連載「公共を創る」50回達成

連載「公共を創る 新たな行政の役割」が50回になりました。2019年4月から始めて、1年3か月です。

これまで、次のような内容を書いてきました。
まず第1部では、東日本大震災で体験し考えた、政府の役割とその変化を述べました。そして、災害復興だけでなく、社会の変化によって行政の哲学が変わったことを説明しました。
第2章では、その行政の哲学の変化から社会全体を見直すと、これまでの行政の対象が狭かったことを指摘しました
第3章では、日本社会が大きな転換期にあることを説明しています。経済成長を達成し、近代を完成させた時に、これまでとは違った課題が生まれてきたこと、これまでの行政手法や私たちの考え方が機能不全を起こしていることを説明しています。

第1章 大震災の復興で考えたこと
1 想定外が起きたー政府の役割を考える 第3回~第8回
2 町を再建するーまちとは何か 第9回~第11回
3 哲学が変わったー成長から成熟へ 第12回~第23回
第2章 暮らしを支える社会の要素
1 公私二元論から官共業三元論へ 第24回~第28回
2 社会的共通資本 第29回~第38回
第3章 転換期にある社会
1 日本は大転換期 第39回~

全体構成」では、これでほぼ半分を過ぎました。もっと早く進む予定だったのですが、書き始めると分量がどんどん膨らみます。歴史になったことや、その時々の問題や事件は書物になっているのですが、近過去そして私の視点のような変化は書かれたものが少ないです。
執筆に当たっては、私の視角から筋書きを書き、そこに事実を当てはめていきます。事実の確認に手間がかかります。簡単にはインターネットで調べ、そこからより詳しく調べることをしています。数表作成などは、知人たちの協力を得ています。ありがたいことです。そして、右筆たちに手を入れてもらいます。私の考え違いを正され、読みにくい文章がわかりやすくなります。さらに、編集長が1回ごとに切り分け、校閲さんが文章を正しくしてくださいます。

ちなみに、同じく『地方行政』に連載した「明るい公務員講座」は、初級編が35回、中級編が42回でした。

心理社会的なストレスによる病気

7月26日の読売新聞、中井吉英・関西医大名誉教授の「心療内科の神髄 体と心 患者さんに触れる」から。
「社会が複雑化し、ストレスであふれた現代。先の見えないコロナ禍も重なり、今後は心身の調子を崩す人がじわじわと増えることが予想される。ストレスが背景にある病気は、検査で異常が見つからないことも多く、診断と治療が難しい」

「ベッドサイドで手を握る。体をさする。大人もそれで安心します」
・・・心療内科医になって50年がたちました。でも、いまだに心療内科は多くの人に誤解されています。
精神科は、統合失調症やうつ病、不安症などの精神疾患が対象。神経内科は、パーキンソン病や脳梗塞こうそくなど脳神経系の病気を診ます。
一方、心療内科は、「体と心を分けずに診療する内科」です。主に心理社会的なストレスの影響で、体に不調が表れたり、もともとあった病気の症状が悪化したりした身体疾患(心身症)を診る「心身医学」を、内科の領域で実践します。心療内科医は名前の通り、内科医なのです。

1995年の阪神大震災の時、避難所の体育館に70代の男性がいました。被災後に血圧が高くなり、降圧剤を飲んでも上の血圧が180から全然下がらない。話を聴くと、地震で家が倒壊し、親友が目の前で亡くなった。その場面が何度もフラッシュバックとして現れ、1か月間、ほとんど眠れなかったといいます。私は彼の脈を診ながら手を握り、じっくりと話に耳を傾けました。その後に睡眠薬を処方すると、男性はぐっすり眠れるようになり、血圧も120台にまで下がりました。

人間関係の悩みからじんましんが度々発症していた30代の男性。夫の言葉による暴力から胸痛が表れていた50代女性。幼少時から親に甘えられず大量の飲酒を繰り返して慢性膵炎すいえんになった40代男性――。こうした患者さんたちは、医師が身体所見を正確に診た上で、心理面をはじめ、家族、学校、職場などの社会・環境まで見据えた「全人的医療」を行うことで症状が改善されるのです。
このような心療内科の診療で特に大切なのは、患者さんに「触れること」です・・・