リン・ハント著『なぜ歴史を学ぶのか』

リン・ハント著『なぜ歴史を学ぶのか』(2019年、岩波書店)が勉強になりました。「E・H・カーの『歴史とは何か』の21世紀版」という書評もあるようです。

どちらの本も「歴史」と題にありますが、「歴史学とは何か」という本です。
かつて(19世紀から20世紀前半)、事実を探求すれば歴史がわかるとされていた実証主義に対し、カーは「歴史とは現在と過去との対話である」と喝破し、見る人の時代や立場によって、歴史の解釈が違ってくることを主張しました。

ハントはさらに進めて、立場の違いが解釈の対立を生んでいることを指摘します。戦争や虐殺による事実が、加害者(の子孫や国)と被害者(の子孫や国)との間で論争を引き起こしています。教科書の書きぶりであったり、「英雄」の記念碑の扱いです。被害者(の子孫や国)は、加害者の非道ぶりを国際社会で訴え続けます。アジアにおける日本もまた、例外ではありません。

また、これまで「歴史の事実」とされていたものが、ヨーロッパ人による、ヨーロッパ中心の歴史観であったことを、してきします。これらは、ハントが初めて主張したのではなく、ここ数十年の社会の実態であり、歴史学の進歩によるものです。この項続く。

参照「歴史学は面白い」「歴史は書き換えられるもの」「覇権国家イギリスを作った仕組み、7」「日経新聞夕刊コラム第16回 未来との対話