カテゴリーアーカイブ:経済

製造業の位置づけ

2025年7月4日   岡本全勝

6月17日の日経新聞The Economist、「世界経済を損なう「製造業幻想」」から。
・・・世界中の政治家たちが工場に固執している。トランプ米大統領は、鉄鋼から医薬品に至るまで、あらゆる製品の製造業者を国内に呼び戻そうとして、関税障壁まで設けている。
英国は製造業者に対し、エネルギーにかかる経費を補助することを検討している。インドのモディ首相は、長年続く産業補助金制度に加え、電気自動車(EV)メーカー向けに新たな優遇策を導入した。ドイツからインドネシアまで、各国・地域の政府が、半導体や電池のメーカーへの支援策の導入を検討してきた。
しかし、こうした世界的な製造業回帰の動きが成功する見込みは乏しい。むしろ、得るものよりも失うものの方が大きくなる可能性が高い。
各国政府が国内製造業に熱意を注ぐのには、さまざまな狙いがある。西側諸国の政治家は、高賃金の工場労働を復活させ、かつて工業地帯が誇った栄華を取り戻そうとしている。途上国は、雇用だけでなく経済発展も促したいと考えている・・・
・・・そして、こうした動きの背景には、中国の圧倒的な製造業の優位がある。各国は、恐怖と羨望が入り交じった気持ちで中国の強力な製造業に向き合っている。
雇用の創出、経済成長の促進、供給網の強靱化はいずれも追求すべき重要な政策目標である。だが、製造業の振興によってこれらを実現しようとする考え方は、政策の方向性を誤っている。製造業重視の発想の根底には、現代経済の構造に対する本質的な誤認がある・・・

・・・一つは、製造現場における雇用に関する誤解である。多くの政治家は、製造業の振興によって大学を出ていない労働者に就労機会が生まれると考えている。発展途上国では、地方から都市に移住した人々への雇用提供の手段として期待されている。
だが、工場の仕事は今や高度に自動化されている。世界全体では、製造業の生産額は2013年から5%増えたにもかかわらず、雇用は2000万人、率にして6%も減少している。生産現場の雇用規模が縮小するなかで、すべての国がより多くの取り分を得ることはできない。
今日の生産ラインで生まれる良質な仕事の多くは、技術者やエンジニア向けのものであり、いわゆるブルーカラー労働者向けではない。現在の米国の製造業において、大卒資格のない労働者が担う生産現場の職は、全体の3分の1に満たない・・・

・・・もう一つの誤解は、経済成長には製造業が不可欠だという考えである。インドで国内総生産(GDP)に製造業が占める比率は、モディ首相が掲げる25%という目標をおよそ10ポイント下回った状態が続いている。しかし、インド経済は力強い成長を続けている。
一方、中国は再生可能エネルギーやEVなどの分野で製造業が支配的な地位を築いたが、国全体としてはここ数年、経済成長目標の達成に苦戦している・・・

・・・製造業信仰には、もう一つ根深い幻想がある。中国の工業力は国家主導型の経済によって生み出されたものであり、ゆえに他国も同様に広範な産業政策で対抗すべきだという考え方だ。
実際、中国はさまざまな形で市場をゆがめてきた。21世紀初頭の中国は、当時の発展段階に照らして異例とも言える規模の製造業を展開していた。だが、そうした時代はすでに終わった。
中国も13年以降の世界的な製造業雇用の縮小から逃れることはできなかった。中国の製造業就業比率は、米国経済が同じような発展段階にあった頃の水準と同程度であり、他の先進国の過去の水準と比べても低い。
中国が世界の製造業付加価値の29%を占めているのは、その戦略というより経済規模の大きさによるものだ。長年にわたる急成長を経て生まれた巨大市場が今の中国の製造業を支えている。
技術の革新がさらなる革新を呼び、ドローンや空飛ぶタクシーなどの「低空経済」と称される新産業が、まもなく離陸しようとしている。しかし、中国の財輸出の世界GDPに対する比率は06年以降に大きく増えたが、中国経済に占める輸出の割合はむしろ半減している・・・

