カテゴリーアーカイブ:経済

岩井克人先生の研究の軌跡、3

2015年7月21日   岡本全勝

先生が、ものごとの根源まで遡って考えた例として、貨幣と法人があります。
貨幣がなぜ通用するかについては、商品説(特定の物、例えば金(ゴールド)に対する、人の欲求に支えられているとする考え方)と、法制説(政府の命令によるとする考え方)が有名です。しかし先生によると、あるモノが貨幣として使われるのは、「貨幣として使われているから貨幣である」という「自己循環論法」です。これも、なぜそうなるのか、本をお読みください(p223)。
法人については、単なる企業と法人とは何が違うか。企業は所有者(オーナー社長)が、企業の資産・商品を自由に処分できます。それに対し法人の場合は、株主が会社を所有しますが、会社が会社の資産や商品を所有しています。株主は、会社の資産を所有していませんから、自由には処分できません。これを、先生は「2階建て構造」と呼ばれます(p288)。
「企業は誰のものか」。株主のものか、経営者のものか、従業員のものか。これらの議論が、2階建て構造で明快に説明されます。企業統治の場合は、オーナーと経営者との関係は、委任契約になります。それに対し、法人会社での統治は、会社の経営者は株主との間で委任契約を結んでいるのではなく、会社との間で信任関係にあります。企業の経営者はオーナーの指示に従う必要がありますが、会社の経営者は株主の指示に従うのではなく、会社に対し責任を負うのです(p349)。詳しくは、これも本を読んでください。

岩井克人先生の研究の軌跡、2

2015年7月19日   岡本全勝

先生は、経済学の主流から外れた「不均衡動学」を研究します。極めて単純化すると、新古典派経済理論は、市場で需要と供給が一致するように均衡し、労働市場でも受給が一致するように完全雇用が達成されると考えます。失業や売れ残りの商品、遊休資本が発生するのは、市場が不完全であるからで、市場が自由に働くようにすれば需給は一致すると主張します。しかし、実際の経済は、需給は一致しない場合が多く、不均衡が一般的であるというのが、不均衡動学です。では、それでいて、市場はなぜ安定しているのか。そこが、先生の研究成果です。本を読んでください。
私には、先生の主張の方が、現実的であり、説得力があると思えるます。先生は、市場主義が勢いをふるった時期に、それに反する主張を行い、「没落した」と振り返っておられます。

岩井克人先生の研究の軌跡

2015年7月16日   岡本全勝

岩井克人著『経済学の宇宙』(2015年、日本経済新聞出版社)が、勉強になりました。岩井先生の半生記ではなく、研究の軌跡を振り返ったものです。大学のゼミ生だった前田裕之・日経新聞記者が、恩師に行ったインタビューを基にしています。500ページ近い、分厚い本です。先生の研究の記録、それも悩みながらの軌跡であり、現代経済学の入門書にもなっています。
先生の本は、『会社はこれからどうなるのか』など、目から鱗が落ちることが多かったです。理由がわかりました。先生は、物事をとことん突き詰めて、すなわち通説にとらわれず、本質まで遡って考えられるのです。それは、経済学にとどまらず、法律学にも踏み込まれます。そして、国内だけでなく、英語論文で世界に挑戦されるのです。1か月以上前に読んだので、具体的な指摘を思い出しながら、おいおい、勉強になった点を紹介します。

コスト優先の管理技術の重要性

2015年7月12日   岡本全勝

朝日新聞連載「あのときそれから」、7月11日夕刊「昭和31年 造船世界一 成長ニッポン支えた技と魂」、ノンフィクション作家・前間孝則さんの発言から。
・・・造船世界一は「戦艦大和や武蔵の技術があったから」と言われていました。大口径46センチ砲や410ミリ特殊鋼の甲板といった軍事技術を評価されていたのだと思います。
大和は呉海軍工廠で造られ、建造責任者は西島亮二・海軍技術大佐です・・・実は、造船世界一に導いたのは、金に糸目をつけない性能第一主義の軍事技術ではなく、コストを最優先して短い工期と少ない工数で造る管理技術でした。西島さんは排水量7万トンクラスの建造データがなく、大和の仕事量を把握することが「もっとも頭を悩ました」と記します・・・
・・・材料の規格の統一や、効率的な人員配置など西島式生産管理法が、戦後重視された「安く早く良い物をつくる」ことに生かされ、技術大国の日本の礎になりました。現場を熟知して、全体を見通す西島さんの姿勢は、現在の日本にも求められていると思います・・・

海外に打って出る

2015年7月6日   岡本全勝

古くなって、恐縮です。6月28日の日経新聞「企業転変、戦後70年」は、「民営化、構造改革を先導」でした。1980年代、中曽根政権での3公社の民営化が、構造改革を先導したとの記事です。国鉄が民営化され、経営とサービスが格段に良くなったことは、多くの国民が体験しています。他方で、民営化された専売公社の発展は、あまり知られていないようです。
次の指摘が印象的でした。たばこの国内市場が縮小する中で、JTは海外企業の買収に打って出ます。アメリカのRJRナビスコのアメリカ外事業を1兆円で買収し、世界的な銘柄と流通網を手に入れます。そして不良品が多発した会社を建て直し、買収を成功に導きます。JTのたばこ事業売り上げは、海外が国内を上回っています。民営化の際に調査したイタリアやフランスの公社は、再編の中で買収される側に回り、今は存在しないとのことです。
郵政民営化を調査したとき、ドイツ・ポストの幹部が、中国市場を念頭に置いて、「日本は、海外戦略をどう考えているのか?」と質問したことを思い出しました。ドイツ・ポストは、アメリカのDHLを買収して、国際市場で攻勢にでていました。(2004年欧州視察随行記
6月29日の日経新聞夕刊1面コラムは、宮原耕治・日本郵船相談役の「グローバル化と国益」でした。
・・・私の勤務する海運会社は、1980年代からのグローバル化の大波の中で、大半を占めるドル収入に見合うようドルコスト化を進めるなどして、何とか生き抜いてきた。海外売上比率も80%を超える「グローバル企業」だが、私の心は常に「日本企業である」。わが社グループの運航する約900隻の船のうち、3分の2は日本に寄港しない(つまり3国間輸送)、と言うと驚く方が多い・・・