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行政-行政機構

組織能力

平野雅章『IT投資で伸びる会社、沈む会社』(2007年、日本経済新聞社)が面白く、勉強になりました。先生の主張は先日、日経新聞経済教室を紹介しました。その元となっているのが、この本です。
IT投資で成果を出すにはどうしたらいいかが、この本のテーマです。組織能力のない会社がIT投資をしても、成果が上がらないことを実証しておられます。能力のない会社が最先端の生産設備を入れても、使いこなせないのと同じ、という説明には納得します。IT投資をすれば組織能力が上がるという考えも、間違いだそうです。素人がスーパーカーを運転すると事故を起こすのと同じです。
「手続きを変えることなくIT化してもダメ」と、はっきり書いてあります。行政機構でのIT化の失敗を観た私としては、もう少し早くこの本を読んでおればと、思いました。もっとも、失敗しているから、この本を読んで納得したのですが。
もう一つは、職員の能力と組織の能力は別であり、いくら職員研修をしても組織の能力は上がらないという指摘です。相撲の団体戦は各選手の力を強化すれば勝てますが、サッカーは各選手の連携を強化しないと強くなれないのです。私は、組織能力は、漠然と組織の伝統だと思っていました。でも、この本に指摘してあるように、まだできて新しい会社でも組織の能力が高いか低いかがあるのですから、「伝統」と片付けるのは間違いですね。
その他、組織の管理者として、納得することが多かったです。すごく、触発されました。

金融庁の10年・行政のあり方の変化

金融庁の前身である金融監督庁が発足してから10年になるので、各紙が金融庁の業績を取り上げています。20日の朝日新聞は、「こわもて金融庁、転機」で大きく取り扱っています。
当初は不良債権処理に腕をふるい、20以上あった大手銀行は6グループに集約されました。日本の行政のあり方としても、それ以前の護送船団行政からの大転換の代表例でした。もちろん、日本経済と国際金融市場の大変化が、その背景にあります。
次にその延長として、銀行保護から預金者・投資家保護に重点を移しました。これもまた、日本の行政のあり方の大転換の現れです。この流れは、現在進められている消費者庁構想に続きます。この観点からは、今の金融庁は、金融機関(業界)育成と消費者保護という、相反する行政を行っています。
この間、国家公務員総定数は削減されていますが、金融庁の定数は400人から1,200人へと3倍になっています。極めて珍しい例です。機動的に定員を配置したのです。また、事前調整型行政では公務員は少なくてすみますが、事後チェック型になると検査員が大幅に必要になることがあるのです。

メンバーの能力と組織の能力

19日の日経新聞経済教室は平野雅章教授の「企業の人的投資、組織の能力が成果を左右」でした。教授の主張は原文を読んでいただくとして、私が納得したのは、次のような部分です。
「組織の優秀性は、組織メンバーの能力とは別物である。何となれば、メンバーが入れ替わっても、組織の能力は変わらないから。組織の能力は、メンバーの資質と組織の優秀さによる。」
この主張には、目から鱗が落ちるですね。いくら優秀な職員をそろえても、あるいは育てても、組織の能力が変わらないことは、多くの管理者が経験済みです。
私の研究フィールドでは、官僚機構の問題が、一部これに該当します。優秀な職員をそろえながら、官僚機構のアウトプットは上がらない。それは、組織に問題があるのです。
民間でも、過去に効果的だった仕組みと人が、新しい環境では機能不全になることがあります。しかし、過去の伝統で育った管理職は、それを変えようとしません。メンバーも、時代遅れの組織原理に染まっています。ここに、メンバーと組織の伝統・エトスは同調します。
このページで書いた「組織のガバナンス」「民間ベストプラクティス」などが、改革への道しるべだと、私は考えています。これについては、別途、議論をまとめようと考えています。

その7 目標による管理

民間ベストプラクティスで、官庁組織でも、目標による管理を試みることになりました。先日、県庁の方とお話ししていたら、二つの県でうまくやっておられることを聞きました。
部長が各課長と、年度初めだけでなく、年に何度か、仕事の目標と達成具合を確認しているのだそうです。両部長曰く「やってみると、部下との間でいかに認識が違うか、よくわかりました。部下は何でもないことを悩み、私の意向を測りかねていたんですね」とのこと。ポイントは、定期的に部下との間で、目標と達成度を確認をしあうことのようです。
私も、県の総務部長の時、各課長に年度の主要事業計画表を作ってもらい、お互いに確認しあっていました。「明るい係長講座」中級編p12。
それを、制度化したということですね。簡単なことですが、重要なことです。あまり難しい仕組みは導入しても、定着しませんよね。簡単・イズ・ベストです。
次に課題になるのは、そこに挙げた項目が適切かどうかです。さらに、この結果を、評価に結びつけることです。それには、列記した項目に、ウエイト付けをする必要があります。
さらに進んだ方法で、かつ、うまくやっておられる県や市町村もあると思います。具体的にお教えいただければ、幸いです。

その6 企画への民の参入

行政サービスについて、官と民との垣根が低くなったことを述べました。さらに、実施部門だけでなく、企画についても垣根は低くなっています。企画部門も、官が独占しません。民間のアイデアが良ければ、それを採用すればよいのです。
これまでは、官僚が事実上、政策立案を独占していました。もちろん、審議会などで、民間の知見も吸い上げました。研究者、マスコミ、議員、圧力団体からも、アイデアは提供されました。しかしその場合でも、官僚が取捨選択しました。アイデアを法律や予算にする作業を官僚が担っているので、官僚に都合の悪いアイデアは、法律や予算にならないのです。また、各省協議があるので、一つでも反対する省があると、成案にならないのです。
これからは、官僚による政策の独占が、崩れると思います。その例が、経済財政諮問会議です。民間のアイデアが官僚の頭越しに議論され、実行に移されています。すなわち、民間議員ペーパーが、各省協議なしに提出されます。そして、総理の前で議論されます。もちろん、法案にするためには閣議決定が必要ですが、総理がいったん決めたことを、各大臣が反対することは困難です。