カテゴリー別アーカイブ: 行政機構

行政-行政機構

長屋聡執筆「第二次臨調以降の行政改革施策」

季刊『行政管理研究』9月号に、長屋聡・前総務省総務審議官が「第二次臨調以降の行政改革施策を振り返って(その1)」を書いています。長屋君は行政管理庁に就職して以来、行政改革や行政管理に携わってきました。

第二次臨調以降の40年間の行革の全体像が分析されています。中曽根行革、橋本行革などの歴史を振り返るとともに、なぜそれが求められたか、どのようにして進んだか、なぜ成果を上げたかが分析されています。また審議会方式で改革を進める手法についても評価が書かれています。良くできています。詳細な年表もついています。

私にとっては同時代史ですが、若い人にとっては知らないことが多いでしょう。1980年からの20年間は、日本にとって行革の時代でした。戦後の経済発展を成し遂げ、曲がり角にあった政治と行政を変革する必要があったのです。それを担ったのが、行政改革でした。その手法、すなわち国会や政党、内閣ではなく、内閣が委嘱した審議会が方向性を出すというところに、日本政治の特徴も現れていました。そして、紆余曲折はありましたが、かなりの部分が提言の方向で実現しました。私はそのうち、中央省庁改革に参画し、地方分権改革にも少々関わりました。

私の連載「公共を創る」では、政府の大きさを議論していて、次に行政改革を論じる予定です。私もいくつか書いたものがあるのですが、この40年間の全体像を振り返った論文が見当たらないので、困っていたところです。長屋論文を参考にさせてもらいます。次の号も、期待しています。「その2

ところで、季刊『行政管理研究』は日本の行政を論じる数少ない媒体です。地方行政には、いくつもの学会や雑誌があります。また、各省・各局も専門誌を持っています。ところが、国家行政を論じる場はないのです。例えば人事管理についても、そのような場はありません。購読者が少なく、市場がなり立たないこともあるのでしょう。で、私の「公共を創る」も、専門誌「地方行政」に連載しています。

霞が関、増える業務、増えない人員

7月1日の朝日新聞連載「2022参院選」「きしむ霞が関 増える業務・増えぬ人員、180人で7400船舶事業者カバー」から。
・・・観光船業者へのずさんな監査や基幹統計の不正――。国土交通省で相次いだ問題の背景にあるのが「人」の「不足」だ。現職官僚からは「ブラック霞が関の悪い部分が表れた」との声も漏れる。省庁のきしみは市民生活にも響きかねないが、選挙戦ではあまり語られない。識者は、官僚のあり方について「候補者はスタンスを明らかにして」と訴えている・・・

・・・4月に起きた北海道・知床半島沖の観光船「KAZU1(カズワン)」沈没事故では、乗客・乗員計26人のうち14人が死亡、12人が行方不明になっている。
事故をめぐっては、運航会社の安全管理のずさんさが明らかになったが、あわせて浮き彫りになったのは国交省側の監督の甘さだった。同省は昨年、運航会社に特別監査に入り、その後は改善の事後確認まで行っていたが、今回の事故後、改善されたはずの点を含め、17件もの安全管理規程違反が判明した。
国会では「国の確認がずさんだ」との声が相次ぎ、斉藤鉄夫国交相は「確認や指導が十分にできていなかったと認識している」、岸田文雄首相も「国交省として責任を十分に果たしていなかった」と認めた。

背景に見えてきたのは仕事量が膨らむ一方で人員は減らされてきた現場の厳しい実態だった。観光船の監査などを担う同省の「運航労務監理官」は2005年、安全担当の「運航監理官」と労働担当の「船員労務官」を統合してできた。「公務員の定数削減が求められる中で人減らしの側面があった」(同省幹部)とされ、1人が担う仕事が一気に増えた。
以降も業務量は増え続け、ここ数年に限って見ても、技能実習生の保護(17年)、飲酒規制の強化(19年)、働き方改革に向けた労働時間の管理強化(今年)などが加わっている。
一方で人員はここ10年で微減。今は180人で旅客船・貨物船計約7400事業者をカバーし、船員約7万6千人の労働にまで目を光らせる。北海道内に限れば16人で、カズワンの運航会社がある道東の広大なエリアの約70事業者をカバーするのは、わずか2人だ。
事故を受け、業務量はさらに膨らむ見通しだが、人員が手当てされるかどうかは、あくまで「政治の判断次第」(同省幹部)という・・・

事業成果の水増し?

