カテゴリー別アーカイブ: 経済

経済

バブルの列伝

永野健二著『バブル 日本迷走の原点』(2016年、新潮社)を紹介します。既に新聞の書評欄などでも取り上げられています。元・日本経済新聞社記者による、バブル期を振り返った書です。
当時の取材を元に、バブルに関与した経済人・金融機関などの「列伝」です。バブル発生の前から、バブルの膨張、そして破綻と時系列に、事件とその主役を取り上げ、マスコミのニュース報道ではわからなかった事件の背景や裏が解説されています。
「主役たち」の行動、それも表に出なかったことを含めての解説ですので、どこまでが真実か、またここには書かれたことが「全体に占める割合」は、わかりません。しかし、当時の新聞記事と、筆者の取材による記述は、説得力があります。

バブルの検証については、様々な書物が出ています。巨大な経済事象であっただけでなく、多くの日本人を巻き込んだ社会現状、そして行政のあり方や社会の仕組みを変えた変革でもあったのです。日本の経済成長の象徴でもあった興銀がなくなり、金融行政が大蔵省から切り離されました。直接的な原因である金融政策の問題だけでなく、構造改革を求められていた金融のあり方と金融行政、地価への神話などそれを支えた日本人の意識など。全体像を記述することは、難しいです。経済学からの分析、行政や政治の役割(失敗)としての分析、日本社会の大きな変革(その失敗)としての分析などが考えられます。
他方で、この本のように、その主役たちに焦点を当てての分析は生々しく、価値があります。社会の現象としてのマクロからの視点は重要です。しかし、腑分けしてみていくと、そこにあるのは個人や会社の行動です。それが積み重なったものが経済の動きであり、社会の現象です。難しいのは、個人や会社の行動を、経済社会の大きな変動の中に位置づけて、記述することです。この本は、それに成功していると思います。
バブル崩壊から既に四半世紀が立ちました。若い人は経験していません。学術書とともにこのようなノンフィクションも、わかりやすいと思います。

二つの三菱

12月25日の読売新聞解説欄に、知野恵子企画委員による、宮永俊一・三菱重工業社長へのインタビューが載っていました。「自社批判、客船大赤字もう造れない」です。
・・・えっ・・・。日本を代表するモノ作り企業・三菱重工業の記者会見で私は仰天した。2400億円もの大赤字を出した欧州向け大型客船事業。その背景には、自社の恥ずべき古い体質がある、と社長自ら語ったからだ・・・
以下社長の発言です。
・・・造船は祖業であり、130年以上にわたって様々な船を造ってきた。なのにほかの事業で構造改革が進んでいなければ、会社が傾いてしまうほどの損失を出した。時代とともに客のニーズが変化していることを理解できなかったためだ。
今回赤字を出した欧州向け大型客船は、12年前に英国に納入したものと寸法的にはほぼ同じだった。しかし、求められるものが、様変わりしていた・・・
・・・三菱重工は、国内に複数の造船所や製作所がある。それぞれに独立性がかなり強い。自分たちだけでやろうという「自前主義」が幅をきかせている。特に今回の大型客船を建造した長崎造船所は、発祥の地であり、プライドも高い。他人に聞くのを恥とする風土がある・・・
「社長がここまであからさまに自社の問題点を話すのは珍しい。なぜ外で社員を批判するのですか」との問に。
・・・失敗した理由は、外にも中にも正直に言うべきだろう。記者会見で話してしまうとわかったら、社内の他部門も「同じような失敗をすると、社長はまた外でしゃべっちゃうな。気をつけよう」と思うわけだ・・・

12月26日朝日新聞経済欄、カイシャの進化は「三菱電機」でした。
・・・23人の執行役(役員)の報酬が1億円を超えた。それも2014、15年度と2年連続で。社長に至っては2億円を超える。
そんな大盤振る舞いをするのは三菱電機だ・・・だが、1990年代後半から今世紀初頭にかけて経営は傾いた。なぜ再生し、躍進したのか―。
98年1月末、三菱電機の取締役会。普段めったに発言しない伊夫伎一雄監査役(元三菱銀行頭取)が声を荒らげた。「来年度どうするか決められないようじゃ、許されないよ」。三菱グループの重鎮の一声にその場は静まりかえった。「ガチャン」。伊夫伎氏は茶わんにふたをたたきつけ、無言で退席。他の役員はその光景に息をのんだ・・・
・・・次いで社長に就いたのは傍流の防衛・宇宙部門出身の谷口一郎氏だった。谷口氏は就任早々「もうからないものはやめる」と宣言。事業を「拡大」「縮小」「現状維持」にわけた。まずパソコンから撤退し、さらに大容量電動機部門を東芝との合弁会社に移管して切り離した。
いったん持ち直した業績はITバブル崩壊後の2001年、再び暗転。半導体部門トップだった長澤紘一氏は、半導体を手がけることに限界を感じていた。「設備投資が年間1千億円規模になり、それを捻出するのに社内で1年もの議論をしなければならなくなった」。意思決定のスピード感、資金力の両面で米マイクロンや韓国のサムスン電子などライバルにかなわない。「半導体を切り離せば会社は良くなる」。役員会でそう一席ぶった・・・

