池上 俊一 著『情熱でたどるスペイン史』

池上 俊一 著『情熱でたどるスペイン史』 (2019年、岩波ジュニア新書) を読みました。
私は、ローマ帝国の属領、イスラム支配、レコンキスタ、植民地帝国、フランコ独裁などの知識しかなく、スペインの通史を読んだことがなかったので、とても勉強になりました。お勧めです。
「ジュニア」と銘打っているので、中高生向けと思いますが、大人が読んでも十分に役に立ちます。というか、中高生には少々難しいかもしれません。

先生の著書「××でたどる○○史」には、このほかにフランス、イタリア、ドイツ、イギリスがあり、これで5か国目です。
イタリアがパスタ、フランスがお菓子、イギリスが王様、ドイツが森と山と川です。この切り口は、それぞれに「なるほどなあ」と思います。もちろん、一つの切り口でその国の歴史、文化、社会を紹介することはできませんが。わかりやすいです。
では、日本を紹介するとしたら、何を切り口にしますかね。天皇、和食、仏教と神道、島国・・・。

参考『ドイツの自然がつくったドイツ人』『パスタでたどるイタリア史

在韓国日本大使館ホームページ、放射線量掲載

原発事故からの復旧について、諸外国からまだ正確な理解を得られていない面もあります。
日本の放射線量についての韓国国民の理解が深まるよう、福島市、いわき市、東京、ソウルの放射線量を、在韓国日本大使館のホームページに載せることになりました。休館日等を除く毎日更新するそうです。もちろん、韓国語でも載せます。

ちなみに9月25日では、福島市0.133、いわき市0.062、東京0.036、ソウル0.119です。単位はμSv/h。
客観的な数字を知ってもらうことが、重要です。

国際政治史研究、冷戦後をどう見るか

東京財団政策研究所、「政治外交検証研究会レポート ―政治外交史研究を読み解く」、細谷 雄一教授の「国際政治史研究の動向」から。

・・・今回は「近年の通史にどのような傾向が見られるのか」という問題意識から、以下3冊を取り上げてお話したいと思います・・・この3冊の通史に共通することとして、ポスト冷戦時代についての記述の分量が非常に多いことが挙げられます。私が大学生のころは、基本的には20世紀まで、つまり冷戦史を中心に歴史を学んでいたと思いますが、今の大学生は21世紀に生まれ、20世紀を知りません。冷戦どころか90年代も知らない世代がいま大学生として国際政治を学んでいるわけです。

そのような学生の問題関心は、当然ながら平成とほぼ重なる冷戦後30年がどのような時代であったのかという点に向かっていきます。例えばモーリス・ヴァイス『戦後国際関係史』では、全体の半分が冷戦後の記述です。冷戦後すでに30年が経過しており、第二次世界大戦終結から冷戦終結までが40~45年ですから、「戦後+冷戦時代」と「冷戦後の時代」が徐々に同じ長さになってきており、当然といえば当然かもしれませんが、問題となるのは、この冷戦後の時代をどう位置付けるかということであり、恐らくそれが重要な意味を持つのだろうと思います・・・

・・・ポスト冷戦期は、ソ連という帝国が崩壊したことでアメリカ一極となりましたが、その後アメリカがイラク戦争、アフガニスタン戦争によって国力を浪費し、2008年のリーマン・ショック以降さらに世界から後退していくことによって、アメリカが超大国としてのリーダーシップを失い、一極が零極、無極となりました。つまり現在は無極の時代なのだろうと思います。無極の時代とは、覇権安定論の理論で言えば混乱の時代だと言えます。このような時代をみて、ヴァイスはポスト冷戦期の時代を「混迷の時代」と位置付けたのではないでしょうか。