日経新聞連載「国費解剖」、6月25日は「スポーツ貢献実績を水増し 対象外も含め「1300万人恩恵」」でした。

・・・19年6月、日本の著名ミュージシャンがバングラデシュの難民キャンプを訪れ、サッカーボール126個を贈った。スポーツ庁と外務省による国際貢献事業「スポーツ・フォー・トゥモロー(SFT)」の一環だ。発表によると、12万人が恩恵を受けたという。
ボール1個を約1千人で使う計算だ。外務省人物交流室に根拠を問うと、寄贈直後に使用状況を聞き取り、数カ月間同じ頻度で使われた想定で、かけ算したという。つまり延べ人数の推計だ。実績の過大計上ではないか。同室は「可能な範囲で実態に即した実績把握に努めた」とするが、推計を検証していない。

東京に聖火が届くまでに、スポーツの喜びを100カ国・1千万人に届ける――。SFTは13年の国際オリンピック委員会(IOC)総会で当時の安倍晋三首相が掲げた国際公約で、スポーツを通じた国際協力や人材育成が柱。政府資料によると、事業で恩恵を受けた人数(受益者数)は19年に目標を前倒しで達成し、21年9月時点は1319万人。行政事業レビューシートでSFT向けと明記した予算は15~21年度の累計で80億円だった。

国は別予算をスポーツ貢献事業に充てたり、スポーツと無関係の事業の実績をSFTの実績に算入したりしている。国費の使い方や成果の測り方はずさんだ。日本経済新聞がSFT事務局を担った独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)への情報公開請求で入手した資料を調べると、ボール寄贈のような受益者の過大計上とみられる事例が相次ぎ見つかった・・・

自動化されていない感染者集計作業

5月21日の読売新聞「コロナ警告 進まぬデジタル」は「感染者「一元集計」遠く…国も自治体も「ハーシス遅い」」でした。

・・・午前0時。厚生労働省が委託した大手コンサルティング会社のシステムが、人知れず活動を始める。全国の都道府県のホームページを〈自動巡回〉し、新型コロナウイルスの新規感染者や重症者、死者の数を拾い集めるという活動だ。
その後、今度は同社のスタッフが「人の目」で各ホームページを確認。データを照合した上で、朝までに厚労省に「納品」する。
「朝、私たちが出勤すると、それらのデータが手元に届いているわけです」と、厚労省コロナ本部の担当者は言った。そうして同省は毎日、国として集計した「全国の新規感染者数」などを発表している・・・
・・・しかし、もともとコロナ感染者の情報は、国自身が導入した専用システム「HER―SYS(ハーシス)」で一元的に集計・管理されるはずではなかったか?
「それが、ハーシスにはなかなか入力されなくて。待っていると遅くなるので、先に集めているのです」と、担当者は説明した・・・

・・・ハーシスの活用が進まないのは、入力項目の多さなどから医師らが敬遠して入力が行われず、保健所や自治体の職員が代行して入力に追われているからだ。代行入力には時間がかかる。一方で、「きょうの新規感染者」への人々の関心は依然として高い。
「そこで私たちは、ハーシスとは『別集計』をしているのです」と、滋賀県感染症対策課の古川卓哉さん(38)は話す。同県では代行入力とは別に、感染集計に特化した職員らのチームも編成。発生届を見ながら表計算ソフト(エクセル)で別集計し、毎日夕、その日の新規感染者をホームページで公表している。
「二度手間、と言われればそうなのですが、ハーシスではすぐ対応できない以上、大変でもやるしかない」と古川さん。このような〈二刀流〉の集計は、川崎市や北九州市、高知県などでも行われている。
国が毎晩、ホームページをのぞいて集めているのは、こうした自治体の苦労によって積み上げられたデータということになる・・・

サイバー警察局、発足

4月1日に、警察庁にサイバー警察局とサイバー特捜隊が発足しました。朝日新聞「サイバー特捜隊、発足

・・・警察庁の新たな組織、サイバー警察局とサイバー特別捜査隊が1日、発足した。サイバー特捜隊は、都道府県警の監督・調整が従来の役割だった警察庁が自ら捜査を担う初の部隊で、重大な事案に限って捜査する。他国と連携した国際共同捜査にも参加していく・・・
・・・サイバー局は、各局に分かれていたサイバー関係の業務を一元化。約240人体制で情報収集・分析や捜査指揮などにあたる。
サイバー特捜隊は東京都内に拠点をおき、約200人で構成。約半数は東京で勤務、ほかは都道府県にある警察庁の地方機関にいながら兼務し、データ解析などにあたる・・・
・・・今後は重大な事案は警察庁のサイバー特別捜査隊が捜査し、海外との共同作業も担う。警察庁幹部は「これまでは警察庁は窓口に過ぎなかったが、捜査の主体として海外と直接やりとりできるようになり、情報の共有が進む」と話す。
一方、国が自ら捜査する形は日本の警察制度の大きな転換だ。従来、捜査の執行事務は都道府県警が担い、警察庁は指導監督、調整する立場だった・・・

記事に書かれているように、国の機関である警察庁(各省庁に相当。正確には国家公安委員会が省庁に相当)は自らは捜査をしませんでした。戦後改革で警察は自治体警察となり、現在のような分担になりました。しかしサイバー犯罪のように被害地域が特定しにくく、海外からも攻撃される犯罪では、各都道府県警察に委ねるのは限界があります。首都を管轄し規模も飛び抜けて大きい東京都公安委員会(警視庁)に全国のサイバー犯罪を担当させることも選択肢としてはありますが、今回のように国の直轄部隊をつくるほうが合理的でしょう。