧しても売り上げが戻らない事業もあり、大企業から人とノウハウの支援をもらいました。これらの支援策を積み上げ、産業なりわい支援を復興の大きな柱の一つとしたのです。参考「復興がつくった新しい行政

これは画期的なことで、関係者からも高く評価されました。ただし、いくつかの課題も見えてきました。
まず水産業では、サンマや鮭といった魚が捕れなくなり、困っています。
グループ補助金では、復旧を目指したので、環境の変化や事業の進化を織り込むことができませんでした。変化の激しい現在の事業環境では、先を読むことも必要なのでしょう。しかしそれは難しいことです。
公共インフラの復旧は、行政が主体になって行うことができますが、産業となりわいは、主体は事業主です。支援はできても、判断は事業主にかかっています。この項続く

女性を直撃するコロナ

2月5日の日経新聞夕刊、白波瀬佐和子・東京大学教授の「コロナ禍、女性の雇用直撃」から。

――コロナ禍は特に女性に影響を与えたといわれる。
「コロナは飲食業など対面型のサービス業を直撃した。誰が働いているかといえば女性だ。非正規雇用の約7割を女性が占め、低賃金で不安定な立場にある。看護や介護、保育などの分野にも女性の働き手が多く、過酷な労働環境にさらされている」

――家庭でも負担は大きい。
「日本は家庭内の性別役割分業が固定的だ。学校が休校になった際、誰が子の面倒を見たか。大抵は女性だ。実態調査で、コロナ禍で『生活に変化があった』と答えたのは男性よりも女性の方が多かった。非常時では、子や親の世話、食事作りなど細かいことまで想定して備えなければならない。多くは女性が担っており、ストレスが増している」

――子どものいる家庭では、母である女性の雇用が危うくなれば、子にも影響が出かねない。
「ひとり親家庭では母親が失職するか、収入が減ったケースもある。子どもの宿題を見る精神的な余裕もなくなってしまう。家庭の厳しい状態は子どもの進路にも関わる」

――暴力の問題も見逃せない。
「ドメスティックバイオレンス(DV)の相談件数は2020年4~11月の期間、前年同月に比べ1.4~1.6倍になった。ほとんどが女性からの相談だ。性暴力の相談件数も急増し、若い世代の予期せぬ妊娠が問題になっている。女性の自殺も増え、事態は深刻だ。一連の状況を見ると、女性に集中した対策がとられてしかるべきだ」

日経新聞、大震災復興事業の検証。予算総額

2月8日の日経新聞1面に大きく「震災10年、空前のインフラ増強 予算37兆円超」が載っていました。「東日本大震災10年 検証・復興事業①」とのことです。
・・・3月11日で東日本大震災発生から10年となる。地震と津波に加え、原子力発電所事故まで起きた未曽有の複合災害に対し、政府は37兆円超の予算を投じ復興を進めてきた。前例のない手厚い支援は功を奏したのか。復興事業を検証する・・・

大震災から10年が経つことで、各紙が検証記事を書いています。良いことです。政府が取った政策がよかったか、どこに問題があったかを、調べてください。そして、今後の教訓として欲しいです。
この記事が取り上げている、予算総額とその使い道も、検証対象の一つです。それぞれの事業は必要性があり、無駄には使われていません。その点では、会計検査では適切でしょう。その上で、次につなぐ教訓として、次のような視点を指摘しておきます。

東日本大震災では当初、どれくらいの復興復旧予算がかかるかわかりませんでした。被害総額は試算されましたが、それが政府の復旧事業対象となるわけではありません。インフラはどの程度復旧するのかの判断があり(今回は復旧以上に、復興道路が造られました)、がれき片付け経費、高台移転経費、産業復興支援などは推計の外だったでしょう。

復旧復興事業を進めて行くにつれて、予算額が確定していったのです。いわゆる積み上げです。
他方で、当初見込みで予算総額が仮置きされ、財源が手当てされました。復興増税を国民にお願いし、政府が保有する日本郵政の株式売却益を当てることとなりました。ひとまず必要な財源を、財務省は手当てしてくれたのです。その後の事業費増加についても、それぞれ財源手当てをしてくれました。だから、これだけの事業を実施することができました。

予算を使って行う事業である以上、予算額が上限になります。そしてそれは、財源裏打ちが必要です。次回このような大災害が起きたときに、この総額と財源をどう考えるかが、一つの要素となります。そして、予算額が無限でない限り、事業に優先順位を付けなければなりません。
それぞれの事業は必要であっても、どれを先にするか、あるいはどの事業はあきらめるかです。
東日本大震災では、その時点その時点で必要性を判断しました。走りながら考えたのです。それを積み上げたのが、この結果です。もし予算額に限りがあり、その中から選べと言われると、市町村長はたぶん、被災者支援、住宅再建、産業再開を優先し、インフラ復旧についてはその中で優先順位を付けると思います。
また、各集落を元に戻すのか、他の方法をとるのかなども、検討されるでしょう。これについては、別途書きます。この項続く
参考「復興事業の教訓

鎌田浩毅・京大教授。新著と最終講義

鎌田浩毅・京大教授が新著『首都直下地震と南海トラフ』(2021年、エムディーエヌコーポレーション)を出版されました。
2011年の東日本大震災以来、日本列島は大地変動の時代に入ったようです。もっとも、地球の方はそんな短い時間では動いていませんが。首都直下地震や南海トラフ地震はかなりの確率で起きることが予想されています。
本書は、「地球科学を学んでこなかった人にも最後まで読めるように、徹底的にわかりやすく書いた」とあります。室井滋さんとの対談もあり、読みやすいです。

鎌田先生はこの3月で京都大学を定年退職されます。「科学の伝道師の総決算」と銘打たれています。
3月10日の最終講義を、オンラインで見ることができます。

農政ジャーナリストの会で講演

今日8日は、農政ジャーナリストの会に呼ばれて、話してきました。大震災復興10年を振り返って、成果と反省、次への教訓を話しました。
会場には数人で、残りの人たちはオンラインで参加です。60人ほどが参加してくださったとのことです。質問も適確で、話しがいがありました。

補足
今日使った資料の多くは、「1月21日シンポジウム資料」で見ることができます。
教訓については「復興事業の教訓」以下4回の記事を、原発事故の記録と伝承については「原子力災害伝承館が伝えることと残っていること」以下を見てください。
復興に関する記事は「災害復興」の欄を見てください。ただし、累計1600ページを越えます。よく書き続けたものです。