歴史の見方

J・H・エリオット著『歴史ができるまで』(邦訳2017年、岩波書店)が、勉強になりました。著者はイギリスの歴史家で、スペイン近世史が専門です。17世紀のスペイン帝国の没落を研究してこられたようです。

イギリスの学生であった著者が、スペイン近世を研究始めます。スペイン本国でも、凋落時代のことは、研究が進んでいませんでした。また、フランコ独裁政権時代でもあり、スペインの研究者も取り組まないテーマでした。
探していた資料は燃えてなくなっていたことが分かったり、残った資料を探して苦労を重ねます。みんなが取り組んでいないことに取り組む。
そしてその過程で、勃興してくるフランスとの対比、新大陸を含めた大国間の関係という「視角」を定めます。一国の歴史が、国内だけでなく、関係国との関係の中で位置づけられます。「トランスナショナル・ヒストリー」「比較史」です。

そしてその象徴として、ルイ13世のフランスを支えたリシュリュー枢機卿と、フェリーペ4世のスペインを支えたオリバーレス公伯爵とを対比します。その成果は、『リシュリューとオリバーレス―17世紀ヨーロッパの抗争』(邦訳1988年、岩波書店)です。中古本を見つけて、これも読みました。
二人が、それぞれの主君に信頼を得ることに苦労すること、宮廷内での抗争、足を引っ張る国内情勢・・。双方とも、国力の増進、国王の権力確立を目指し、また隣国との争いやそのための改革に取り組みますが、思うように進みません。外交・戦争が、内政の延長にあることがよくわかります。しかし、いくつかの判断の間違いが、スペインの没落を進めます。
伝記という個人に焦点を当てることが、現代の歴史学では「時代遅れ」とされているようですが、何の何の。経済や社会の分析だけでは、歴史は作られない。指導者の判断や役割も大きな要素になることが分かります。

あわせて、著者の『スペイン帝国の興亡』(邦訳1982年、岩波書店)も中古本で手に入れました。が、これはまさに古本の状態になっていて、読むには時間がかかりそうです。

慶應義塾大学、地方自治論第9回目

今日は、慶応大学で地方自治論、第9回の講義でした。
最近は、授業の進め方が定着しました。学生はまず、準教科書に指定した本を読んでくる。授業では、ポイントと最近の動き、また教科書に書いていないことを解説する。事業の終わりに、学生が疑問などを提出する。翌週、私がその疑問に答える、です。
この方法は、学生の関心や疑問点が分かり、それについて解説することで、効果的な授業ができます。一つのテーマを、2週に分けて解説していることになります。

今日は、議会について解説しました。仕組みや役割などは、川崎市議会のホームページの資料を使って、説明しました。最近は、各市町村ともホームページが充実しているので、住民にわかりやすくなっています。そして、課題について話しました。議会は、住民の期待に応えているか。何をもって、それを評価するのか。
さらに、今話題になっている住民総会についてです。私は、小規模な町村議会は、平日の夕方や休日に開けば良いと考えています。また、町内会長などを活用できないかも。ヨーロッパでも、戦前日本でも、議員は名誉職でした。フルタイムで従事しなくても良いと思います。

学生諸君
私が見たヨーロッパの市町村議会については、次のページで見てください。2002年欧州探検記。イタリア・シエナ市、フランス、サン・タンニェス村、ドイツ、イッセブルグ市の議会についての聞き取り結果が載っています。もう15年も昔の話ですが。
ホームページの移植の不備で、イギリス、セント・オルバン市については、こちら(旧ホームページ)を見てください。こちらの方が、ページは整理されています。

社会起業家、RCFの活動

RCFメールマガジン2017年6月号を紹介します。地域おこしをはじめとする、地方が求めている人材の求人特集です。どのような地域が、どのような人材を求めているか。このメールマガジンをご覧ください。

RCFは、このページでも時々取り上げているように、藤沢烈さんが立ち上げた一般社団法人です。社会の課題を解決することを使命としています。
ホームページには、次のように書かれています。
・・・私たちRCFは「社会事業コーディネーター」という新しい職業集団です。
社会事業コーディネーターとは「社会の課題から、未来の価値をつくる」仕事。
地域の主体となる住民、県/市役所等の自治体、そして企業、NPOといったセクターを超えた多種多様なステークホルダーと協業することで、黒子として社会をリードしています・・・

簡単に言えば「地方での求人」です。しかし、これが難しいのです。どこにどのような仕事があって人を求めているのか。他方で、地域の役に立ちたいという人もいますが、それをつなぐ機能がなかったのです。東日本大震災を機に、被災地支援に向かう人を、被災地と結びつける事業ができました。このような役割に、期待しています。
佐藤淳さんのインタビューも、お読みください。

明るい公務員講座・中級編26

『地方行政』連載「明るい公務員講座・中級編」の第26回「職場管理の知識(4)働き方改革」が発行されました。連載第23回から、職場管理の知識をお話ししています。私が公務員になってから、特にこの20年間に、職場が大きく変化しました。法令遵守、公務員倫理、情報公開、個人情報保護、情報セキュリティ、リスク管理、男女共同参画、メンタルヘルス、セクハラとパワハラ防止などです。
そして今、ワーク・ライフ・バランス、働き方改革が迫られています。これは、私たちの職場と仕事の仕方を大きく変えることになると、私は考えています。今回は、それについて少し解説しました。
次回第27回からは節を改めて「組織を動かす」に入り、働き方改革については第29回からさらに詳しく解説する予定です。今回の内容は、次の通り。
日本社会の曲がり角、働き方改革は社会革命、日進月歩の職場環境、職員研修。

慶應義塾大学、公共政策論第9回目

今日は、慶応大学法学部、公共政策論第9回の授業でした。いよいよ、これまで話してきた各論を踏まえて、私が考える公共政策のあり方をお話ししました。

まず、公共政策が取り組むべき社会の課題は、「社会のリスク」という観点から見ると、科学技術の発展と個人のつながりの希薄化から、新しい課題が増えています。
また、近代国家が想定した「自立した市民」というイメージは、大企業や不正を働くものの前では力不足です。労働行政と消費者行政は、ここから始まりました。病気をしたり失業したり自立できない個人もいます。そのために、各種の公的保険ができました。19世紀と20世紀の行政の歴史は、このように「弱い市民」を発見し、それを助けることの歴史です。

他方で、それらの問題に対して、サービスを提供したり答えるのは、行政だけではなく、企業もNPOなどボランティアセクターもあります。公私二元論ではなく、官共私三元論です。
行政が直営していたサービスを、民間に委託したり民間に開放したりすると、政府は小さくなります。しかし、国民からすると同じサービスなら、問題ありません。国鉄の民営化を考えてください。すると、社会の課題解決という観点からは、「大きな政府・小さな政府」論は、的が外れています。
では、政府は小さくなれば良いのか。そうではありません。民間が提供するサービスが適切なものか、ルールを作り、監視をしなければなりません。また、民間に任せていては不足する部分を提供したり、民間が提供するように誘導したりする必要があります。すると規模の大小ではなく、引き受ける責任が「広い政府」になります。
そして、全体を見ると「福祉提供国家」は「安心保障国家」になるのです。