カテゴリー別アーカイブ: 行政

行政

首相のリーダーシップと評価

イギリスのブレア首相が、退陣を表明しました。各紙は、ブレア首相の10年間の功績と失政を、評価しています。11日の日経新聞は、「ブレア政権で英国はこう変わった」という表を、載せていました。
失業率は、6.5%から5.5%へ低下。一人当たりGDPは、16,000ポンドから19,000ポンドへ上昇。政府債務のGDP比は、44%から36%へ低下。もっとも、インフレ率は上昇、住宅価格も高騰しています。
生徒一人当たり教育費は、年間3,050ポンドから4,730ポンドへ引き上げ。これについては、ブレア首相は、「イギリスには3つの課題がある。1に教育、2に教育、3に教育だ」という名言を吐きました。公的医療予算は、340億ポンドから940億ポンドへ膨張。移民の受け入れは、年間32万人から56万人へ拡大しています。
10年間首相の座にあり、強いリーダーシップを発揮すると、その間に多くのことができます。また、数字で評価することができます。もちろん、その間の失敗や不十分な点も含めて。

国の魅力競争

5月9日の日経新聞「東京市場競争力強化への提言」で、ポール・クオ国際銀行協会(在日の外資系金融機関の団体)会長が、次のようなことを発言しておられます。
・・魅力ある金融センターの条件として、市場関係者がこれまで一番重要と考えてきたのは、優秀な人材がいるかどうかだった。ところがシティーが実施した調査によると、最近は規制環境が最重要視されるようになっている。
規制環境で重視されるのは、行政の予見可能性だ。こういうことをすれば、当局の見解・反応はこうなると予測できることが望ましい。市場参加者が、萎縮せずに活動に参加できるようになるからだ。日本も規制・監督体制が、国際的に見て最良の実践体制だと、広く認識されることを目指すべきだ。
行政の予見可能性を高めるためには、民間との連携を強化することだ。新商品が相次ぎ登場するなど市場は常に変化しているが、今の行政はこれを後追いする形になっている。当局が様々なレベルで民間人を積極登用すれば、最先端の金融ノウハウを吸収することができ、変化に対して迅速かつ前向きに対応できるようになる。
イギリス金融サービス機構が採用している規制・監督手法を取り入れることも、一案だ。細かく定めたルール以外に、かくあるべきだという基本原則を設ける手法だ。速いピッチで進化を遂げる商品などには、現実問題としてルールが追いつかない場合もある。ルールが整うまでは、基本原則に沿って判断するという姿勢を示せば、市場関係者にも考え方が伝わり、予見可能性は高まる・・

憲法・現実と一致しない理想

5月1日の東京新聞夕刊「憲法とどう向き合うか」、長谷部恭男教授の「現実と一致しない理想、大原則のみ示す条文」から。
・・改正すべきだとよくいわれるのは、憲法9条、とくに「戦力を保持しない」とする2項である。自衛隊があるにもかかわらず、こんな条文を持っているのでは、条文と現実とが乖離していることになる。法を尊重するという精神を保つためにも、9条を改正すべきだというわけである。
・・憲法の条文と現実が乖離しているのは、9条に限ったことだろうか。21条は「一切の表現の自由」を保障するというが、わいせつ文書や名誉毀損、児童ポルノなど、自由に表現できないことは多い。これも「ただし、わいせつ文書や名誉毀損、児童ポルノなどは別である」と修正しなければ、条文と現実が乖離していることになるのであろうか。
普通そう考えられていないのは、こうした条文は何が大事か(表現の自由は大事だ)という原則を示しているにとどまるのだから、杓子定規に理解するのはおかしいからである。表現は一切自由なのだから、どんな表現も規制できないといのは非現実的である。それでは社会生活は成り立たない。
同様に、自営のための実力を備えないで国民の生命・財産を守ろうというのは非現実的なのだから、9条がいっているのも、過剰な軍備は戦争の引き金になりかねないし、コストも高くつくので、なるべく持たない方がよいという大原則を示すにとどまると理解するのが常識的である。非武装でも安全を維持できるというのは真摯な信仰ではあっても、信仰をともにしない人も納得できる理屈ではない。特定の信仰を人に押しつけるのは、控えるべきであろう・・

格差問題と目指す社会

4月28日朝日新聞異見新言、市野川容孝准教授「格差問題、制度的不平等の是正こそ」から。
・・格差是正ということが、日本の政治でも言われるようになった。新自由主義の批判もなされている。しかし、そこでは批判や是正の対象が否定的に発見されているだけで、それらに代えて目指すべき理念を肯定的に表現する言葉が欠けている。出発点は見えていても、目的地にははっきりした名前がないのだ。
その名前の一つとして、私たちは「社会的」という言葉を、改めて吟味しなおすべきではなかろうか。
・・ルソーの言うように、確かに自然は人間を不平等にする。男に生まれる人もいれば、女に生まれる人もいる。障害をもって生まれる人もいれば、そうでない人もいる。これらの不平等や差異はみな、本人の努力の結果そうなったものではなく、だから、その人個人の力ではどうにもできない部分が大きい。そうした差異を超えて、あえて人々を平等にする約束のことを、ルソーは「社会的」な契約と呼んだが、その契約の一項目には、人種差別や障害者差別の撤廃が入るはずだ。しかし、個人の努力ではどうにもならない不平等は、自然だけが生み出すわけではない。親の経済力による子どもが受けられる教育の差、地域の医療サービスの差・・。
ルソーの言った「社会的」な契約は、自然が生み出す不平等のみならず、それと同じように個人の力では何ともしがたい、このような制度的不平等の是正をも求めるものだと私は思う・・

消費者保護

22日の朝日新聞「補助線」は、山田厚史さんの「金融商品取引法。消費者保護、だれの仕事」でした。
・・生命保険が、組織を挙げて「不払い」に取り組んでいた。「消費者も勉強しなけりゃ」といわれるが、強引な勧誘や無知につけ込む商売を監視し罰するルールを作るのが政府の仕事だ。
金融商品取引法が、9月から施行されるが、この新法に保険や預金、融資など金融の中核商品は一部の高リスク商品を除いてほとんど含まれていない・・
80年代、英国で起きたビッグバンは自由化で顧客が食い物にされない厳しいルールを業者に課した。1986年の金融サービス法である・・・遅ればせながら日本でも、2004年、「金融商品全体を包括するルール作り」が金融審議会の方針となり、日本版金融サービス法への期待が膨らんだ。ところが、1年余りの議論で包括ルールの看板は消えた。
「専門委員として加わった保険や銀行界の人らが慎重論を主張し、まとまらなかった」と原早苗委員はいう。商品先物も対象になったが、金属や農産品を所轄する経産省や農水省が抵抗した。業界や役所を交えての調整には、限度がある。政治家が高い視点から判断すべき課題だが、「党の壁も厚かった」と関係者はいう。自民党には業界・役所を代弁する族議員は大勢いるが、消費者を代弁する実力者はいなかった・・・