「経済」カテゴリーアーカイブ

経済

経済を支える社会資本

3月6日の日経新聞オピニオン欄、ファイナンシャルタイムズ、マーティン・ウルフさんの「インド、経済大国への課題」から。インドが経済発展を続けていること、さらなる発展が期待できることを指摘した後に。
・・・だが、白書は他の新興国との違いも明らかにした。民間部門の活用や土地所有権の保護が不十分なこと、特に教育と医療分野の国の制度の不備、非効率な所得再分配の3点だ。これはインドの民主化に経済発展が追いついていないことが原因だと白書は述べている。
重要な課題が長期的には3つ、短期的には1つある。
長期的課題の1つは教育だ。教育は州が責任を持つもので、モディ政権は各州が改革を競い合う「競争的連邦主義」を打ち出している。しかし、教育に関してはこの施策がまだ十分機能していない。
2つ目は環境だ。今後50年にかけ、実質GDPは5倍に拡大する可能性がある。都市化も急速に進み、人口集中が進む。インドは化石燃料の利用を大幅に増やさずに発展していく必要がある。
3つ目は外部環境だ。無理のない条件で試算すると、世界のGDPに占めるインドの財・サービスの輸出の割合は、現在の0.6%から10年間で倍増する。ただし、先進国で現在、起きている反グローバル化の動きを考えると、スムーズにはいかないかもしれない・・・

経済、そして経済発展を考えるとき、経済取引の世界で考えているだけでは、理解できません。それを支えるさまざまな社会の仕組み、国民の意識、慣行があるのです。その点では、近代経済学は視野が狭いと思います。原文をお読みください。

世界的幹部の育成

2月20日の朝日新聞「カイシャの進化」は「日立製作所、決断下すラストマンたれ」でした。
日立は、将来の幹部を、海外を含め経験を積ませています。このホームページでも何度か取り上げた、川村元会長の方針です。
・・・日立にとって鉄道事業は、国内のJRや大手私鉄に寄り添って仕事をこなせば収益を確保できる時代が続いた。海外はほとんど視野になかった。
だが、2008年のリーマン・ショックが日立を変えた。09年3月期に7873億円という史上最悪の純損失を計上。元副社長で子会社の日立マクセル会長に転じていた川村隆さん(77)が会長兼社長に就き、市場が縮む国内より海外を重視する経営にかじを切った。
国内で東芝や三菱重工業をライバル視してきた社員にも海外に目を向ける発想の転換を求め、「『ザ・ラストマン』であれ」というメッセージを投げかけた。
後ろには誰もいない。環境変化に機敏に対応して責任をもって決断できる人材。それを重視する考え方だった。前例踏襲の仕事のしかたを改め、自分で将来像を描いて課題をやり抜く覚悟を冨田さんら幹部に求めた。社長になる条件、という意味も込めていた・・
・・・川村さん自身、東大工学部を卒業、主力の原子力畑で日立工場長や副社長を歴任したエリートだ。ただ、「仕事をさばくことに懸命で、何をすべきかを考え抜かなかった。後部座席から(社長が座る)運転席を眺める副社長だった。『ラストマン』でなかった責任を痛感している」。そしてこうも言う。「日立全体がサボり続けていた」
かつての日立に、子会社に転じた幹部を本社に戻す選択肢はなかった。だが、川村さんの後任はハードディスク駆動装置(HDD)子会社を再建した中西宏明・現会長(70)。その後任の現社長も欧州子会社で経験を積み、国内子会社の社長も務めた東原敏昭さん(62)。トップとして決断を重ねた実績が買われた。
「ラストマン」を育てるべきだ――。中西社長時代の12年、川村さんの考えを受け継ぎ、社長や役員候補の育成をはじめた。
専務、常務クラスの事業ごとの部門長が部下から幹部候補を選んで、今後の育成や配置を東原社長と協議する。グローバル・リーダーシップ・ディベロップメント(GLD)という制度だ。約600人の候補枠は、40代の中堅社員を中心に毎年更新される。同世代の1~2%という狭き門・・・
全文をお読みください。

旅行収支の黒字

2月8日に財務省が発表した2016年の国際収支。経常収支が過去2番目の黒字になり、大震災以来赤字が続いていた貿易収支も黒字になりました。ここで紹介するのは、その中でも、「旅行収支」です。
旅行収支は、訪日外国人が日本で使ったお金と、日本の海外旅行者が国外で使ったお金の差し引きです。これが、2015年に半世紀ぶりに黒字になり、2016年もさらに大きくなりました。1兆3千億円の黒字です。もちろん、訪日外国人が2千万人を超え過去最高になったことと、「爆買い」によるものでしょう。
インターネットで検索すると、過去の変化をグラフにしているものがありました。それを見ると、旅行収支が急速に良くなっているとともに、出国日本人数が1990年頃までに増加し、その後訪日外国人数が激増しています。日本が経済成長し海外旅行に行くようになったこと、近年そしてアジア各国が経済成長して日本を訪れるようになったことが、よくわかります。

