復興事業の教訓、過大な街づくり批判

復興事業の教訓、人口の減少、その2」に続き、「復興事業の教訓」その3です。
「防潮堤の復旧は過大だったのではないか」「まちの復興計画が大きすぎて、空き地があるではないか」という批判です。そのうちまず、過大な街を作ったのではないかという批判についてです。

実は、街づくり計画は、各地で何度も見直し、縮小しました。計画作りのために住民意向調査を行い、その後も工事に時間がかかるので住民意向調査を繰り返しました。すると、戻りたいという住民の数が当初より減ったのです。
そこで、いくつか計画した高台移転計画を縮小しました。条件の悪い地区を、やめました。
しかし、町の中心での土地のかさ上げ(区画整理)は、計画の見直し縮小は難しいです。一定の区画を限り、その地権者たちの同意を取って、全体の計画を作っています。公共施設の配置、道路の配置、地権者の新しい町での貼り付け、そして公共用地を捻出するために地権者の所有地をどの程度縮減するか(減歩率)を決めています。面として計画を作っているので、これを見直すのは大変な労力が必要です。そして、完成が遅れます。

なお、住民意向調査では時間が経つと、自費で戸建てを建てる人が減り、公営住宅に入りたい人が増えました。これは実施の段階で変更しました。

「地元自治体負担なしが、計画見直しを進めないことになった」との意見もあります。私も、自治体負担を少しでも入れておけば、議会が予算面からより監視機能を働かせたと思います。負担できない自治体は、別途国が予算支援をする必要はあります。

街づくりを担った職員が町役場の職員ではなかったことも、その原因の一つとして指摘されています。被災市町村には能力を持った職員が多数いませんから、他の大きな自治体から技術職員を応援に送りました。ところが、街づくり工事を応援職員だけでやっていて、役場内で孤立しているとの指摘もありました。
これらの点は、今後改善する必要があります。この項続く

参考「朝日新聞インタビュー「ミスター復興が語った後悔と成果」」「復旧事業費地方負担なし、関係者の声」。

同一賃金への道

1月25日の朝日新聞「記者解説」沢路毅彦・編集委員の「同一賃金巡る司法判断 基本給・賞与のあり方、労使に宿題」から。

・・・「格差是正一歩前進」と「不当判決」。昨年10月13日と15日に出された、労働契約法20条を巡る五つの最高裁判決は、非正規労働者に一部の手当を支給しないことを違法とする一方、ボーナスや退職金の不支給は違法とせず、明暗が分かれた。訴えられていたのは、3件の訴訟があった日本郵便と、大阪医科薬科大学、東京メトロ子会社だ。
20条は、雇用期間に定めがあるかないかで、労働条件に不合理な格差を設けることを違法とする規定だ。(1)仕事内容や責任の程度(2)人材活用の仕組み(3)その他の事情――を考慮して不合理かどうかが判断される。
2千万人を超える非正規労働者のうち7割は雇用期間に定めがある有期契約だ。一方の正社員は無期雇用。20条は正社員よりも低い非正規労働者の処遇を改善することが目的で、2013年施行の改正労契法に盛り込まれた。

本来、労働条件は企業と労働者の交渉によって決めるものだ。それなのに20条ができたのはなぜか。
1990年代後半まで非正規の割合は約2割。その多くが家計を補助する主婦パートやアルバイトで、低い処遇でも大きな社会問題にならなかった。ところがその後、非正規は増え今や4割近い。就活がうまくいかなかった若者から中高年男性まで広がった。
こうした状況を改善するため改正労契法が制定された。20条のほか、有期契約が繰り返し更新されて5年を超えた場合に無期転換できる「5年ルール」もできた。

安倍前政権の「働き方改革」は「同一労働同一賃金」を目玉の一つに据えた。「同一労働同一賃金」は本来、「同じ仕事に同じ賃金を」という意味だが、「働き方改革」では「不合理な格差を違法とする」という20条と同じ考え方をとっている。働き方改革関連法で労契法20条はパートタイム有期雇用労働法に統合された。賃金の総額ではなく、項目ごとに格差が不合理かどうかを判断することを明確にした。
昨年10月の最高裁判決は20条による判断だが、パート有期法にも言及しており、今後の解釈に大きく影響することは間違いない・・・

・・・今年4月に全面施行されるパート有期法では、基本給だけでなくボーナスも、格差が不合理かどうか判断される対象になることが明記された。パート有期法制定と同時に作られた指針では、基本給やボーナスの格差がどのような場合に違法になるかが列挙されている。だが、指針が示した基本給やボーナスの場合分けは現実とは違うという意見が実務家の間では多い。どのような制度が妥当なのか。非正規の意見を採り入れた形で制度設計をすることが労使にとって課題になる・・・

