日経新聞5月22日、ジリアン・テット氏の「国際金融揺さぶる盲点」(5月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)から。
・・・昔、銀行強盗といえば目出し帽をかぶり、トンネルを掘ったが、もはやそうではない。3カ月前、世界は史上最大の銀行強盗を経験した。窃盗団がバングラデシュの中央銀行から1億100万ドル(約110億円)を盗んだのだ。
21世紀の詐欺師は銃を使わなかった。その代わり、国際銀行間通信協会(スイフト)が運営する銀行間の決済情報をやりとりする国際的なシステムへのアクセスコードを入手し、これらのコードを使って米国の連邦準備銀行を信じ込ませ、自分たちの口座へ資金を送金させた。その後、関係銀行のソフトウエアを書き換え、自分たちがサイバー空間に残した痕跡を消した・・・
・・・ある大手銀行の最高経営責任者によると、大手金融機関は毎分「数万件」の攻撃に見舞われている・・・
・・・スイフトは1973年に非営利の協同組合として設立され、1万強の銀行が加盟している。最近までその送金システムは地味な存在で、めったに関心を集めなかった。従業員数もわずか2400人(売上高は6億5000万ユーロ)。だが地政学的観点では、組織の規模を大きく上回る影響力を持つ。スイフトのシステムは、国境を越えた高額な支払いのほぼ半分を送金するために使われているからだ・・・
すごいサイバー攻撃が行われているのですね。また、このような国際的民間組織が、世界の金融を支えています。それを、どのように守るか・・・。
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経済
経済学批判、数学だけでなく倫理的視点を
朝日新聞5月19日オピニオン欄、チェコの経済学者、トーマス・セドラチェクさんの「しじみ汁の経済学」から。
・・・経済学は社会科学の中で浮いています。文献を調べていて驚いたことがあります。数字が入っている論文の引用度は、そうではない論文の10倍くらいになる。経済学者の中には数字が出てくると満足する人が多くなっている・・・
・・・数学は私の趣味のひとつですが、何でも数字で表せると考えるのは宗教的だしナイーブです。
経済学は数字で表せないものにも数字を与えたがる。でも本当にすべてに値札がついた人生でいいのか。友情や恋愛なんて数字にならない。ある人の笑顔がほしいからといって、それが2700円なんていうのはどうでしょうか・・・
ごく一部を紹介しました。全文をお読みください。
経済同友会70周年
経済同友会が、70年を迎えました。
「企業経営者が個人として参加し、自由社会における経済社会の牽引役であるという自覚と連帯の下に、一企業や特定業種の利害を超えた幅広い先見的な視野から、変転きわまりない国内外の経済社会の諸問題について考え、議論していくところが、経済同友会最大の特色です」(経済同友会とは)。 さまざまな分野で、提言をしています。昨年度の提言一覧。
企業人が、このような財界活動を通じて、自社や産業だけでなく経済、社会、政治に関心を持ち、オピニオンリーダーになっていただくことは、ありがたいことです。
小林喜光・代表幹事の「所見」から。
・・・この激変期を上手く乗り越えられるかは、第1にリアルとバーチャル、第2に付加価値と効用、第3に個と集団という関係性の変化を的確に捉えて、我々が目指す社会の姿に道筋をつけられるかにかかっていると思います・・・
・・・第1は、モノに代表されるリアルな「重さのある経済」とネットに代表されるバーチャルな「重さのない経済」の関係性です。これは私がよく用いる表現ですが、改めて、簡単にその概念をご説明いたします。
日本経済は製造業を起点に明治以来ここまで発展してきた訳ですが、今後は日本経済ばかりでなくグローバル経済でも、付加価値の比重はモノからサイバーに移行していくと考えています。モノの時代でも付加価値は、トン、キログラム、グラム、ミリグラム、マイクログラムへと軽量化の方向にシフトしてまいりました。サイバー空間の時代には重さの無い情報が付加価値を生むことは、皆様も日々のビジネスの場面で感じていると思います・・・
・・・第2は、成熟経済下で顕著になる経済活動の本質となる部分で、付加価値と効用の関係性です。一般的に、付加価値は企業等が生産過程で生み出した価値であり、効用は人々が商品・サービスを消費する際に得られる満足の度合い、あるいは使用価値と理解されています。
そこで過去と未来を考えてみたいと思います。主要な経済統計であるGDPは、付加価値の総和です。これは物質的に充足することで人々が幸福と感じる状態では、適切な尺度でした。しかし、物質的に満たされた状態、イノベーションの加速でより良い商品・サービスがより安価で、次々に供給される状況では、GDPだけではなく効用というメトリック、すなわち測定基準がなければ、経済の実態を把握することができなくなっています・・・
低金利の副作用
景気刺激のために、超低金利政策がとられています。金を借りる側にとっては、ありがたいことです。住宅ローンとか。他方で、困る人も出てきます。基本財産を運用して事業を行っている財団です。例えば、篤志家が寄付をした基金で、その利子で学生に奨学金を支援しているような財団です。金利が下がると、受け取る利子が減り、事業を縮小せざるを得ません。その分野の方に、「どのようにしているのですか」と聞いてみました。答は、次のようなものでした。
1 財産取り崩し型=積んである基本財産を取り崩しながら、事業を運営する。これはいつかは取り崩し終わって、財団が解散する可能性があります。
2 株式移行型=財産を債権から株式へと買い替える。金利は低くとも、株式の配当は高いものがあります。ある財団は、3%で運用したとか。一方、損をする可能性、さらには元本がなくなる可能性もあります。そして、中小の財団では、運用の能力に欠けます。
3 不動産移行型=これは、株式の代わりに、財産を不動産へと買い替えます。これも不動産市況によります。
4 出捐企業補填型=親企業から、追加の資金を出してもらいます。一方このご時世、親企業もそんなに裕福ではありません。
5 ファンドレイジング型=プロジェクト単位で、外部からの寄付を募ります。この場合、ファンドレイザーという新たな専門職が必要です。
ここまでは、何らかの形で低金利に対応している型です。最後に
6 縮小型=事業費、事務局経費を削減して、耐えようというものです。財団の役員や事務局に考える力がないと、こうなります。中小の財団はこれが多いのではないか、という見立てです。
有名銘柄と無名の商品。質とブランド
滝田洋一著「世界経済大乱」(2016年、日経プレミアシリーズ新書)に載っているエピソードをもう一つ。
バレンタインのチョコレートを2枚もらったトヨタ自動車の豊田章男社長。ブランド名を伏せて、味を試してと言われました。1枚は日本製、もう1枚はベルギー製。豊田社長は日本製の方がおいしく感じます。ところが値段は10分の1だったそうです(p226)。
目隠しテストをして、有名な銘柄と無名の商品の評価が反対になることは、しばしばありますよね。そこが有名ブランドの「価値」なのでしょう。いずれ、後発の良い商品に負けるでしょう。あるいは、後発の良い商品も販売戦略を考えて、市場での価値を高める必要があります。