続上司の仕事:新しい価値の創造

上司の仕事として、戦略を立てることを説明しています。今日は、少し違う角度から説明しましょう。それは、仕事の「効率化」と、新しい「価値の創造」とは別だということです。
民間企業を例にすると、わかりやすいでしょう。効率化は、現在与えられた仕事と組織を前提にして、どうしたら「少ない労力」で「良い結果」を出すことができるかです。民間企業で「コストカッター」と呼ばれる人が、象徴です。
行政組織の効率化も、ここに入ります。やっている仕事をより少ない人数と予算で行うこと、さらには、時代遅れになった仕事をやめることです。民間企業と比べ、官庁の場合は、売り上げ・利益・他社との競争がないため、効率化は進まないことが多いです。組織にとっても、上司にとっても、効率化のインセンティブが働かないのです。予算や定数を増やした方が、高く評価されることすらあります。

官庁の管理職にとって、効率化は重要な任務です。しかし、それだけでは、管理職として不十分です。
企業の場合、新しい製品や新しいサービスを提供しないと、企業は生き残れません。コストカッターだけでは、企業は成功しないのです。
官庁の場合、任務は法律で決まり、内閣や大臣から与えられます。しかし、官僚は与えられた仕事を執行するだけが、任務ではありません。環境の変化を読み、新しい課題にどう対応するかを、考える必要があります。
社会の環境は、どんどん変わっていきます。公務員が担っている仕事の重要性は変わらなくても、新しいより重要な課題が出てくると、その仕事の相対的重要性は低くなります。
各課長はそれぞれの仕事を、「世の中で最も重要な仕事」と考えて、取り組んでいます。それは、尊重しましょう。しかし、局の任務が変化している時、従来通りの仕事をしていては、国民の期待に応えることはできません。これまでにない課題を発見し、部下に指示する。これも、上司の重要な役割です。
その際に、予算や人員には限りがあるのですから、古い仕事で優先順位の下がったものは、切り捨てる必要があります。課長が自分で、自分の仕事を切り捨てることは、できません。上司が、指示をする必要があるのです。

物の本

中野三敏「和本には身分がある」(「図書」2008年8月号)に、和本の中に上下があったことが書かれています。手書きの写本が上で、出版物の板本が下です。板本の中にはさらに身分があって、「物の本」「草紙」「地本」の区別があります。物の本は、仏典・漢籍・古典です。草紙は、娯楽的な通俗読み物です。地本はその中でも、京都に比べ文化的後進地である江戸で出版されたものだそうです。
ふーんと、納得しながら、ふだん使う「物の本に書いてある」という表現が、ここから来ていることを知りました。「ものの」という修飾語が何だろうと思っていたのです。広辞苑を引くと、「・・草紙に対して然るべきことの書いてある本。学問的な本・・」と書いてありました。

政治と経済学者

8月6日付け日経新聞、経済教室60周年座談会から。
大竹文雄教授:日本の経済論壇の現状についていえば、まだまだ経済学に基づかない感情論が多いかも知れない。しかし、方向性としては少し前よりは良くなったと思う。やはり経済財政諮問会議の影響は大きかった。経済学者が閣僚になったり、日銀の政策委員会のメンバーに入ったりしている。そうしたところからの発言は経済学に基づいており、それを理解しないと物事が進まなくなってきている。
岩本康志教授:経済学者がトップレベルの意思決定に関与して官僚機構と戦うのは、緊急避難的な改革としてはありうると思うが、持続可能なシステムかどうか。政策担当者が経済学的な考え方をしっかり持ち、草の根で正しい意思決定がなされる形にすることこそ、本筋ではないか・・