復興事業の教訓、人口の減少、その2

復興事業の教訓、人口の減少」の続きです。次は、宮城県沿岸部です。
この図表でも、被災の10年前、直前、10年後を比べてあります。宮城県全体では、100、99、97で、微減です。沿岸部人口は表の下に示しました。減っていません。ただし仙台市を除くと、100、97、88と減っています。
そして各市町村を見ていただくと、仙台市とその近くの市町は増えていて、仙台市から遠い北と南の市や町が大きく減っています。

町が大きく壊れた町ほど復興工事が長引き、人口の流出が大きいという指摘がありますが、それも事実でしょう。他方、宮城県を見ると、それだけでは説明できません。地理的、経済的条件が大きいと思われます。働く場と都市的魅力がある地域、そこに近い地域が人を集め、そうでない地域は人口減少が続きます。
これは津波被災地だけの問題ではなく、日本全国で起きていることです。被災地は、それが劇的に起きたのです。

話は変わりますが、原発被災地では、県内のゴルフ場や那須高原に新しい町を作って、移住する案がありました。私は担当ではなかったのですが、意見を聞かれて反対しました。働く場所のない町は、持続しないからです。かつて、東京や千葉県にニュータウンがいくつも作られましたが、それは東京という働く場があったからです。それがないと「ベッドタウン」寝るだけの町になり、持続しません。この項続く

合理的バブルが終わるとき

1月22日の日経新聞「エコノミスト360°視点」、中空麻奈・BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の「合理的バブルが終わるとき」から。

・・・足元で起きている資産価格と実体経済がかけ離れる「バブル」は、世界の中央銀行による金融緩和で生じたため「合理的」らしい。1990年代の米国が「根拠なき熱狂」に沸いたのとは異なるということだ。合理的に生じたものは合理的に終わると期待され、妙な安堵感も広がる。

しかし、合理的か非合理的かにかかわらず、バブルはいつかはじける。
良く引き合いに出されることだが、電気自動車世界最大手、米テスラ株の時価総額が日本車メーカー9社合計を上回った事実一つをとっても、資産価格の上昇はすでに説明がつかない。警戒感を持ってバブルの波から早く降りれば崩壊に備えられる。とはいえ、まだ株価が上昇するとすれば、指をくわえて見ていられないのが投資家の宿命だ。

問題は合理的か非合理的かではなく、①このバブルは何をトリガーにして②いつ終わるのか――という2点だ。
効率的市場仮説に基づいて価格が決まっているのだとすれば、そこから生じたバブルの限界は、「その価格では転売できなくなった時」か、現実世界の資源の有限性がネックになって「その価格が成立しなくなった時」である。

しかし、前者については、中央銀行が最後の買い手となると市場は理解している。中央銀行の出口戦略がきっかけになるとの声は多いが、極端な政策を取るとは思えない。そうなると、今回のバブルは現実世界の「崩れ」が原因で終わる公算が大きいのではないか。トリガーとなり得るポイントを3つ指摘する・・・
原文をお読みください。

復興事業の教訓、人口の減少

大震災復興に長く携わったので、取材や講演、執筆の依頼がよく来ます。これまでの主題は、復興の現状と課題が多かったのですが、10年を迎えるに当たって、また津波被災地では工事がほぼ終了したので、主題が反省と教訓に移ってきています。
これまでは、問題の指摘や批判があれば、それにどのように答えるか、改善するかが対応でした。ここに来て事業が終わったので、次回への教訓をまとめることが必要になりました。1月21日の「シンポジウム 東日本大震災から10年」でもこの点に触れましたが、改めて説明しておきます。今回は、津波被災地復興について述べます。

いくつか批判と反省がありますが、主なものとして、次のようなものがあります。
・住民が戻っていない。町のにぎわいが戻っていない。
・巨大な防潮堤はムダだったのではないか。町づくり計画が過大だったのではないか。
これらについて、関係者と議論し、また講演会などで話をして、私の考えを整理してみました。
まず、住民が戻っていない。町のにぎわいが戻っていないことについてです。

次の図表は、津波被害に遭った岩手県沿岸部12市町村の人口の推移です。被災の約10年前(平成12年10月)、被災直前(平成22年10月)、被災10年後(令和2年11月)を並べてあります。右の表は、平成12年を100とした指標です。
岩手県全体では、100、94、86という減少ですが、沿岸部合計では100、88、74です。沿岸部は既に人口減少傾向にあり、かつて「10年で10%減る」と聞いたことがあります。その減少傾向がさらに加速したのです。この項続く