プリンは5割高

2025年6月28日   岡本全勝

6月17日の日経新聞夕刊に「プリン5割高、洋菓子で突出 卵と牛乳のコスト高直撃」が載っていました。
・・・菓子類の中でプリンの値上がりが目立つ。主成分の卵と牛乳で生産者の経営環境が厳しくなっており、メーカーはコストを吸収する一環で価格改定に踏み切っている。商品力の向上やインバウンド需要の取り込みを通じ、消費者をつなぎ留めながら適正に値付けする工夫を凝らしている。

総務省の消費者物価指数(CPI)によるとプリンの2024年の物価は20年に比べ45.5%あがった。菓子類全体は22.8%増、同じ洋菓子のシュークリームは25.8%増で、プリンの上昇幅が特に大きい。
足元の価格水準に達したのは23年だ。新型コロナウイルスやロシアによるウクライナ侵略の影響で材料調達やエネルギーの費用がかさんだところに鳥インフルエンザが流行した。プリンの主成分となる卵の価格が高騰し、日本養鶏協会によると年平均は1989年以来最も高かった...

ある洋菓子会社の調べ(16~64歳の男女約1000人)では、スーパーやコンビニでよく買う洋生菓子を複数回答で聞いたところ、プリンは44%で18年連続第2位。第1位はシュークリームで71%です。
1商品当たりの甘味の平均購入額は241円だそうです。

田んぼ、50年前の7割に

2025年6月26日   岡本全勝

6月13日の朝日新聞に「減る田んぼ、50年前の7割」が載っていました。

・・・私たちが日々口にするご飯。店頭での不足、価格高騰から備蓄米放出へと、めまぐるしく動いていますが、いま、稲を栽培する水田はどこにどれだけあり、誰が耕しているのでしょうか。各種のデータから、日本のコメ生産の現在地をみてみました。
農林水産省の統計によると、2024年の水稲の作付面積は、全国で151万ヘクタール。国土面積のおよそ4%にあたる。これには加工用米や飼料用米などが栽培された面積も含まれており、ご飯として食べる主食用米の面積は126万ヘクタールだった。
この126万ヘクタールの田から、679万トンが収穫された。10アールあたりの平均収量は540キロ(玄米)だった・・・

・・・宇都宮大農学部の小川真如(まさゆき)・助教(農業経済学)によると、田の面積がピークを記録した1969年から2020年までの約50年間で、ご飯用のコメ作りをする田は180万ヘクタール減った。このうち97万ヘクタールが、宅地になったり荒廃したりと、田ではなくなった。
田はピーク時の面積の7割に減り、残っている田のうちでもコメを作っているのは6割弱となっている・・・

経済対策6割が否定的

2025年6月12日   岡本全勝

5月23日の日経新聞に、「消費税減税は「不適切」85%、インフレ止められず 経済学者調査」が載っていました。
・・・日本経済新聞社と日本経済研究センターは経済学者を対象とした「エコノミクスパネル」の第5回調査で、一時的な消費税減税の是非について聞いた。財政状況が悪化することなどを理由に減税が「適切でない」と答えた割合は85%となった。一時的な減税が恒久化する懸念や、物価高対策としての有効性を疑問視する意見も目立った・・・

・・・夏の参院選を見据え、与野党が経済対策を競っている。物価高や米国の高関税を受け、野党は期限つきの消費税減税を訴えている。与党も減税や給付を盛り込んだ経済対策を検討している。
一時的な消費税減税に踏み切るのは適切なのか。5月16〜20日に経済学者47人に尋ねたところ、「全くそう思わない」(28%)「そう思わない」(57%)の割合が計85%だった。
経済学者の多くは短期的な景気の底上げより長期的な財政規律を重視する立場だ。プリンストン大の清滝信宏教授(マクロ経済学)は「消費税を減税すると、元の水準に戻すのが難しくなり財政再建が遠のく」と述べた・・・