政治とは過程

(政治とは過程)
6日の読売新聞「地球を読む」は、佐々木毅教授の「日本外交の課題、対北戦略練り直しを」でした。
「北朝鮮のミサイル発射をめぐる目まぐるしい安保理での外交交渉は、外交についての素晴らしい教材を日本国民に提供してくれた。特に、日本政府の主張がどのような形で取引され、変形され、一定の結果につながるかを如実に実感させられたことに加え、日本だけでなく、どの国の外交力にも可能性と同時に限界があることがはっきりした」
「アメリカにも中国にもできないことがある。その中で各国政府がどのような位置取りを選択するか、目まぐるしい役割交代をどうこなすかに「可能性の術」としての外交の要諦があるが、日本外交はほとんど一つの役割しか果たせなかったこともまた事実である」
「当初の日米案が中国とロシアの反対によって修正を余儀なくされたにせよ、安保理全会一致の北朝鮮非難決議が成立したことの意味は大きい。今や中露も、そして韓国も従来以上に北朝鮮政策の見直しを迫られざるを得なくなった・・・」
(日本の外交デビュー)
「日本の外交論議は長い間憲法解釈論議と混線し、外交は外務官僚を中心とした極めて一部の人間だけが関与してきた(政治家の関心の低い)政策領域であった。ところが小泉政権の下で事態は変わった。「小さな政府」の名の下に利益配分型政治が抵抗勢力と名指しされ、昔日の存在感を失うとともに、外交問題が政治家にとって新たなリソースとして浮上してきたからである・・・」(8月7日)
8日から朝日新聞は、連載「小泉時代とこれから」を始めました。「5年間の小泉政治は日本をどう変え、次の政権にどんな課題を残したのか」。第1回目は、佐々木毅教授の政治と政党です。
「結局、再生したのは民間セクター、今までは民間が困っていたらすぐに手を差し伸べて助けた。それをしないことで、民間セクターの体質改善、強化を促した。これに対し、政府のあり方については規模を小さくする議論はあるが、どう変えるかがない。とりあえず小さくするというだけ。郵政や道路公団の改革には手を付けても、政府本体の構造改革は行われていない」
「言い換えれば、政府の競争力が上がっていない、ということだ。そういう意識が政権にあるのかも疑わしい。ただ小さくするというだけで、競争力に関するアイデアは見あたらない」
「グローバリズム化が進むのに任せるだけでは、国民の支持は得られない。グローバル化を進めるだけでいいのなら、政府は何のために存在するんだ、という問題が出てくる。政府としては『存在する意味があるんだ』ということをいわなきゃいけなくなる」
「5年間で政治家の質は向上したのか、とうことがある。問題は極めて深刻で、政党の責任は重い。新しい人たちが登場することは結構だが、どこでどういうトレーニングを受け、どういう基準で選ばれて議員や閣僚などになるのか、甚だ心もとない状態だ」(8月8日)

 

続上司の仕事:状況対応型と予測準備型・戦略実行型

昨日に続き、上司の仕事(戦略を立てること)を、書きます。
問題が起きたり指摘を受けてから、考えて対応するのが、「状況対応型」です。受け身の姿勢、待ちの姿勢です。追い込まれてから、あわてて動きます。しばしば、その場しのぎの対応になります。「状況対応型」などと、きれいな名前をつけましたが、簡単に言うと、「な~んも考えていない上司」「出たとこ勝負の組織」です。
これと反対なのが、「予測準備型」です。事前に、これからどのようなことが起きるか、どのように行動すると良いかを予測し、対応方針を決めておきます。達成するべき目標に向かって準備する場合は、「戦略実行型」になります。
予測準備型と戦略実行型において、上司の能力が問われます。どのような事態を予測するか、どのような目標を立てるかは、上司の責任です。これは、部下に任すことはできないのです。

さて、各課の目標による管理は、多くの場合、毎年の定例業務であり、すでに方針の決まった仕事です。これは、部下の行動を管理しておればすみます。ボトム・アップで、定期的に報告を求めればよいのです。
予測準備と戦略実行は、上司が考え、部下に指示を出す必要があります。これは、トップ・ダウンで行う必要があります。
なお、想定問答を用意することは、形式的には「予測準備型」に分類されます。しかし、必ずしもそうとは言えません。結論が「できません」というような想定問答は、意味をなしません。また、答えにくい問いを作っていない場合も、無意味です。さらに、360度にわたって、考え得る限りの想定をして答を作らせると、部下が過労死します。
予測準備型でも、的確な予測を立て、無駄な作業をさせずに目標を達成するのが、良い上司です。起こりそうにもないケースまで考え、部下に「完璧な」準備をさせるのが、悪い上司です。
打球が右寄りに来ることを予測して構え、なんなくさばくのが、良い野手。予測してなくて飛びつくのが、次によい野手。な~んにも考えずに構え、球が飛んできてから、あわてて球をそらすのが下手な野手。