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経済

中国 改革開放政策40年

中国が、改革開放政策に転じてから40年です。各紙が、この間の発展ぶりを伝えています。
「中国では、40年前の12月18日から始まった共産党の重要会議で改革開放政策の実施を決定し、計画経済から市場経済への移行を進め、GDP=国内総生産が人民元建てで200倍以上に増加する飛躍的な発展を実現しました」(NHKニュース)。
12月19日の朝日新聞によると、1978年から2017年の間に、国内総生産は225倍、世界経済に占める割合は1.8%から15.2%になりました。一人当たり可処分所得は、152倍に、平均年齢は67.8歳から76.7歳に約9歳伸びました。

鄧小平が、歴史的な大転換を決断しました。1978年10月に日本を訪問し、1週間にわたって日本を視察しました。東海道新幹線に乗り、新日鉄や松下電機の工場を視察したことは有名です。
10月23日の朝日新聞国際面に、「鄧小平氏40年前にみた日本経済」という印象的な記事が載っていました。10月25日に日本記者クラブで記者会見をしました。「日本は歴史上多くのことを中国から学んできた」との記者の問いかけに、鄧氏は次のように答えます。
「いまは逆だ。30年の遅れを取った」。人差し指でこめかみ辺りをトントンとたたき、「ここが足りないんですよ。お国も含めて教育してもらわないといけない」。

確かに、大成功の40年でした。もっとも、後進国の驚異的な経済発展、その第一号は日本です。韓国を初めとする東南アジア各国が続き、そして中国が続きました。下に付けた図をご覧ください。私が著作や講演で使っている、一人当たり国内総生産の伸びの比較です。日本が、アメリカやフランスに追いついた過程と、韓国と中国が20年から40年遅れで日本と同じような過程をたどっていることがよくわかります(この図については、「経済成長の軌跡」)。この項続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合理的な人間ばかりではない、経済学の限界

12月18日の日経新聞オピニオン欄「揺らぐ世界情勢 打開策は」。

前田裕之・編集委員が、次のような問題提起をします。
「市場経済は多くの人を豊かにするが、金融危機、経済格差、環境破壊といった副作用を伴う。恩恵より副作用の方が大きいと感じる人が増え、資本主義や市場への批判が強まっている。別のシステムが見当たらない中でどうすればよいのか」

それに対する、岩井克人・国際基督教大学特別招聘教授の発言から。
・・・――経済学は問題の解決策を提示できないのですか。
「人間は合理的に行動するという仮説を立て、その自己利益追求が社会にとって良い結果をもたらすようなインセンティブ(誘因)の設定を考えるのが、主流派経済学の基本。それを基礎にしてミクロ経済学では契約理論やゲーム理論が発達し、さらには、人間は無限の未来に関しても合理的に予想できると仮定し、その予想が現在の行動のインセンティブを左右する視点を入れたマクロ経済学を生み、ともに一定の成果を生んだ。経済学の手法は政治学、社会学、法学などに広がった。ところが、経済学の方法論を極限まで進めた結果、従来の方法論では解決できない問題が逆に浮き彫りになった」

――その限界とは。
「ミクロ経済学は、すべての人間関係を契約関係として理論化してきた。2人のインセンティブが両立する関係だからだ。だが、社会には契約が不可能な関係が無数にある。老人の世話をする後見人、患者を手術する医者、法人としての会社を経営する取締役など、仕事を信頼によって任せざるを得ない関係であり、後者に忠実義務を課さなければ機能しない。ここでは自己利益を前提とする契約理論は有害ですらある。環境問題も、現在と将来の世代が契約を結べないから解決が困難なのだ」・・・

日銀の役割と経済

11月3日の朝日新聞オピニオン欄、白川方明・前日本銀行総裁の「民主主義と中央銀行」から。一部を紹介しているので、原文をお読みください。

「でも多くの人が「デフレが日本経済の最大の問題」と信じこんでしまったのはなぜでしょう」という問に。
・・・多くの国民は物価下落というより、将来の生活不安など現状への不満を表す言葉として使ったのでしょう。他方、エコノミストにとって、デフレは1930年代の大不況を連想させる恐怖感の強い言葉でした。「失われた20年」という言葉のナラティブ(物語)の心理的作用も大きかった。アジェンダ(課題)が正しく設定されなかったように感じます・・・

「正しいアジェンダとは?」には。
・・・最も重要なのは超高齢化への対応と生産性向上です。金融緩和は将来需要を前借りし、時間を買う政策。一時的な経済ショックの際、経済をひどくしないようにすることに意味があります。でもショックが一時的ではない場合、これだけでは問題は解決しません・・・

「政治がその課題に向き合わないのは、なぜでしょうか」
・・・少なからぬ政治家は問題を十分認識していますが、痛みを伴う改革は国民に不人気です。その点、金融政策は選挙と関係なく中銀が決められる。そうなると、誰も異を唱えない金融緩和が好まれがちになります。これは世界的な傾向です。経済状況が不満足でかつ低インフレ状態なら、中銀も何か行動しなければ、という心理状態に陥りやすい。社会全体の集合的圧力に支配され、みな身動きできなくなってきます・・・

