カテゴリー別アーカイブ: 行政機構

行政-行政機構

高齢者支援事業者

8月20日の朝日新聞1面に「終身サポート、相談急増 身元保証や死後事務行う事業者」が載っていました。

・・・頼れる身寄りのいない高齢者らを対象に、身元保証や死後事務などを担う「高齢者等終身サポート事業」をめぐり、全国の消費生活センターなどに寄せられる相談件数が増加している。国民生活センターによると、2023年度の相談件数は354件で、この10年で4倍になった。
高齢者等終身サポート事業では、病院への入院や介護施設への入所時の「身元保証」をはじめ、通院の送迎や買い物への同行などの「日常生活支援」、葬儀や家財・遺品の整理などの「死後事務」といった、これまで家族や親族が担うことが多かった役割を、民間の事業者が有償で担う・・・

・・・相談内容は、サービス内容や料金などを理解できていないまま高額の契約をしてしまったなどの「契約時のトラブル」、病院への送迎を「忙しい」などの理由で断られるなど、契約に含まれているはずのサービスの提供がなかった「サービス利用時のトラブル」、解約時に預託金などが返金されないなどの「解約時のトラブル」に大別される。
そのほか、近年大きく増えているのが、新聞やラジオの広告や電話勧誘を受け、「信用できる事業者か確認したい」「信用できる事業者を紹介してほしい」という相談だ・・・

こどもの事故予防

日経新聞夕刊「人間発見」8月13日の週は、Safe Kids Japan理事長、山中龍宏さんの「親らが「目を離せる」社会に」でした。
・・・小児科医で「NPO法人 Safe Kids Japan」の理事長、山中龍宏さん(76)は「子どもの事故予防」に40年近く取り組む。科学的な検証で原因を究明。改善策の実行により事故を減らすことで、保護者らの責任や努力だけを追及する社会の風潮に立ち向かってきた・・・

・・・中学2年生の女子が学校のプールの排水口に吸い込まれ、当時の勤務先の病院に搬送されてきました。引き上げられるまで30分も水中にいれば命は病院では救えません。排水口の蓋さえきちんと固定してあれば良かったはずです。文部省(現文部科学省)に電話をすると「私の担当ではない」との答え。「何をバカなことを言っている」と憤りました・・
・・・1985年に起きた静岡県の中学校プールの排水口の死亡事故で、被害生徒の保護者は教育委員会宛に謝罪文を書かされていました。聞き間違いかと思いましたが、静岡の別のプール死亡事故でも、保護者が「我が子が不祥事を起こして申し訳ない」と教委に謝罪文を提出したという。そういう対応が疑問視されない時代でした・・・

明治以来、日本の役所はサービスを提供する側として仕事をしてきました。産業振興や公共インフラ充実だけでなく、教育も医療もそうです。生徒や患者ではなく、学校や病院を相手にしてきました。国民ではなく、提供者側でした。それが、公共サービスを拡充する際には効率的でした。しかし例えば、問題を起こす高校生に学校は困りますが、退学してくれると「縁が切れて」「ほっと」します。国民の側に立った役所は、消費者庁とこども家庭庁くらいです。
この問題を是正するために、提供者側でなく、国民の側に立った役所が必要なのです。私は「生活者省」の設置を主唱しています。

「公共を創る」第155回「「生活者省」設置の提言─「安全網」への転換を明確化」。「国民生活省構想」なお、国民でない人も暮らしているので「生活者省構想」に名前を変えました。

制度改革の前に実態対応

仕組みの解説と機能の評価3」の続きにもなります。
連載「公共を創る」の主題は、日本社会が成熟し、行政の課題が大きく変化していること、それに日本の官僚制が追いついていないことです。ところが、実態は私の想定をはるかに超えて、変化しています。議論の前提としていた実態が変わり、政策や制度を変える議論では対応しきれない事態が出てきています。

例えば、地方自治制度です。地方自治法がその基本を定めています。社会の変化に沿って、制度改正を重ねてきました。大きなところでは、分権改革です。ところが、住民が減少して、自治体の存続が危ぶまれる地域が出てきました。高齢者が多く少人数では、行政サービスも提供できません。自治体がなくなれば、自治制度論どころではありません。