・・・調査では、そもそも現在の日本経済が巨額の減税や給付を必要としているかも聞いた。「減税や財政出動などの経済対策を行うのは適切か」との問いには、「そう思わない」(55%)「全くそう思わない」(6%)との回答が計61%に達した。
2025年1〜3月期の実質国内総生産(GDP)は1年ぶりのマイナス成長となった。物価上昇率は日銀が目標とする2%を上回る状況が続き、物価高対策として与野党は減税や給付の必要性を訴えている。
多くの経済学者が経済対策に否定的なのはなぜか。まず目立ったのは、減税や財政出動がむしろインフレを助長してしまうとの意見だ。明治学院大の岡崎哲二教授(日本経済史)は「財政出動はインフレを加速させる懸念がある」と答え、東京大の岩本康志教授(公共経済学)も「さらに需要を追加する政策は物価の問題をより悪化させる」との見方を示した・・・」
・・・広範囲に巨額の経済対策を実施する効果を疑問視する学者も多かった。政策研究大学院大の北尾早霧教授(マクロ経済学)は「支援を必要としない高所得層を含めた全国民に減税する必要はない」と断言。慶応大の井深陽子教授(医療経済学)は「減税や給付が時限的なら、将来への備えとして貯蓄に回る可能性が高い」として、消費喚起の効果に疑念を呈した・・・

私は、日本に必要なのは景気対策ではなく、産業政策だと思うのですが。

人手不足で、好循環になるか

2025年6月9日   岡本全勝

5月22日の朝日新聞に「人手不足で「好循環」? 物価上昇へ日銀強気、生活には「不便増す」」が載っていました。

・・・人手不足の度合いが強まっている。企業は働き手を確保するために賃上げし、原資として商品やサービス価格の引き上げに動いている。日本銀行は、この流れが進めば賃金と物価がともに上がる「好循環」につながるとみるが、現場からは悲鳴も上がる。人手不足は何をもたらすのか・・・
・・・物価高と人手不足が進む中、賃上げの流れが続いている。労働組合の中央組織・連合によると、春闘の平均賃上げ率は2年連続で5%を超えた。課題である地方や中小企業への波及についても、日銀は4月時点で「幅広い業種・規模で、人材確保の観点から高水準の賃上げが期待できる情勢にある」とした。

上げの広がりが商品・サービスへの価格転嫁(値上げ)につながり、それがまた次の賃上げに――。物価上昇率2%を目指す日銀は、こんな「好循環」を思い描く・・・
・・・日銀が「強気」に出る一因が人手不足だ。人口が減り続ける日本で、構造的な人手不足が一変するとは考えにくい。それが賃上げと物価上昇を下支えするとの見方だ。今月1日に公表したリポートでは、トランプ関税でいったん景気は減速するとした。その上で「人手不足感が強まるもとで名目賃金は再度伸び率を高め、個人消費は緩やかに増加していく」と見通した。

一方で、人手不足は様々な現場に重くのしかかる。
大阪市の三和建設は昨年末、首都圏で物流倉庫を建てる注文を断った。現場監督や設計士らが足りないからだ。森本尚孝(ひさのり)社長は「供給が限られる中で、(単価の高い)勝ち筋の受注を選んでいる」と話す。
ホテル業界では、訪日外国人客が増える一方で、人手不足で客室を全て稼働できない例も出ている。東京や大阪などのホテルに投資する不動産ファンドの幹部は「コロナ禍以降、稼働率を1割落とし、客室の単価を上げることが当たり前になった」と語る・・・
・・・ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は、人手不足でホテルやタクシーの供給が減って予約が取りにくくなるなど、「生活の不便さが増している」と指摘する。賃金が物価を上回るには、「企業が生産性を向上させ、高い賃上げを実現することが重要だ」と話す。

ある日銀関係者は、人手不足を契機にした賃金上昇について、経済を成長軌道に乗せる「起点になる」と位置づける。
日銀の内田真一副総裁は3月の講演で「現状程度の(低い)成長率で激しい人手不足が起こり、物価や賃金が上がってきているということは、わが国の経済の実力がそれよりも低いことを意味する」と分析。成長率を高めるために企業が事業規模の集約などを進め、経済の実力そのものを高める必要があるとの考えを示した・・・