自らが率いる部門から撤退することは、なかなか言えることではありません。原文をお読みください。

企業が作り売るおいしいお米

先日、宮城県亘理町を視察した際に、「舞台アグリイノベーション」の精米工場を見せてもらいました。田んぼの真ん中に、巨大なビルが建っています。高さ30メートル、横60メートル、奥行き150メートル。仙台駅とほぼ同じ大きさだそうです。
4万2千トンのお米を、保管できます。1メートル×1メートル×1メートルの袋が、4万2千袋保管できると言うことです。もちろん全自動の倉庫です。タグをつけてあるので、いつ入れたか、その袋が倉庫のどこにあるか、すべて管理しています。
この精米工場の特徴は、お米を生鮮食品として扱っていることです。お米の味は、もちろん稲の種類と育て方によりますが、刈り取ってから特に精米してからおいしさが落ちます。温度と酸素だそうです。この工場では、全体を低温に保ち、そして精米したら脱酸素剤と窒素で袋に密閉します。日持ちのしないお菓子などに脱酸素剤が入っていますが、お米の袋にそれが入っているのは、びっくり仰天です。賞味期限も表示されています。すなわち、お米が生鮮食品として扱われているのです。
家族の数が減り、またお米をたくさん食べなくなったので、小袋に入れるのも、消費者の要望に合っているでしょうね。お米の検査も、専門的に行われています。農薬などのほか、水分量、食味値、成分、整粒率(被害米等を除いた完全粒の割合)です。規格外のお米は、一粒ずつ機械がより分けるのだそうです。

この精米工場の特徴は、アイリスオーヤマと舞台ファームとの合弁会社です。
アイリスオーヤマは、皆さんご承知のように、さまざまな日用品を売っている会社です。大山健太郎会長から、ぜひ見るようにと言われていたのですが、ようやく約束が果たせました。私はアイリスオーヤマと聞くと、プラスチック製の収納用品を浮かべます。わが家でも使っています。お米は思い浮かべませんが、そこは進取の気風あふれる大山社長の着眼なのでしょう。
もう、家族で田んぼを耕す時代ではありません。お米にあっては、大規模化することで費用を抑え、生産を管理して品質を保証する。事業・企業としての農業が、生き残る方法だと思います。
舞台ファームは、仙台に本拠を置く農業法人です。「畑の中のカット野菜工場」を標榜していて、安全で美味しい野菜をカット野菜で提供しています。 少子高齢化社会では、お手軽に調理できるカット野菜も、消費者の要望に合っています。 カット野菜の市場規模は約1900億円で、インスタントコーヒー市場とほぼ同じだそうです。

反グローバル化、経済による説明、2

白石隆・政策研究大学院大学長の「反グローバル、経済低迷で欧米内向き」の続きです。他方でアジアの数字は、次のようになっています。
1995年の1人あたりGDPを100とすると、2005年は、
中国223、ベトナム174、韓国154、シンガポール138、マレーシア、フィリピン、タイ120台、アジア経済危機で大打撃を受けたインドネシアでも115です。
2005年を100として2015年までの伸びを見ると、
中国236、ベトナム163、インドネシア152、フィリピン141、韓国、マレーシア、シンガポール、タイ130台です。
・・・つまり、東アジアの国々では1995~2005年の10年間より、2005年~2015年の10年間の方が1人あたりGDPが伸びた。アジアで反グローバル化の動きがほとんど見られないのもうなづける・・・
詳しくは原文をお読みください。(2016年11月3日)

反グローバル化、経済による説明

10月30日読売新聞「地球を読む」は、白石隆・政策研究大学院大学長の「反グローバル、経済低迷で欧米内向き」でした。
欧米で反グローバル化の動きが強いのに対し、アジアではほとんど見られないことに関して。
・・・これを考える上で参考になるのは、各国の経済成長の動向だ。1995年の各国通貨建て実質の1人あたり国内総生産(GDP)を100として試算すると、10年後の2005年には英国とスペインは130に伸びた。米国とオランダは120台半ばで、フランス、イタリア、ドイツは110台半ばだった。
日本の伸びは先進国中で最低の109だった。かつて、「我々は日本とは違う」と言わんばかりに欧米で「日本病」が語られていた背景には、欧米諸国の所得の顕著な伸びと日本のもたつきがあったと言える。
しかし、これは次の10年間に様変わりした。2005年の1人あたりGDPを100とすると、2015年には米国とオランダは106、英国が105、フランスは103、スペインとイタリアは100以下にとどまり、ドイツだけが突出して良い116だった。ちなみに日本は106。何のことはない。欧米の多くの国々も、日本と同じかそれ以下の伸びだったである。
ただ、近年の国民所得の伸びを比較する場合、日本と欧米で一つの重要な違いがある。日本の1人あたりGDPは1990年初頭からすでに20年以上にわたって伸び悩み、多くの日本人が生活水準の急速な向上を期待しにくい状況が続く。
一方、欧米では冷戦終結から世界金融危機まで好景気が続き、所得も伸びた。このため、欧米の人々は、自分たちの生活はこれからも良くなると思っていたが、その期待が裏切られた・・・
この項続く。(2016年11月2日)