もう一つは、公務員制度です。これまでも、そして今でも、公務員制度改革や育成手法が主張されます。ところが、労働市場と職場の実態が大きく変わりつつあります。一つは職員が集まらないことで、もう一つは早期に退職する職員が増えたことです。国の役所や自治体は、あの手この手で職員を集めていますが、埋まらない職種もあるようです。まずは職員を集めなければ、仕事は進まず、育成どころではありません。
長期間続けてきた行政改革で、国も地方も職員を減らしてきました。その影響で、現場が疲弊しています。そのうえに、定数通りの職員数が集まらないと、さらに現場は人が足りなくなります。

制度改革議論の前提が変わり、これまでの制度論の延長では対応できません。コペルニクス的転回とも言えます。もっとも、少子高齢化はずっと以前から予想されていたので、現実的にならないと気がつかないとも言えます。

クールジャパン戦略の失敗

7月5日の日経新聞夕刊に「クールジャパン戦略崖っぷち 「再起動」は韓国に学べ」が載っていました。
・・・政府は6月に「新たなクールジャパン(CJ)戦略」を発表し、新型コロナウイルス禍の収束を踏まえ、政策の「リブート(再起動)」を宣言した。コンテンツの消費拡大と国のイメージ向上の好循環を狙う戦略は韓国が先行する。政策の失敗の批判もある日本の現状をどう打破するか。韓国の施策に学ぶ・・・

・・政府が定義するCJとは世界から「かっこいい(クール)」と捉えられる日本のあらゆる魅力を指す。ゲームやアニメに限らず日本食、観光まで所掌は広い。
政府は内閣府の知的財産戦略推進事務局をCJ戦略の司令塔と位置づける。実態は多くの関係省庁の連絡・調整役に近く、政策の立案や実行は個々の省庁が担う。
韓国は日本の省庁にあたる文化体育観光部がコンテンツ政策をつくり、傘下のコンテンツ振興院が一元的な実施機関として制作や人材育成、海外展開を支援する。振興院は09年にコンテンツや放送、ゲームなど関係5機関を統合して設立した。民間の経験者を含めて独自に幅広く人材を採用している。

司令塔機能が弱い日本では、役所の縄張り争いになり、非効率が生まれやすい。経済産業省と総務省が放送コンテンツを別々に売り込む例もあった。
CJに着目した政策は、10年の民主党政権下で経産省に「クール・ジャパン海外戦略室」を置いたころに始まった。かねて司令塔の不在は問題視されてきた。
経団連は23年4月、コンテンツ政策に関する提言で「単発・分散的で戦略的に取り組まれてきたとは言い難い」と断じ、政府に一元的な司令塔組織の新設を求めた。経団連の委託調査によると、韓国のコンテンツの海外進出に伴う自国への収入額は、映画やドラマなど実写、音楽、スマートフォン向けのゲームで日本を上回る。

全体の政策の中での優先順位も不明確だ。日本のコンテンツの海外での市場規模は22年までの10年でほぼ3倍になった。コロナ禍の中でも堅調に推移した。政府はこの間、関連の予算を増減させ、ちぐはぐさは否めない。文化庁などによると、日本の国民1人あたりの文化への公的支出は21年時点で韓国の8分の1にとどまる・・・

国家公務員の削減計画

6月28日の読売新聞が「国家公務員の定員削減率5%に引き下げへ…安保・デジタル化・脱炭素など業務拡大で」を伝えていました。
・・・政府は28日午前の閣議で、国家公務員の定員管理基準などを定めた政府方針を改定した。経済安全保障やサイバー対策、デジタル改革など新たな行政需要が増えていることを踏まえ、2025年度から5年間での定員削減率を10%から5%に引き下げる。
改定したのは、2014年に閣議決定した「国の行政機関の機構・定員管理に関する方針」で、5年ごとの削減率を10%と定めていた。改定に伴い、24年度末の定員を基準とし、この定員から年1%ずつ削減する計画だ。行政の業務は、安保やデジタル化、脱炭素関連などで今後も拡大が見込まれる。削減幅の縮小はこうした実態を反映した措置だ。
ただ、削減率を達成した上で、新規事業対応などでの増員は認めているため、国家公務員の定員は18年度から毎年増え、24年度は30万7379人となっている。改定後も実際の定員は増加する可能性がある・・・

これだけ削減を続けてきて、まだ削減を続けるのですかね。このホームページや連載「公共を創る」でも主張していますが、役所の仕事は減っていません。機械化によって効率化するとの主張がありますが、どこのどの業務が人員削減につながるか具体的に示してほしいです。
現場経験がある人なら、毎年1%の職員削減がいかにきついものか、わかるでしょう。
根拠のない、そして目標のない「行政改革」というスローガンは、戦前の日本、特に軍隊にあったという「精神主義」を彷彿とさせます。