では、具体的に何が問題なのか。これについて、ヴァイスは必ずしも同書で明確に主張しているわけではありません。ただし、フランス的な視野から言えば、望ましい国際秩序とは多極である、つまり「ヨーロッパ協調(Concert of Europe)」なのです。
5大国によって勢力均衡と協調が図られた19世紀のウィーン体制は、このヨーロッパ協調の理想的なイメージであり、このイメージを基に、第一次世界大戦および第二次世界大戦の戦後処理が進められ、さらにはこれが国連安保理における常任理事国、いわゆる「P5」として帰結します。結局のところ国連P5の大国間協調による安定は、実現しませんでした・・・

・・・ポスト冷戦期の時代に対する3冊の描き方の相違を以上にみましたが、つづいてこの3冊の本に共通するもう一つの特徴についても触れたいと思います。それは、「西洋中心主義の相対化の模索」です。
ここで「模索」と言いましたのは、ヴァイス先生にしても、あるいは板橋さんや有賀先生にしても、そもそもアカデミックなトレーニングとしては、やはり欧米中心の国際政治史をこれまで学んできたのだろうと思います。それをいわば「接ぎ木」のように、力技で他の地域も加えていく。現代の国際政治を論じるためには、構造自体の見方を変えなければいけないので、やはり非常に難しいところがあると思うのです・・・

財務省研修所で講演

今日9月24日は、財務省研修所に呼ばれて、上級管理セミナーで講演をしてきました。100人の本省と地方機関の管理職が、聞いてくださいました。
主催者からの要求は、「管理職は日々、職場管理で苦労をしている。サバイバルという観点から話して欲しい」でした。
で、表題を「管理職のサバイバル術ー地雷原を進む」としました。なかなか刺激的な表題です。

管理職になると、仕事を進めるという前向きな話とともに、組織に起きる嫌な仕事の対応もあります。後者は、体系だって教えてもらうことがありませんが、今や必須科目になりました。かつては、「不祥事は起こさない。起こさないようにしましょう」と教えました。しかし、起きることを前提にしなければならない時代になりました。
その事情と、具体例として、苦情対応と不祥事のお詫びについて、私の経験を話してきました。
自分で言うのも変ですが、40年間の公務員生活で、いろんな「えらい目」にあい、いろんなお詫びをしてきました。霞が関でも、有数の経験者だと自負しています。多くの案件はマスコミにも載り、秘密ではないので、話すことができます。記録にとって欲しくない内容も、話してきました。参考「お詫びのしかた

そのような経験はない方が良いのですが、そうもいきません。自分は地雷を踏まなくても、部下が踏んでしまうのです。
その時に、私の話を思い出して、「全勝さんに比べれば、たいしたことないなあ」と、冷静に対応してもらえれば、私の講演は成功です。

拙著『明るい公務員講座 管理職のオキテ』は、主に新任管理職向けの教科書です。連載「明るい公務員講座 中級編」には、『管理職のオキテ』に載せていない、より上級部分があります。いずれ、「明るい公務員講座」第4弾として、本にする予定です。

君は間違っていない、しかし

今日の夕方、赤坂見附駅から丸ノ内線に乗ってきた君。30代だろうか。蒸し暑い今日も、スーツをぴしっと決めて、いかにも仕事ができそうな姿だったね。
2人分の席が空いていて、君はスマホを見ながら、その一つの席に足早に座った。両耳にはイヤホンがあった。

君は気づかなかっただろうけど、隣の扉から乗った2人の高齢のご婦人が「あそこが空いているわ」と言って、その席に向かって歩いてきていた。ご婦人方は歩みがのろいので、あなたはサッサと座った。君はそれに気づかなかった。君は、スマホに夢中だったから。君は、間違ったことはしていない。
それを見ていた別の席の方が立ち上がって、2人のご婦人に席を譲った。そう、君はそれにも気づいていない。君は、スマホに熱中していたんだから。君は間違っていない。
そして、四谷三丁目駅で、颯爽とビジネスバックをもって降りていった。私は、少し離れたところから、それを見ていた。

君は間違ったことはしていない。しかし、もしぼくの部下だったら、「周囲に目配り、気配りすることも、出世するために必要な資質だよ」と教えただろう。
参考「公衆の場でのスマホ操作、両耳イヤホン