「リーマン・ブラザーズを救済すれば、あれほど危機は深刻にならなかったのではないですか」との問には。
・・・難しいところです。たしかに危機が深刻化した直接の引き金は(米国の中銀である)FRBがリーマン救済の融資をしなかったことでした。FRBは担保不足を理由にしましたが、実は議会や国民の反発の声が非常に強かったからではないかと想像します。
対照的なのが1997年、日銀が山一証券の自主廃業の際、無制限の特別融資をしたケースです。日米の置かれた状況はよく似ていた。どちらも業界4位の証券会社、銀行システムはきわめて脆弱、円滑な破綻処理や公的資金の枠組みがない。政府・日銀は日本発の世界金融危機を防ぐことを優先し、日本経済の落ち込みはリーマンの時と比べ小さくできた。だがそれゆえに抜本策の採用は遅れ、問題先送りだと批判されました。
一方、リーマンのケースでは世界経済は大混乱に陥ったが、その結果として米議会もいったんは否決した危機対応の法律の承認に動き、7千億ドルの公的資金投入が可能になった。ただし失業率は大幅に上昇し、トランプ現象に象徴される社会の分断の一因にもなりました。民主主義のもとで、誰が何を、どのように決定すべきか、今も明確な答えはありません・・・

瀧澤弘和著『現代経済学』

瀧澤弘和著『現代経済学』(2018年、中公新書)が勉強になりました。帯に「20世紀半ば以降に多様化した潮流の現在とこれから」とあります。

私が大学で学んだ経済学は、近代経済学と呼ばれた、サミュエルソンであり新古典派経済学でした。ミクロとマクロです。最初は、グラフと算式が取っつきにくく、なじめませんでしたが。わかると、これはこれで面白かったです。財政学は、貝塚啓明先生の授業が、わかりやすかったです。
マルクス経済学も少しかじりましたが、早々と放棄しました。これは現実世界を分析する経済学でなく、政治だと思ったので。

ところが、本書にあるように、20世紀後半から、様々な経済学が出てきました。ゲーム理論、行動経済学、制度学派・・・。「そんなのも、経済学なんだ」と思いましたが。近年のノーベル経済学賞は、様々な理論や分析が受賞しています。
しかし、これら新しい経済学派は、新古典派に取って代わるのではなく、それを基礎としつつ範囲を広げたように見えます。それら発展した経済学派が、どのような関係にあるのか。それを知りたかったのです。p27に大まかな見取り図が書かれています。門外漢には、このような地図が欲しかったのです。

近代経済学は、理論としてはかなり完成度が高いものですが、余りに抽象化されていて、現実からは遠くなっていました。その道を進めば、算式ばかりが高度になります。しかし、それは現実経済を説明するものではなくなります。
「合理的経済人が、コストや時間がかからないという条件の下で、判断と交換を行う」という前提は抽象的すぎます。20世紀後半から始まった経済学の多様化は、その前提を取り外し、現実世界に引き戻したと考えたらよいのでしょう。

筆者が述べておられるように、本書は現在の経済学をすべて網羅してはいません。金融論、国際経済、国際金融、財政学、労働経済など、取り上げられていない経済学もあります。また、実学に近い応用経済学も、対象外です。しかし、それは欲張りというべきでしょう。

追記
ジャン・ティロール『良き社会のための経済学』(2018年、日本経済新聞出版社)も良い内容ですが、この本は分厚いですね。(2018年11月11日)

円高になっても、企業の業績は落ちない

10月3日の日経新聞に、「通説を疑え」「「円高だと減益」本当? 11年で減益3回のみ」が載っていました。

・・・輸出で稼ぐ企業が多い日本。「為替が円高だと業績は減益になる」とのイメージは根強い。確かに個々の企業や事業は影響を受けるが、日本企業全体でも本当にそうなのか。
1998~2017年度の過去20年のうち、為替の年度平均が前年度に比べて円高・ドル安に振れたのは11年あった。この期間の上場企業の業績を調べてみると、意外にも「最終減益」となったのは1999、2008、11年度の3年のみにとどまった。様々な企業努力で円高のマイナス要因を吸収している姿が浮かび上がる・・・

・・・背景にあるのは、第1に海外への生産移転や原材料の現地調達だ。日本の自動車メーカーの米国での生産台数は17年で約380万台と30年前の10倍に増え、海外移転が進んでいる。
第2に、決済の工夫など為替対策の進展だ。ソニーは輸出で得た外貨収入と、輸入で生じる外貨の支払いを同じ通貨で相殺する「マリー(marry)」と呼ぶ手法を2000年以降、本格化。グループ内の為替・資金管理を一元化する会社をロンドンに設立した。
第3に、通信や建設など、為替の変動に左右されにくい非製造業が成長していることも影響していそうだ。非製造業の経常利益(金融含む)は19年3月期は26兆円の見通しで、製造業(24兆円)より多い。09年3月期以降は製造業を上回る状態が続く・・・

なるほど。「日本の経済は輸出依存」は、誤解ですね。個別企業に聞くと、業績の悪い企業は円高を理由に「困った」と主張するでしょうが、業績の良い企業は「黙っている」でしょう。原文をお読みください。