(評価・項目別)
三位一体改革の政府与党合意が決まったようです。まずは、結果がまとまったことを喜びましょう。地方団体の評価を待ちたいと思いますが、取り急ぎ、昨日書いた評価基準で簡単に見てみましょう。
結論が出て、目標金額を達成し、3兆円税源移譲できることになったことは、○。
地方団体が拒否していた生活保護国庫負担金が対象とならなかったことは、○。ただし、児童手当などが負担率引き下げとなったことは、×。
義務教育国庫負担金が8,500億円一般財源化されたことは、○。ただし、中学分の全額でなく小中分の負担率引き下げなので、それについては、×。
国債対象である施設費補助金が、一般財源化対象になったことは、○。もっとも、税源移譲が半額であることは、△としましょう。
全体像を見て、地方の自由度が高まったかについては、×に近い△でしょうか。第2期への見通しは、よくわからないので、△。
政治主導については、官房長官裁定が出たことは○ですが、ここまでもつれたこと、地方に案を作らせながらそれを採用しなかったことを考えると、△ですかね。(11月30日)
(評価・その全体像について)
今回決まった三位一体改革の項目別の評価は、前回(11月30日)書いておきました。新聞などの評価も、ほぼ同じだったと思います。「では、全体としてどう評価するのか」というお尋ねが、記者さんたちからありました。私の考えは、次のようなものです。
1 短期的には
この3年間(三位一体改革を進めた期間)でみると、高い評価ではない。新聞が書いているように、数値目標は達成したが、分権の目的である地方の自由度が高まったとはいえないので。
2 長期的には
かけ声だけで進まなかった「補助金廃止・税源移譲」が3兆円も実現することは、画期的なこと。大きな前進。
3 大きな歴史の中では
今回の三位一体改革の評価は、今回だけでは定まらない。すなわち、今後引き続き補助金廃止・税源移譲が進めば、今回はその突破口として大きな評価がされるであろう。しかし、これだけでとどまるなら、分権の歴史の中では良い評価にはならないだろう。(12月11日、パソコンが復旧したので今頃書いています。)
(昨日までの三位一体:パソコン故障で載せることができなかったものを、記録のために書いておきます。日々のニュースは割愛し、解説や主張などを中心に紹介します。)
(12月1日の各紙社説)
共通した部分が多いので、それは省略します。
朝日新聞は「公約は果たしたけれど」として、「初めて3兆円という大規模な税源移譲が実現する。全国知事会の麻生渡会長が『画期的だ』と語るのも、あながち誇張ではない」
「しかし、内実は苦しい数字合わせに終始した。そもそも何をめざす改革だったのか。こんな疑問がどうしても膨らむ・・・。単純化して言えば、自治体側は地方分権を、霞が関は財政再建と権限温存を考えていた。この食い違いを乗り越えるには、国と地方がそれぞれ担うべき役割を整理し、時代の変化に応じて分担のあり方を見直す構造改革が必要だった」。
この社説の指摘の通りですが、その構造改革議論は簡単には進みません。改革を拒む勢力が権力側にいるのですから。何度か指摘したように、三位一体改革の進行過程そのものが、政治改革なのです。
毎日新聞は「小泉政権後に不安残すな」で、「国の『下請け』に甘んじてきた地方が一連の改革をリードし、政府の政策決定のあり方にも変化をもたらした点は評価すべきだろう。しかし中身をみると『地方にできることは地方に』という原点は忘れ去られ、数字あわせに終始したのが実態である」
「制度に踏み込めなかったことに加えて気がかりな点がある。曲がりなりにも今度の改革が進んだのは、『改革派知事』が各地で誕生し、全国知事会の発言力が増しただけでなく、これが小泉純一郎首相の志向と合致した事情も大きい。果たして、『小泉後』もこの流れが続くのか。今回の交渉過程を見ても、各省庁の抵抗は極めて激しく、担当閣僚も従来通り省庁の代弁者に過ぎなかった。地方側は07年度からの3年間を第2期改革と位置づけて、さらなる補助金廃止と税源移譲を求めることにしているが、こうした姿を見ていると、『小泉後』がはなはだ不安になるのだ。政府と地方が協議する場を制度として明確にするなど、後戻りをさせない仕組み作りも必要だ」
これも、指摘の通りです。後段の「第2期」については、そのほかの新聞も主張していました。
日本経済新聞は「第2期の三位一体改革に踏み出せ」で、「国から地方への補助負担金は約20兆円もある。これほど巨額の補助負担金を使って、地方に口出ししている国はない。4兆円削減の第1期改革では、各省はこの体制を実質的に存続させる形で逃げ切った。これでは構造改革の名に値しない。政府・与党合意は今後の改革についてはややあいまいだが、本筋に戻した第2期改革に踏み出すべきだ」。
産経新聞は「これで終わってはならぬ」として、「三位一体改革の目的は、国と地方の役割分担を明確にし、財源を効率的に使うことで財政を再建することだ。それには継続的な改革が必要となる。地方分権の確立のためにも、今回の決着で終わりにしてはいけない」。
読売新聞は「国と地方、痛み分けの税源移譲」で、「地方側の言い分も盛り込まれたが、補助金削減では国の関与が残るケースが目立ち、双方、痛み分けの決着、と言うことも出来よう」と述べていました。
確かにそういえるのですが、国の関与が残るのでは分権にはならないのです。やや切れ味の悪い主張ですね。
(残る課題:交付税)
三位一体のうち補助金廃止と税源移譲が決まったので、残る課題は地方交付税であると、新聞は報道しています。もっとも、論点は平成18年度の地方交付税総額がどうなるか=いくら削減されるかになっています(12月1日付け朝日新聞、12月6日付け日経新聞など)。財務省がもっぱら国の財政再建=国の歳出削減の観点から、交付税総額の大幅な削減を主張しているという構図です。
このHPでも何度か解説しましたが、交付税総額は、毎年度の地方財政計画の歳出額と歳入額を積み上げ、その不足分を計算することで決定されます。そして、歳出の多くは、国が基準を決めています。収入の大きな部分である地方税は、その標準が国で決まります。国庫補助金は、国が総額を決めます。地方債は、公共事業などの額が決まれば、ほぼ自動的に決まります。そしてこれを比較して、足らない部分を交付税などで埋めています。国税の一定割合である地方交付税額(実力)で埋まれば問題はないのですが、近年は大幅に足らないので、国から特例の加算をしてもらい、地方も赤字地方債を出しています。
この特例を減らしたいのは、関係者みんなの思いですが、そのためには、地方税収が増えること、あるいは歳出総額が減ることが必要なのです。(12月12日)