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行政-行政機構

行政の役割と手法の変化、企業の育成から企業統治へ

日経新聞経済教室8月8日、ニコラス・ベネシュ会社役員育成機構代表理事の「企業統治改革、独立役員3分の1以上に」から。氏の主張は原文を読んでいただくとして、私が官庁論から注目したのは、次のくだりです。
・・政府が日本再興戦略の改訂版を公表した2014年6月24日は、日本のコーポレートガバナンス(企業統治)の近代化が本格始動した日として、おそらく歴史に残るだろう。成長戦略の柱に「『稼ぐ力』を取り戻す」と掲げ、企業統治の強化と「コーポレートガバナンス・コード」策定を宣言したのである・・
・・筆者は長年、日本企業の役員を務め、現在は社内外役員の研修を提供する組織である公益社団法人、会社役員育成機構(BDTI)の代表理事に就いている。その経験から、今回は日本の企業統治に大きな変化をもたらすチャンスであると実感している。
特に注目すべき点は4つある・・
・・第4に、日本の企業統治の基盤整備に関する責任の所在が、産業界と結びつきの強い経済産業省から、投資家保護や金融市場の円滑化を法律上の義務として負う金融庁へと明確に移されたことである。
これらは政府が本格的な統治改革を志向していることを示す。例えば日本再興戦略の改訂版は「社外取締役の積極的な活用」に言及している。政府が内部出身の業務執行取締役について「彼らだけでは彼らを監視できないこともある」と公に認めたことは、よりよい統治を求めて他国で30年以上続く議論に日本が加わることを意味する。
世界で使われている企業統治の概念に長年眼をつぶってきた「不思議な国ニッポン」から、資本市場の効率と投資家保護を優先する統治の枠組みを持つ「普通の国」に変わる絶好のチャンス―。内外の投資家はこうみている・・
企業統治の観点からは、企業内特に内部出身役員と、株主や取引先などの関係者の利害を、どう解決するかが重要です。企業を育成し、欧米に追いつく時代が終わりました。すると、政府の仕事のやり方が、行政指導・事前調整による業界や企業の育成から、ルールを定めて企業には自由に競争させ問題があれば事後に規制する方式に変わりました。さらに、視野が広がって、企業だけでなく株主や取引先という利害関係者までを入れた「企業統治」をどう確保するかに行政の課題が広がっているということです。すると、経済産業省でなく、金融庁の出番になったということでしょうか。

財政政策、政府の役割

財政学の教科書には、財政の3つの機能が載っています。
1 公共財の提供(資源配分の調整)
2 所得再分配(所得と富の分配の調整)
3 景気の調整(経済の安定化)
市場の失敗に対する補完として説明されます。マスグレイブが体系化しました。
これは、財政の役割です。しかし、市場と政府の関係をより広い視野から見ると、政府の役割には、これら以外にも重要な役割があります。
すなわち、市場経済が機能するように条件を整備することです。私有権の保護、契約の尊重、取引のルールの設定、紛争が生じた際の解決などです。これらが機能して、初めて市場の失敗が議論になるのです。
私は、「国家の役割と機能の分類」で、「経済社会活動のルール設定」という項目を立て、次のようなものを具体的な行政分野としてあげました(行政の分類)。
①経済社会:民法・商法・会社法、通貨制度、金融制度、経済取引
②労働:労働・雇用法制
③公共空間管理:電波・電気通信の監督、交通ルール
④紛争処理:民事裁判、各種ADR制度
もう一つ、市場に対する政府の役割があります。
「国民生活の向上」のために、産業政策、科学技術の振興を行うことも、現代の政府には期待されています。これも、財政の3機能(市場の失敗の補完)とは違った、政府の役割です。
拙稿、「行政構造改革」第3章第3節政治の役割(月刊『地方財務』2008年9月号)で、このような政府の役割を整理しました。ところで、このような議論(政府の役割)を整理した教科書は、案外見つかりません。もちろん拙稿は、十分とはいえません。連載自体が中断しています。すみません。いずれ、完成させます。