世界の観光客にとって、日本はまだまだ魅力ある国だと思います。そして、アジアには10億を超える民がいて、これから経済発展するのです。期待できますね。

アメリカ資本主義の行き着くところ

ロバート・ライシュ著『最後の資本主義』(邦訳2016年、東洋経済新報社)が勉強になります。アメリカの資本主義が、この30年間でどれだけすごい格差を生んだか。一部の経営者がとんでもない報酬を得て、他方で一般の労働者の給料は下がっています。その実態を、経営者については実名と報酬額を挙げて、説明しています。自由市場の名の下に、金持ちがルールを変える、その中には法律をも自分たちの都合の良いように変えたことで達成されたのです。
次のような記述もあります。「はじめに」
・・・今後の米国における最大の政治的分断は、共和党と民主党の間では起こらないだろう。起こるとしたら、大企業やウォール街の銀行や、政治や経済の仕組みを自分を利するように変えてきた超富裕層と、その結果、自らが苦境に立たされていることに気づいた大多数の人々の間においてであろう・・・
この本は、2015年に書かれた本ですが、トランプ大統領の出現を予言していたのですね。

詳しくは本書を読んでいただくとして、一部の超大金持ちとその他大勢、そしてその他大勢の犠牲の上に超大金持ちが成り立っている図式は、日本にいては実感がわきません。こんなあくどいことをして、数千億円、数兆円の資産をため込むのか。リーマン・ショックで多額の公金を投入してもらいながら、経営者たちは責任を取らず、高額の報酬をもらって逃げます。AIGのCEOであったマーティン・サリバンは、在任中に株価が98%下落し、同社を救うために1800億ドルを税金で支援しました。彼は退職する歳に、4700万ドルの解雇手当をもらいました(p137)。こんな例が、次々と示されています。

このような構図は永続するはずがありません。商品を買うはずの中間層がいなくなるのですから、いずれ、商品を売っている会社は業績が下がります。しかし、これらの経営者は会社の発展より、いかにして株価を上げ、報酬を得るかという短期的視野での行動をしています。
アメリカという国が資本主義の権化であり、経済界が国や政治を抱え込んでいることがわかります。
この項続く。

バブルの列伝

永野健二著『バブル 日本迷走の原点』(2016年、新潮社)を紹介します。既に新聞の書評欄などでも取り上げられています。元・日本経済新聞社記者による、バブル期を振り返った書です。
当時の取材を元に、バブルに関与した経済人・金融機関などの「列伝」です。バブル発生の前から、バブルの膨張、そして破綻と時系列に、事件とその主役を取り上げ、マスコミのニュース報道ではわからなかった事件の背景や裏が解説されています。
「主役たち」の行動、それも表に出なかったことを含めての解説ですので、どこまでが真実か、またここには書かれたことが「全体に占める割合」は、わかりません。しかし、当時の新聞記事と、筆者の取材による記述は、説得力があります。

バブルの検証については、様々な書物が出ています。巨大な経済事象であっただけでなく、多くの日本人を巻き込んだ社会現状、そして行政のあり方や社会の仕組みを変えた変革でもあったのです。日本の経済成長の象徴でもあった興銀がなくなり、金融行政が大蔵省から切り離されました。直接的な原因である金融政策の問題だけでなく、構造改革を求められていた金融のあり方と金融行政、地価への神話などそれを支えた日本人の意識など。全体像を記述することは、難しいです。経済学からの分析、行政や政治の役割(失敗)としての分析、日本社会の大きな変革(その失敗)としての分析などが考えられます。
他方で、この本のように、その主役たちに焦点を当てての分析は生々しく、価値があります。社会の現象としてのマクロからの視点は重要です。しかし、腑分けしてみていくと、そこにあるのは個人や会社の行動です。それが積み重なったものが経済の動きであり、社会の現象です。難しいのは、個人や会社の行動を、経済社会の大きな変動の中に位置づけて、記述することです。この本は、それに成功していると思います。
バブル崩壊から既に四半世紀が立ちました。若い人は経験していません。学術書とともにこのようなノンフィクションも、わかりやすいと思います。