沼上幹『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために』(2003年、ちくま新書)に、組織が疲労した場合の一つとして「決断不足」が挙げられています。そして決断が不足すると、次のような徴候が現れると指摘されています。
第一は、製品開発プロジェクトなどで、フルライン・フルスペックの仕様書が多数出てくることである。コストは他社より低く、すべての性能に関して他社競合製品を上回るものを、他社よりも早く市場に導入せよ、というような要求が出てきたら要注意である。これは何も考えていないことの証である。問題は、時間や予算の制約があるから、すべての点で競争相手を上回ることは簡単にはできないというところにある。だから、一部については目をつむってもらうといった決断が必要なのである。
二つ目の徴候は、社内で多様な経営改革検討委員会が増えることである。もし本当に必要だと判断したのであれば、検討などさせずに即座に導入すればよい。各部署から人を出させて検討委員会を作るのは、経営者たちに思慮が欠けていて、決断できていないことを疑わせる。あるいは衆知を集めて民主的に経営している見かけを作りすぎなのかもしれない。
三つ目の徴候は、人材育成である。人材育成はどのような時にも必要だから、誰も批判しない。しかし問題は、現在直面している課題の解決には、人材育成が時間的に間に合わない、というところにある。
月別アーカイブ: 2011年5月
被災者支援の壁新聞
被災者の方に支援の情報をお届けするために、「壁新聞」を発行しています。主に避難所に貼ってもらっているのですが、郵便局やコンビニの協力を得て、被災地域の店舗の壁にも貼ってもらっています。もちろん、各市町村は、よりきめの細かい情報を、広報誌や壁新聞で伝えています。政府広報は制度一般を伝えることはできるのですが、「○日にどこそこで、無料相談会があります」といったお知らせはできないのです。
今回、これとは別に、壁新聞特別号を発行しました。これは、全国に散らばって避難された方の所在を確認するためです。急いで避難されたので、多くの方がどこにおられるか、不明です。今お住まいの市町村役場に届け出てもらうと、そこから元いた市町村役場につながるようにしました。そうしないと、健康診断や学校への入学、介護保険などのサービスが十分にできないのです。現在、約5万人の方が、届け出ています。この特別号は、そのような目的なので、全国の郵便局、コンビニ、スーパーの協力を得て、店頭で貼ってもらいます。
被災者支援ホームページの定例更新
今日は金曜日。被災者支援チームのホームページを、定例の更新をしてもらいました。
私たちの仕事の概要をまとめた資料。
現地の課題と私たちの取組(表にして分類したもの)。
借り上げた民間住宅への入居の数字など。
進捗状況をご確認下さい。
政府を信じない、でも信じていた
(政府を信じない、でも信じていた)
朝日新聞5月24日夕刊に、しりあがり寿さん(4コマ漫画、地球防衛家のヒトビトの作者)が、次のようなことを書いておられます。
・・その時、ボクは思いました。そうかボクたちはずいぶん大きな賭に負けたんだなあ・・絶対安全なんてこの世にないことはわかっちゃいるけど、危険を訴える人がいるのは知っていたけど、まさかあの原発がこんなことにはならない方に賭けていた。
政府や企業は都合の良いことしか言わないことはわかっていた。だけど多少のごまかしがあっても、自分たちの生活を脅かすほどのことはない方に賭けていた・・
日本の幹部教育の失敗。初中等教育への賞賛と、大学教育の凡庸さ
4月20日の日経新聞経済教室に、苅谷剛彦オックスフォード大学教授が、「学歴インフレ脱却急げ」を書いておられました。
今回の大震災と原発事故に際し、社会の土台や現場を支える一般ないし中堅の人たちの、整然とした助け合いと献身的な救助活動と事故処理に比べ、指導力を発揮し責任を負うべき「幹部」たち(政治家、官僚、電力会社のトップ)の対応に疑問符がつけられたこと。予想を超えた緊急事態とはいえ、いや、まさにそういうときだからこそ、指導的立場にある人々の「底」が見えたことを指摘し、これは日本の教育の国際的な評価、すなわち初中等教育への賞賛と、大学教育の凡庸さという見方とも符合すると主張されます。そして、次のように述べておられます。
・・1998年以後、新卒就職者に占める4年制大学卒業者の割合が高卒者を抜き、学校を終え仕事に就く若者の主流が大卒者になった。ところが、大卒者の就職の仕組みは、実質的にはいまだに「大学教育無用論」と呼べる状態が続いている。大卒者の大半を占める文系就職の場合、大学で何を学んだかが就職の際に問われない。どの学部を出たのかもどんな成績を取ったかもである。他方で、大企業や有名企業への就職のチャンスは、実態としては今でも大学の偏差値ランクの影響を受ける。
こういう状態が続いてきたのには理由がある。90年代半ばまでは、長期雇用と長時間労働を前提とした、仕事に就いてからの職業訓練の仕組みが、良くも悪くも機能した・・
・・他の先進国で学歴インフレという場合、ある企業に就くために有利となる学歴が、学部卒から大学院修了と変化するように、より高い段階への学歴へのシフトを意味する。知識経済化の下では、教育年数といった量の増加だけではなく、そこで行われる教育内容の高度化の面からも、人的資本の向上が求められる。高学歴化の一層の進展はその反映といわれる。
それに対し、日本で生じている学歴インフレは(理工系を除き)、大学入学時の偏差値ランクの上昇による選抜基準の上方シフトという、ふるい分けの面での変化であり、教育内容の高度化や教育年数の増加を伴わない・・
・・様々な比較調査が示すように、国際的にみても日本の大学生は大学外での学習時間が相当に短い。授業に予習が課されることもほとんどない。それは選抜度の高い大学でも変わりない。たくさんの文献を読みこなし、自分の考えを論理的に表現することが求められるリポートを書き、議論の仕方を身につけ、良い成績を収めてされに大学院で専門教育を受けるー米国の有力大学や筆者が勤務する大学では当たり前に行われていることに比べると、日本の大学はアルバイトと就職活動のための期間に見えてしまう・・
詳しくは、原文をお読み下さい。