歴史の教訓、2

『歴史の教訓』から、もう一つ考えたことを。
著者は、「第6章 予測」で、次のように書いています。
・・さらに避けてとおることのできない問題は、行政部門とホワイトハウスに関する問題である。ニクソンは、かつては省務と考えられていたいくつかの職務を、国家安全保障会議の専門職員に移管し、専門職員たちが情報を収集し、事件の評価を提出し、取るべき行動方針を分析することになった。このような機構改革の結果、あらゆる省・部局の権力や影響力がいちじるしく減退することになった。だから、未来を推測する時われわれは、次のような問いかけを行わなくてはならない。すなわち、こうした傾向が一時的現象でないなら、肥大化し複雑化した国家安全保障会議の専門職員は、国務省やCIAの場合と同じように、自らの機構の利益や機構内の紛争を今後助長させようとするのだろうか。もしそうなら、その利益や紛争はどのような形態のものになっていくのか・・p235
かつて韓国を訪れ、内務部や後に行政自治部(これが韓国の自治省に当たります)の幹部と話した際、内務部の職員と権限の一部が大統領府に移され、大統領府と内務部との間で仕事の進め方が難しくなっていると、聞きました。
アメリカや韓国は大統領制なので、日本とは少し事情が異なります。しかし、総理主導・官邸主導が多くなると、似たような問題は起きます。総理が担当大臣や担当省幹部を呼んで、相談し指示を出している分には、問題は起きません。総理が担当省でない人たちを使うようになると、問題が出てきます。総理と各大臣との役割分担をどうするか(組織論であるとともに政治権力論になります)、官邸で総理を支える職員や官僚でないスタッフと各省官僚との関係をどうするか(これは組織論です)。
もちろん、各省から官邸に出向している秘書官や参事官は、板挟みになることは、これまでにもありました。このほかに、内閣官房や内閣府に設けられる各種の改革本部も、他省の所管業務を改革することが多く、各省との利害対立が起き、本部に出向した官僚は、板挟みになります。その所管業務に詳しいのは、各所管省の職員です。彼らを排除して改革することも、難しいです。
民間の組織や市場ルールを改革する場合は、官対民の戦いになりますが、各省改革や各省の所管業務を改革する場合(それも各省の反対がある場合)は、政対政または官対官の戦いになるのです。政治が仕切ってくれれば、官の悩みは少なくなります。この点については、組織内改革・組織間改革をどう進めるかという観点から、別途書きましょう。

規制委員会は業界から嫌われるべき

朝日新聞3月6日オピニオン欄「原発安全の番人」グレゴリー・ヤツコ前アメリカ原子力規制委員会委員長の発言から。
「日本の原子力規制委員会は、NRCをモデルにして原発を推進する省庁と切り離しましたが、電力業界から不満や批判もあるようです」という問に対して。
・・業界の人たちが不満を持っているのなら、たぶんいいことです。規制当局にとって最も大切なのは、許認可の意思決定の際、独立して判断が下せる能力です。日本には今、それがあると信じます。
それには、自らが技術的な専門家集団でなくてはなりません。そうでないと、他の人たちの情報に頼らざるを得なくなる。規制当局の存在意義とは突き詰めると、事業者が自らノーと言いたくないことに対して、時にノーを言うことです・・
古くてすみません。連休中に資料を整理したら、切り抜いてあったのが出てきたので。でも、この主張には納得します。

グローバル化が行政に与えるインパクト、その2

また、大橋洋一先生は「グローバル化と行政法」で、国際的約束を実現するために国内法が必要である場合に、法律制定手続きが持つ意味を、次のように整理しておられます。
1 与野党間の利害対立を統制する。
2 実現に向けた行政機関の権限や組織を指定する。
3 実施に向けて紛争が生じた場合の評価規範としての意味を持つ。
4 国民に対して、新規施策を宣伝する。
5 既存法律体系との調整が必要になる。
確かに、果たしている機能から見ると、このようにさまざまな効果があります。